世界初の「社会シミュレーション」に関するテキストとして注目されている「社会シミュレーションの技法」(ナイジェル・ギルバート他著)が、SFC卒業生による翻訳で日本にて出版された。これは、研究グループ「Boxed Economy Project」のメンバーである、井庭崇さん(総合政策学部非常勤教員・SFC4期生)、岩村拓哉さん(6期生)、高部陽平さん(7期生)の翻訳によるもの。


 本書が扱う分野の授業「企業と市場のシミュレーション」の担当教員でもある井庭氏は、SFC CLIP 編集部の取材に対して、「社会シミュレーションの分野は、非常にSFC的な分野なので、ぜひどういうものかを知ってもらいたい」と語っている。
[井庭崇氏のコメント全文]
 本書のテーマである「社会シミュレーション」というのは、コンピュータを用いて社会現象を理解・予測する方法です。このようなシミュレーションによる社会分析の方法は、近年大きく発展し、パソコンの普及とともにますます一般的になりつつあります。社会シミュレーションでは、不透明で複雑な政治・経済・社会について理解したり予測したりするために、コンピュータ上にモデルを作って分析します。複雑なモデルを扱うことができ
るので、これまでにはできなかった新しい分析が可能となるのです。
 本書でぜひ、社会シミュレーションという「思考のための道具」について、知っていただければと思います。社会シミュレーションの分野は、非常にSFC的な分野なので、ぜひどういうものかを知ってもらいたいです。
[本書概要] 

『社会シミュレーションの技法:
 政治・経済・社会をめぐる思考技術のフロンティア』
 ナイジェル・ギルバート/クラウス・G・トロイチュ (著)
 井庭崇/岩村拓哉/高部陽平 (訳) 定価 本体2,800円+税
 日本評論社, 2003年

第1章 シミュレーションと社会科学
第2章 手法としてのシミュレーション
第3章 システムダイナミクスと世界モデル
第4章 ミクロシミュレーションモデル
第5章 待ち行列モデル
第6章 マルチレベルシミュレーションモデル
第7章 セル・オートマトンモデル
第8章 マルチエージェントモデル
第9章 学習と進化のモデル
付録A Webサイト

【序文より】
本書『社会シミュレーションの技法』は、社会問題や経済問題をシミュレーションによって探求し理解するための実践的なガイドである。いったいなぜ社会科学においてコンピュータ・シミュレーションが用いられているのかということを説明した上で、社会シミュレーションのいくつかのアプローチを具体的に解説していく。本書を読めば、あなたもこの分野の文献を理解できるだけでなく、自分でシミュレーションを作成できるようになるだろう。・・・

【取り上げるシミュレーション例】
結婚相手選び/ホッブズの自然状態(タカ-ハト-遵法者モデル)/世界モデル/世帯のミクロシミュレーション/企業のミクロシミュレーション/税制改革のインパクト分析/将来の介護需要の予測/空港における乗客の流れ/行政機関の業務プロセス/世論の形成/性別による分離/ライフゲーム/パリティ・モデル/うわさの伝播/流行の伝播(多数派モデル)/国家間同盟の創発/人種の分居/単純な経済社会(Sugarscape)/蟻の巣における社会創成/社会の複雑さの成長/共有されている語彙の学習/利他的な行動の進化/繰り返し囚人のジレンマ/家計のやりくりの進化

【著者紹介】
●ナイジェル・ギルバート (Nigel Gilbert)
イギリスのサリー大学社会学部教授、および1998年より副学長。社会学や社会心理学、経済学、考古学などのプロジェクトにおいて、研究手法としてシミュレーションを用いてきた。Ph.D (ケンブリッジ大学:科学知識の社会学についての博士論文)。社会シミュレーションを対象とした電子ジャーナルJournal of ArtificialSocieties and Social Simulationの編集長。編著書:Simulating Societies (1994)、Artificial Societies(1995)、Social Science Microsimulation (1996)、Computer Simulations in Science and TechnologyStudies (1998)、Understanding Social Statistics (2000)、Tools and Techniques for Social ScienceSimulation (2000)など多数。
●クラウス・G・トロイチュ (Klaus G. Troitzsch)
ドイツのコブレンツ・ランダウ大学コンピュータ科学部教授。シミュレーションを社会科学に応用したドイツのパイオニアである。社会シミュレーションを対象とした電子ジャーナルJournal of Artificial Societies andSocial Simulationのフォーラム編集長。編著書:社会学や政治学を中心として、Modelling and Simulation inthe Social Sciences from the Philosophy of Science Point of View (1996)、Social ScienceMicrosimulation (1996)、Tools and Techniques for Social Science Simulation (2000)など多数。