画期的かつ革新的な研究が顔を揃えるORF2014。ひときわ人を集めるブースがあった。加藤貴昭・永野・水鳥合同研究会(以下、加藤貴昭研)による「Human Performance Laboratory」(HPL)のブースだ。この研究会では、人間の様々な行動“ふるまい”を身体的・心理的側面から実験的に検証している。ORFでは、2つの体験型デモンストレーションと、グループワーク研究を紹介するポスター展示を実施した。

アナロジーラーニングでダーツの達人に!?

実際に紙飛行機を投げる実験も行う

まず目に留まるのは、ダーツを用いた計測のデモンストレーションだ。実際に来場者にダーツをしてもらい、同時に計測することで得られる身体運動のデータをもとにアナロジーラーニングを行う。
 アナロジーラーニング(Analogy Learning)とは、潜在学習の一つでもあり、身体内部のことではない何かをイメージすることで、無意識的に身体内部の運動学習を促進させ、実際のパフォーマンスを向上させる手法として注目されている。
 今回のダーツ計測は、来場者に様々なアナロジーを与えることで、パフォーマンスの向上を実際に体験してもらうことが狙いだ。実際、被験者である来場者に「紙飛行機を投げるようなイメージで」というアナロジーを与えた上でダーツを投げてもらうと、それまでのパフォーマンスに対して飛躍的な向上が見られたという。
 また、デモスペースには2台のモーションキャプチャカメラが設置されており、実際に来場者がダーツを投げている姿を撮影・計測している。その映像を多面的に解析することで、ダーツの点数という結果だけではなく、アナロジーがどのように作用しているのかを実証的に示すことができる。

アイトラッキングで「ありのまま」の目線を追う

被験者の視線の順番が一目でわかる

もう一つの体験型デモンストレーションは、tobiiテクノロジー社の眼球運動追跡(アイトラッキング)システムを利用して「自分の目線の軌跡を見る」というものだ。従来の大型デバイスを用いた計測とは異なり、パソコンの画面下に設置された装置のみで計測できることが特徴である。この計測により、パソコン画面に映し出される動画を視聴した後、実際に「どこを見ていたのか」という目線の軌跡や眼球の動きを瞬時に再現することができる。こうした計測データを利用することで、Webサイトのレイアウトデザインや新しいインターフェースの応用が期待される。 

スポーツ科学と人間工学の融合―実用的な手法を駆使することで新たな可能性が生まれる

スポーツ科学と人間工学を主なテーマとする加藤貴昭・永野・水鳥合同研は、その研究の幅広さが魅力だ。スポーツのパフォーマンス向上を狙ったエキスパートな研究から、日常生活の様々な生活行動の効率化を図る身近な研究まで、ユニークな研究が数多く存在する。また、義塾体育会に所属する学生も多く在籍し、一般学生とともに多方面で成果を出している。

来場者に対しHPLについて説明する加藤貴昭環境情報学部准教授

スポーツ科学と人間工学の融合という点に関して、学生幹部長の堀切優吾さん(環4)は、「一見乱立しているように見える研究でも、すべて人間のパフォーマンスを向上させることを目的にしている。どうやったらスポーツ技術が向上するか? どんな手法を用いればより高いパフォーマンスを出せるか? という点に留意し、研究に取り組んでいる」と説明した。
 体育会野球部に所属する藤井健友さん(環4)は、「自分が取り組んでいるスポーツに沿った研究をできるのがこの研究会の強み。実際の計測でも、より高度な技術を用いて良いパフォーマンスを出すことができるので、実践的かつ奥が深い研究ができる」と研究会の魅力を話した。

多くの個性的な学生が集まる加藤貴昭研究会

ブースには個性豊かな学生が多く揃う。デモの指導や研究の解説を独自の視点で工夫し、サービス精神たっぷりに来場者をもてなしていた。
 普段は気に留めることのない人間の“ふるまい”を多面的に科学する加藤貴昭・永野・水鳥合同研究会、HPLにますます注目が集まる。