大学院プログラムGR講演会「責任という虚構」Part.2
 今月発刊予定『責任という虚構』(東京大学出版会)の著者である小坂井敏晶さんによる講演会が開催されます。どなたでも参加できますので、当日会場までご来場ください。


日時:7月9日(水)13:00-14:30(予定)
会場:慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス エプシロン11教室
講演者:パリ第八大学心理学部准教授・小坂井敏晶氏
主要著作:『民族という虚構』(東京大学出版会、2002年)。
【講演概要】集団責任と同一化
 人間が主体的存在であり、自己の行為に対して責任を負うという考えは近代市民社会の根本を支える。殺人など社会規範からの逸脱が生じた場合、その出来事を起こした張本人を確定し、その者に責任能力が認められる限り、懲罰を与える。人間が自由な存在であり、自らの行為を主体的に選び取るという人間像がそこにある。
 他方、人間が自律的な存在ではなく、常に他者から社会環境から影響を受けている事実を社会科学は実証する。行動が社会環境に左右されるなら、責任を負う根拠はどこにあるのか。
 各人の性格が行動の一因をなす事実を持ち出しても、この問題は解決できない。確かに人間の行動は外界の要因だけで決定されない。しかし人格という我々の内的要因も元を質せば、親から受けた遺伝形質に家庭教育や学校などの社会影響が作用して形成される。したがって私が取る行動の原因分析を続けていけば、最終的に行動の原因や根拠を私の内部に定立できなくなる。
 さらには、大脳生理学や認知心理学が明らかにするように、行為は意志や意識が引き起こすのではない。意志決定があってから行為が遂行されるという常識は誤りであり、意志や意識は他の無意識な認知過程によって生成される。
 今回の講演では、集団責任の論理構造に光を当て、行為の因果律とは別の原理によって責任が問われる事実を敷衍する。さらに責任概念・現象の歴史的変遷を視野に収めた上で責任の正体を明らかにしたい。