SFC在学中に世界一周旅行を敢行し、10万枚もの写真を撮影。よみうり写真大賞報道部門2席などを受賞し、世界一周中の写真集も発売されている。そんな蓮村さんに、生い立ちからSFC在学中の話、創作に関する話を聞いた。


 蓮村さんは03年度にSFCに入学。稲蔭正彦研究室などに所属し、映画撮影などを行ってきた。3年秋学期の終わりに、世界一周撮影旅行に出発。旅行中、停戦直後のレバノン・ベイルートで撮影した写真「ベイルート瓦礫の中で」が第28回よみうり写真大賞報道部門の2席を受賞した。
 世界一周中に撮影した写真は現在写真集として販売されているほか、旅の様子は蓮村さんのブログや、SFC CLIPでの連載「標高190センチメートル」でも読むことが出来る。
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■生い立ち

蓮村俊彰

編:子供の頃はどんな子供でしたか?
 アメリカで生まれて日本で育ったので、lukeというミドルネームがあるんですよ。父親がスターウォーズ好きで、主人公のルークスカイウォーカーからとった名前だったんですけど。スカイウォーカーほど正義感に溢れていたわけでもなく、悪ガキでしたね(笑)
編:子供時代の経験で、現在の自分に影響を与えているようなものはありますか?
 小学校2年生のころから剣道を習っていたんです。そこがすごくスパルタなところで、ぼこぼこにされてましたね(笑)
 そこの先生の口癖が、「もうだめだ、限界だ、って思ったところからの稽古じゃないと身にならない」っていうもので、限界って感じたところまでは稽古じゃなくてただの前フリなんだって。辛かったー(笑)
編:お話を伺っていると、結構体育会系な印象を受けるのですが。
 幼少期で体育会系のスピリッツを刷り込まれたけど、中高の剣道部は礼儀を学ぶことや自立精神を育てることを重視してて、運営も学生がやってたんだよね。だからそんなに厳しくなくて、そこから先はずっと文化系でしたね。
編:写真を撮り始めたのも、中・高生あたりからですか?
 写真の前に絵を描いてました。母親が美大出身だったので、たまに教えてもらったりして。でも中学生のとき、自由研究で絵を描いていると、母親に「あれが違うこれが違う」とか言われて大喧嘩になって、もういい、描くのやめた、って(笑)
 写真を始めたのはは高3からかな。美大が楽しそうだなと思って河合塾の美術校舎に通い始めて、そこの先生に写真も少し教えてもらってたんですよね。家に全然使ってないミノルタの一眼フィルムカメラがあったから貸してもらって、写真を撮って先生に見せたりしていたら病み付きになって。

■SFCでの話

編:東京芸大にも合格されていたとのことですが、なぜSFCを選んだのでしょうか。
 東京藝術大学美術学部先端芸術表現学科と、SFCのAO入試を両方受けました。受験方法が似ていたんですよね。最初は芸大が第一志望だったけど、SFCのことを調べていたら稲蔭先生のゼミでデジタルシネマをやってることを知って、入学する前に一番やりたかったのは映像だったから「あ、こっちのほうがいいかもしれない」と思ってSFCにきました(笑)
稲蔭先生がいなかったら芸大行ってましたねー。入学したら稲蔭研に即もぐってたからね(笑)
編:福田和也研にも所属されていたとのことですが。
 今販売している写真集の原型みたいなものを家のプリンターで刷って、先生に見せたりしてました。本とか雑誌をつくるゼミなんだけど、俺はひたすら我が道を行って(笑)福田先生は優しくて、写真集持っていったら色々教えてくれましたね。
編:SFCで一番楽しかった事は?
 やっぱり稲蔭研かなぁ、友達もいたし、1年生で入ったときは先輩にかわいがってもらったし。毎年過労で倒れる人が出るようなえぐい研究会だったけど(笑)まぁそれも楽しいんですけどね。
編:SFCで得たものや、学んだことってなんだと思いますか?
 SFCは授業の自由度が高くて、特に体系立ったコースがあるわけじゃないですよね。目の前にいろんなレゴのパーツ(=授業)が散らばってて、好きなもの選んで作りたいものを作っていくような感じで。だから夢なり目標なり、作りたいものが頭の中にないと何も作れない。目の前のパーツを、自分の作りたいもののどこにはめるかまで決めないと駄目だっていう意識を、SFCにいると持てるようになるよね。
 それって社会に出てからも同じで、自分が将来どういう人間になりたいかを考えてあれば、仕事のプライオリティがつけやすくなる。プライオリティをつけないと全部半端になっちゃうから。

■世界一周の話

蓮村俊彰

編:世界一周中に、人間関係なども含めて、SFCで得たものが役に立った場面は?
 いっぱいありますよ! 外国に住むSFC生のところに泊まらせて貰った事もあるし。一人で何十キロもある機材を背負って世界を歩いてると、だんだん欝っぽくなってくるんだけど(笑)やっぱりそういう人達には精神的に癒されます。
 あと、iPodを持ち歩いてたんだけど、曲の更新が出来なくて。それをmixiに書いたら、SFCの先輩が6000円分くらいチャージしたiTMSのアカウントをくれたんだよね。あの時はもうウルウルしながらiPod更新しました(笑)
編:世界一周してよかったなと思う事は?
 最近よく思うのは、物事に動じなくなったってことですね。新入社員と思われないこともあるし…。
 適応能力が高まった、というより、適応しなくても気にしないタフネスさが身についた(笑)世界を見てきたことで、色んな可能性の選択肢を体感できたからかな。たとえば、日本で暮らせなくなっても、あの国なら暮らせるな、みたいな事を具体的に考えられる。

蓮村俊彰

編:世界一周中に撮影した写真を掲載した写真集を発売されたそうですが、発売までの経緯を教えてください。
 世界一周は、スポンサーというか、クライアントになってくれた会社があったんです。撮ってきた写真を使う代わりに経費は出すよ、みたいな感じで。その会社の繋がりで、コンテンツワークス社が新しく始めるオンラインでのアルバム販売のサービスにコンテンツを提供してくれないかと言って頂いたのがきっかけです。
編:写真集の見どころは?
 写真です(笑)おこがましいかもしれないけど、俺の写真を見て、そういう場所があることを知った人が、その場所の色んな写真や番組を見たりして、さらに情熱が高まってきたら実際にその場所に行って、感動してくれたら嬉しいかなぁー。

■写真の話

蓮村俊彰

編:撮っていて特に楽しいものってなんでしょうか。
 割と何を撮ってても楽しいけど、やっぱり楽しいのは人間とか、見たこともないような風景を撮る時です。
 カメラの腕前って多分2種類あって、撮影技術の巧さと、もう1つは被写体を見つけてくる能力だと思うんだよね。俺みたいに、特にカメラの専門学校とかに行ってない人間がオートで撮影したような写真が賞を頂けるのは、誰も行かないような所に行って撮ったりだとか、誰も考えなかった新しいコンセプトで撮ったりしているからじゃないかと。
編:何回かフォトコンテストで受賞されていますが、写真で食べていこうと考えた事は?
 あるにきまってるよ(笑)世界一周した時、この旅行をただの消費行動じゃなくて投資にしたかったんです。現地で撮った写真や、見た風景を絵に描いて売ったり、現地調達したものを日本で売ったりすれば、旅行したことから生まれたお金でまた旅行にいける。そういうサイクルを作りたかったんだよね。カメラマンなら、そのサイクルが出来るかなと思って。
 でもその前に、なんで世界一周したかって考えてみると、まだ知らない世界、今まで知らなかった空間を見てみたかったからで。それと会社に入るっていうのは自分の中で同じベクトルだったんです。それで、色々な業種に触れられるような会社を選んで入りました。
編:写真を撮る時に、一貫して考えているテーマなどはありますか?
 目の前に存在してるのに、決してその真髄に触れられないようなものがある時、写真を撮ることでそれを少しだけ分けてもらえないかな、というような事を考えてます。
 
 たとえば、ヒマラヤ山脈の麓に住む人達の表情を撮る時。彼らは日本で育ってきた自分には知り得ない世界観をもっていて、それには触れることが出来ない。でも、わからないなりにも写真に写すことで少しそれを分けてもらえるんじゃないか、という。
 風景を撮る時はまたちょっと違って、自分の心の中に原風景というか、デジャヴに感じちゃうような風景があるんですよ。子供の頃見た「銀河鉄道の夜」のアニメとか、「世界ふしぎ発見」で見た風景とかの影響で、昔から心の中に原風景みたいなものが刷り込まれていて。
 イスラム教徒はメッカに行くと感極まって泣いちゃうことがあって、俺は無宗教だからそういう感覚は分からないけど、自分にもそういう、感極まって泣いてしまうようなまだ見ぬ土地がどこかにあるんじゃないかとちょっと思っていて。そういう土地の候補みたいな場所があって、そういう場所を写真に収めておきたいなという思いがあります。
編:世界を回っていてそういった風景は結構ありましたか?
 けっこうあったけど、「これだ」っていうのは無くって。というのも、色んなところを見て回ってると、自分の中の原風景がそれらに影響されて変わっていっちゃうから。
 昔、絵を描き始めたのも、そういう風景をフィクションの中で描いて再現したいっていう動機があったからなんだけど、それは挫折したって言ってもいいと思うな。次はノンフィクションな世界の中で、それに近いものを探すっていうアプローチになって、でも色々回ってみて無さそうだなという確信が持ててきたから、そろそろフィクションに戻ろうかなとは思うんだけど、とりあえずは食い扶持を繋がないといけないから(笑)まあこれはライフワークですね。
編:これからはどういった写真を撮りたいか、どういった創作活動をしたいか等の、展望はありますか?
 世界一周中に10万枚くらい撮ったものがあるから、暫くはそれのエディティングをしたいなと。10万枚をデータベース化して、全部検索できるようにしたいですね。
 あと、スタジオで人物を撮影するようなのはやったことがないから、そういうのもやってみたいかな。自分が撮ってきた風景と合成しても面白そうだし。

蓮村俊彰

■さいごに

編:SFC生である間にやっておくべきことってなんでしょうか?
 学生時代に色々試しておくと、本当のチャンスも、自分が何に向いてるのかもわかるようになると思うんです。たとえば、稲蔭研で映画を1本撮った時に、自分は映画監督に向かないんじゃないかっていうのが分かって。これで食っていく、というイメージが持てなかったんだよね。でも、そこで監督やらないで就職してたら、ずっと監督やりたいって思ったまま、脱サラして夢追い人になっていたかもしれない。
 だから、SFCでやるべきことは、たとえばデザイナーになりたいならデザイナーのバイトをやったりしてみる。で、実は世間のイメージほど華やかな仕事じゃなくて、大変な面もあることを知って、それでもやりたいと言えるか考えるって事。憧れをとりあえず現実にしてみるっていう作業は学生のうちに全部やっておいたほうがいいです。
 デザイナーやクリエイターを目指す人は、就活するまえに現実を見ておいたほうがいいです。そうしていくことで、将来の自分の予想図っていうのも見えてくると思うから。
編:映像・写真やデザインに携わるSFC生に一言お願いします。
 ど根性ですね(笑)技術とか才能って気になると思うけど、それよりも一番大切な絶対条件はモチベーションだと思うんです。技術とかは後からついてきますから。
 映画監督を目指して、でも才能がないって気づく瞬間もあるかもしれないけど、モチベーションをもって取り組んでいれば、技術も人脈もできてるだろうから、映画関係でかなりいい仕事が出来ると思うんです。
 このモチベーションとか意志っていうのは、ダイエットの時みたいな苦しい意志、辛い努力じゃなくって、好きだからこそ頑張れるっていうような、楽しい意志なんだよね。そうじゃないと続かないし、続けちゃ駄目だと思う。それでうつ病になって死んじゃったりしたら意味がないし。好きで好きでたまらない気持ちがすごく大事かな。当たり前なようでそれが一番難しいかもしれないけど。
 でも好きだからってそればっかりやってればいいって話でもなくて。クリエイターって必ず人間に向けて何かを作る、ある意味客商売だから、自分以外の人間もちゃんと知っていて欲しいと思う。ずっとひきこもってイラレだけいじってるんじゃなくて(笑)ちゃんと友達もたくさん作って欲しいですね。自分が成功して喜んでくれる友達が居れば、モチベーションも上がるからね。