稲蔭研との産学協同プロジェクトでグッドデザイン賞を受賞した株式会社カヤック。全員がクリエイターと名乗るこの会社には、SFC卒業生も多く在籍している。創設メンバーの1人であり、代表取締役の柳澤大輔さん(96年環卒)に、生い立ちや物を作る事に対しての視点、これからの展望について聞いた。

柳澤大輔さん

96年に環境情報学部を卒業後、Sony Music Entertainmentに就職。2年後に退職し、高校・SFCで出会った友人、貝畑政徳氏・久場智喜氏とKAYACを設立。
編集部:SFCに入る前はどんなことをされていたのでしょうか?
 慶應高校の自動車部という体育会に所属していました。車が好きかというとそんなことはなくて(笑)。日本に1つしかない部だっていうのと、高校で体育会っていうのが面白いと思って入りました。勉強は結構頑張っていて、医学部以外ならどの学部でも多分進学できた、というくらい。
 
 当時の漢文の先生が面白い方で、その先生が「SFC面白いよ」といった話をしてくれたんです。それで興味をもって見学してみたら、先輩たちが生き生きしていて面白いなと思ったのがSFCに入るきっかけです。あと、やっぱり家から近かったことや、新しいもの好きっていうのもありますね。3期生なので(笑)
編:SFCに入る前も、クリエイティブな事に興味はあったんでしょうか?
 やっぱり作ることや企画が好きでしたね。例えば、小中学校のころはお楽しみ会の企画をしたりとか、自分で演出した芸術作品を作ったりとかしていました。
編:SFCに入ってからは、主にどんなことをしていましたか?
 勉強は普通にしていて、成績も良かったです。武藤先生のゼミでニューラルコンピューティングっていうのを研究してましたね。あとはバイトと遊びだけですね。きわめて一般的な学生だったと思います。
編:その時から起業するぞ! と意気込んでいたわけではない?
 ないですね。毎日無理せず楽しく生きてましたね。休みになるとほとんど旅行してましたし。
編:活動的だったんですね。
 バックパッカーでしたね。4年生になるとほとんど授業とらなくていいから、海外に行ったりしてました。起業をしたくて、社会に早く出ていこうっていうタイプではなかったですね。
編:学生時代に特に楽しかったことや辛かったことってありますか?
 かなり昔の話だからなぁ…(笑)。まぁ、毎日が楽しかった。辛かったことは無いですね。でも今も毎日が楽しいので、学生に戻りたいかって言われれば戻りたくないですね。
編:おぉー。授業の成績も良かったとのことですが、これも特に辛いということはなく、楽勝という感じで?
 そうですね、要領がいいほうだと思うので…。就職活動も結構うまくいって、
大体受かっちゃってて。受かってからのほうが、どこに行こうかとか、働くことっ
て何だろう、とかいう風に悩みましたね。
編:いったん就職した後に、脱サラして起業されたということですが、このプランは学生時代から決めていたことだったんですか?
 そうですね。一緒にカヤックをつくった友人と、数年後に会社をつくろうと約束をしてから就職をしましたから。
編:会社を辞める時、惜しくは無かったですか? 
 惜しくはないですね。ただ2年間投資してくれた会社に申し訳ない気持ちはありました。
編:その後、一緒にKAYACを立ち上げたお2人とは塾校・SFCで出会ったとのことですが、そのきっかけ・出会いを教えてください。
 まず高校で出会った貝畑は麻雀つながりですね。2年生の時からの知り合いで、僕はよく授業サボって麻雀やってたんですけど、貝畑は無遅刻無欠席で。だけどまぁいいじゃんって言って誘って(笑)。それから麻雀仲間になったんですけども、考え方が似てたのでその頃から何か一緒にやろうよって話はしてましたね。
 貝畑はSFCが第一志望の学部じゃなかったんですが、SFCに来ることになって、たまたま僕と一緒になったんです。それでもう1人仲間を見つけようという話になって、久場を見つけたのが1年の時。最初の体育の授業で「変なやつが来たなー。」と思って、その日のうちに結構話し込んで仲良くなりました。で、その年の6月に3人で沖縄に行って、何かしようよって話しましたね。
編:一見3人とも全然違うタイプに見えますが、やはりウマが合ったのでしょうか?
 そうですね、ほんと偶然だと思いますけども。出会った当初より皆成長していってるし、毎年尊敬の念を深めてます。
編:逆に、長く一緒にいるといやな面が見えてきたりとかしそうだな、と思ってしまうのですが…。
 うーん、いやな面は無いですね。もう尊敬の念しかないです。だからってぶつかっていないわけじゃなくて。むしろ深い部分では前よりもぶつかっているんですが、でもやっぱりそれぞれ人間性が素晴らしいし、成長していってるから良い関係を築けているんだと思います。
 基本的には皆「自己責任」で、依存していないんですよ。自分がどうにかしなきゃいけないと皆思ってるから、あんまり人のせいにしない。多分友達と何かをやる時のポイントは、人のせいにしない人と組むことですね。
 3人とも、何かを誰かとやってる時に、「面白い」と感じるポイントとか、「これはかっこ悪い」と思うようなポイントが一致するんです。そこがずれていると、どう頑張っても難しいですね。

柳澤大輔さん

編:KAYACでは、殆どの社員の方がクリエイターとの事なのですが、"クリエイティブ"にこだわる理由とは何なのでしょうか?
 ものを作る時って、悪いこと考えないなと思って。自分がいい人になるなーと思って(笑)。そういう人を増やしたら、世の中良くなるんじゃないかなーってところですかね。
編:柳澤さんご自身も、取締役兼クリエイターということで、今も何かものづくりをされているんですか?
 今は手を動かしてデザインとかはしていないけど、企画を立てたりブレストしたりっていうことはやってます。
編:取締役と聞くと、会社の経営などさまざまな業務で忙しそうなイメージで、それとクリエイティブさを同時に持ち合わせるのは大変そうに思えます…。
 僕自身はまだ作りたいものがたくさんあって、1クリエイターとしてもまだ諦めていないから、何か定期的に作るって決めているんです。1年にできるプロジェクトの数ってのは限られちゃうんですけど、でも必ずやるって決めていて。そこに対する意欲が無くなったら自分としては駄目だなと思っているので、そのためにどうしたらいいかって考えながらやってます。
 1つは、いろんなものを見るって事ですね。人の作ったものを見てるとこっちも何か作ろうという気持ちがわいてきますし。僕自身も、誰かの下で働こうと思った時に、経営者がそこを諦めてる人だったらやっぱりついていかないなと思って。
 経営とか、マネジメントにもクリエイティブさはあると思ってて、例えばサイコロ給のような制度だとか、このオフィスだとか、それも1つの作品だと思っています。だから僕の中では常に作り続けてる印象ではあります。
編:さっき何かをする時には一緒にやる人が大事というお話がありましたが、その他に大事にしていることは?
 自由とか自立をすごく大事にしてます。人間と人間っていうのは対等なので、自分のやりたい事とかを誰からも否定されるべきではないし、肩書き的には社長と社員という関係だとしても、やっぱり対等にありたいと。
 あとは個性を大事にすることです。ちょっとしか長所が無くて、他はてんで駄目な人がいたとしても、その長所を伸ばしていけば皆の役に立っていく人になるかもしれない。そういう人をかき集めて、どこまで面白い組織を作れるか。
 できることできないことを突き詰めていく、っていうのは、「何をするか」にも繋がっていくので、何が強くて何が弱いかを見極める事は重視しています。カヤックっていう会社を社会的に見た時にも、どこが得意なのかというのをはっきりさせて、できることとできないことを突き詰めていく。他の会社もそうなれば、お互い補い合えていい社会になるんじゃないかと。
編:学生時代に得たものや学んだもので、今役に立っているものはありますか?
 人脈はもちろんあるよね。SFC生が採用試験を受けてくれたりとかもしますし。あとSFCは早くからインターネットの分野に力を入れていたので、他の学部に比べて早く触れられたことは良かったと思います。隔離された空間だったから、勉強せざるを得ない環境だったのも(笑)
 まあ良くも悪くも3期生だったので、SFCもできたばっかりで変わり者が多くて。それもよかったなぁと。
編:稲蔭研との産学共同プロジェクトでグッドデザイン賞を受賞されていましたが、こういった慶應の研究室とのプロジェクトは続けていきますか? また、どういったことをしているのですか?
 産学協同ではありませんが、植物が書くブログ(*1)といったコンテンツを、SFCの研究室と一緒にやっています。SFCとは距離も近いし、母校だから、これからもやっていきたいと思う。

産学協同プロジェクト「閃考会議室」 産学協同プロジェクト「閃考会議室」

編:今までは、過去、現在について聴かせていただいたのですが、次はカヤックや柳澤さんご自身のこれからの展望についてお聞かせください。
 会社としては、経営をしっかりとやっていくこと。単純なことではあるけれども、笑顔の絶えない職場にしていきたいです。規模が大きくなっても、普通にならないでいきたいと思うので、勤務曜日、勤務時間をなくすこともしていきたいと思う。人間の尊厳を重視して、ルールで縛らないようにしていくことが目標。
 個人的には、1クリエイターとしてまだ成長していきたいので、自分自身もクリエイティブな活動をしていきたいと思います。
編:最後に、SFC生に向けてメッセージがあればお願いします。
 僕は慶應義塾高校、大学と進学して来たけれども、早慶戦とか出たりしないタイプだったので、それほど慶應に対する愛着はなかった。でも、卒業後に起業してから、世の中の慶應の先輩から良くしてもらったりしたんです。
 SFCはそういうところが薄いかなと思って。そういうドライさもSFCの良い所なんですが、僕も慶應のそういう文化に助けられたことがあるので、SFCの中でも取り入れていって、そんな流れを作れたらいいなと。僕自身後輩には良くしてあげたいですし、同じ卒業生もそうしてくれたらいいんじゃないかなと思います。
編:ありがとうございました。