このコーナーでは、SFCの学生ならば読んでおくべき本2冊を、SFCの各分野の教授から隔週で推薦していただきます。
 第1回目は、中島洋先生(政策・メディア研究科教授)に推薦していただきます。今回は中島先生推薦の2冊のうち、まず1冊目をご紹介。2冊目は再来週にご紹介いたします。


 ――― 中島先生、ご推薦の本 ―――
 ■■ 『善の研究』 西田幾多郎(著)岩波文庫
 実利的な世界への関心が極めて強いSFC生にぜひとも読んでもらいたい本を挙げるとすれば、1冊は西田幾多郎著「善の研究」だろう。
 西田哲学は東洋的な直観的思考プロセスの中に西洋思想を位置づけた独特の形をもっているが、「善の研究」はその出発点を記す処女出版作である。後年、展開される難解な西田哲学の内容が凝縮してここに表現れている。過去を振り返るのも、未来を予想し、夢見るのも、いま現在、ここにおいて思考する自分の意識の中に存在する。時に、じっと、自分の行動を振り返って静かに思考をめぐらすときに、この存在の不思議に圧倒されるだろう。
 「善」を研究するのが本書のテーマだが、元々、旧制高校の講義をもとにまとめられたものなので、考える前提となる古典から近代までの思想の点検が行われていて、この1冊だけで古典から近代の哲学まで、一応、基礎的な知識が得られる。この出発点において、西田哲学が最も大きな影響を受けている西洋思想は何か、といえば、やはりカントの哲学のようである。
 抽象的な思考にしばらく遠ざかっていた学生諸君にとっては、やや歯ごたえがあるかもしれないが、技術のもつ破壊的な現状変革エネルギーに疲れた時には、心と思考をともに癒す一生の書物になるだろう。
【中島洋(なかじま・ひろし)氏】
 1947年生まれ。東京大学大学院修士課程(倫理学専攻)修了。73年日本経済新聞社入社。 編集局産業部で貿易問題、中小企業、農業・食品産業、情報通信産業、経団連などを担当。途中、日経マグロウヒル社(現日経BP社)へ出向して「日経コンピュータ」「日経パソコン」両誌の創刊を担当した。89年から日本経済新聞編集委員。97年に日本経済新聞社を退職し、同年6月、塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。2001年には、インターネット博覧会(インパク)政府企画のプロデューサーを務める。そのほかにも、国際大学グローコム教授・日経BP社編集委員などを兼務。著書に「マルチメディア・ビジネス」「イントラネット」(以上ちくま新書)など。