どうなる、反日感情? -「日中摩擦」とメディア シンポジウム開催-
メディア・世論・外交の相互連関を軸にすえ、日中摩擦の本質に迫ることを目的とする公開シンポジウム「『日中摩擦』とメディア」が13日(火)、開催された。慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所(以下、G-SEC)と朝日新聞との共同主催によるもので、元外務審議官の田中均財団法人日本人国際交流センターシニアフェロー、加藤千洋朝日新聞社編集委員両名の基調講演が行われたほか、両氏を交えてのパネルディスカッションなどが行われた。学生をはじめ、多くの聴衆が集まり、パネリストたちの話に聴き入った。
会の冒頭、アフターブ・セット G-SEC所長の開会挨拶が行われた。「このシンポジウムのテーマは時を得た研究課題」としたセット氏は、日中間の経済的、学術的交流の深さにも関わらず、政治的関係が政治的論争や誤解によって損なわれていることを指摘。今回の朝日新聞社との共同研究の意義について語った。
続けて、吉田慎一朝日新聞社常務取締役の挨拶が行われた。吉田氏は、現在を激動の社会とした上で、ジャーナリズムとアカデミズムの世界を結んで何かできないかという考えのもと、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所との共同研究がはじまった経緯について述べた。その上で「日中関係のねじれというのは、欧米でも大きな焦点となっている。そこにはメディアとの関係は切り離せないものとなっている」と述べ、日中関係におけるメディアの役割の重要性を指摘した。
続く基調講演ではまず田中均氏が登場し、はじめに「私なんかはメディアから散々バッシングされた。メディア・世論と外交の関係を話すにはちょうどいい人間なのではないか」という自身の体験を紹介、会場を沸かせた。元外務審議官という立場から、広く外交・世論・メディアについて講演は展開され、日本外交の歴史的背景から現在の中国における反日運動にわたるまでその内容は多岐にわたった。
その中で田中氏は「今、日本において必要なのは原則である」と主張し、現在の日本政府の外交手法において疑問を呈した。さらに、中国人民の反日運動に対しても言及し、「中国の愛国教育は諸刃の剣」として、中国政府が反日運動を強権的に取り締まった場合におけるそれが反政府運動に変わる可能性や、国内世論の反日感情と国際世論からの批判における板ばさみ状態にあるなどの見解を述べた。
続いて二人目の基調講演として加藤千洋氏が登壇した。加藤氏は「インターネットが日中の関係を左右しかねない状況にある」として、中国の指導者もネットによって情報を集める時代になっているという話を紹介、ニューメディアであるインターネットが、日中関係において重要な位置にあることを述た。
これに関連して、中国人民におけるインターネットなどの急速な情報端末の広がりについて語った。これらの情報端末により、政府がメディアの情報統制をしていた時代とは情報環境が変わりつつあり、下から上への情報の流れができていると論を展開した。さらに、「中国のメディアに必要なことは二つ」とし、中国の閉鎖的体質の改善と日中メディアに双方に対して、「多様な姿を伝えていかなければならない」と主張した。
基調講演の後、G-SECの大石裕法学部教授と東京大学大学院の祁景(き・えいえい)氏の研究プロジェクト発表を挟み、研究員と基調講演を行った田中氏と加藤氏の両氏を交え、山本信人法学部教授が司会となりパネルディスカッションが行われた。
パネリストとして参加していた添谷芳秀 法学部教授はディスカッションの冒頭で、これまでの議論のまとめを行い、「中国の外交は非常に戦略的であるのに、日本の外交には戦略性が感じられない」として、日本外交の不備について指摘を行った。これに対して、田中氏は「中国のできることと日本
のできることは違う」として、両者の政治体制の違いについて言及し、その上でどのように日本として戦略性を持つことが重要かを考えなければいけないと述べた。また合わせて日本における「原則」の重要性についても語った。
また加藤氏は、中国のアジアカップの際の中国での暴動が何度もテレビなどで流されたことに言及
し、メディアが多角的報道をする難しさなどを語った。大石氏もこのことをについて述べ、「日本における中国報道では多角的な報道がなされていない」とし、「多角的報道を続けることによって、突発的な事件などが起こってもそれを抱擁する感覚を養うことが重要なのではないか」と締めくくった。