ORF2014の2日目、22日(土)、セッション「2020年に向けて日本がやるべきこと〜五輪のレガシーを考える〜」が開催された。慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所(G-SEC)主催、ゲストに平将明内閣府副大臣を迎え、2020年に東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪)を開催するにあたって「レガシー(後世への遺産)」についての議論がなされた。

■プレゼンター
平将明(内閣府副大臣 / 衆議院議員)
竹中平蔵(G-SEC 所長 / 総合政策学部教授)
武山政直(G-SEC 副所長 / 経済学部教授)
田村次朗(G-SEC 副所長 / 法学部教授) 

前日に衆議院解散―アベノミクス主導 平氏の基調講演で幕開け

21日(金)、安倍晋三首相が衆議院の解散に踏み切った。セッション前日の出来事だったこともあり、解散の話題を皮切りに講演が始まった。基調講演では、安倍政権の歩みを追いながら、自身が携わった政策について語った。
 平氏は、「マクロ経済の司令塔」の呼び名を持つ経済財政諮問会議を設置し、アベノミクスを実行した人物だ。大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」を主とするこの取り組みが始まって以降、一連の政策が「アベノミクス」と総称されるようになった。

政策は一長一短―「悪い部分がクローズアップされがち」

アベノミクスの概略を説明した後、様々な側面からその功罪を述べた。金融緩和を受け、円安・株高となり、大手企業を中心に業績が上がった。また、雇用情勢も改善が見られた。しかし一方で、物価上昇に対して賃上げが追いつかず、実質賃金が下がったことにも言及した。一連の世間の反響に対し、「政策は良い部分も悪い部分もあるが、悪い部分がクローズアップされがちである」と平氏は締めくくった。

国より地方―肌で感じることができる政策を

平氏が掲げる地方創生についても熱く語られた。地方の人手不足に問題意識を持ち、地方版成長戦略の必要性を提示した。国益より人々の生活に着眼し、肌で感じることのできる政策が求められると力強く述べた。「国家戦略トップから地方創生トップを目指す必要がある」と強く呈した。

政策はどこに向かっているのか

続いて、竹中教授がプレゼンターに対し、2020年の東京五輪を視野に入れた今後の政策の向かう先について意見を求めた。

あの「東洋の奇跡」はもう来ない―国ではなく民間が主導すべき

田村教授は、「ジャパン・ミラクル(東洋の奇跡)を次の五輪で期待するのは危険だ」と指摘する。先の東京五輪(1964年)では、国が中心となり、招致に合わせて東海道新幹線や首都高速道路などの交通基盤が整備され、その後の日本の高度経済成長の起爆剤となった。しかし、今回は国が一生懸命になるのではなく一人ひとりが自由な発想で競争に参加したり、チャンスを与えたりすることが求められるという。その理由を、田村氏が専門にする交渉学の観点から述べた。交渉を通して、人が自分の能力で問題解決をしていくこと、正解がないものを求めて教育、議論して答えを出していくことが、今後の日本全体のあり方につながっていくと語った。

2020年に向けた指標づくりを―マクロとミクロの相互作用に注目

武山教授は、「未来に対する準備・投資は大事だが、その指標がない」と指摘した。国家戦略のトップダウンだけでなく、地域イノベーションのボトムアップの両方の動きを見て、実践に落としていく必要性を語った。また、マクロとミクロのダイナミックな相互作用も注目すべきだと加えた。これらの指標を、2020年に向けて同時に考えて行くべきであると述べた。

先進国となったいま、五輪の後に何が残るのか

竹中教授は、「オリンピック開催以降、国に何が残るかを考えるべき」と指摘した。アテネ五輪(2004年・ギリシャ)では、開催の後、財政破綻が残った。それを契機に、レガシーとレバレッジが重要視されるようになったという。五輪が国の発展の加速装置となることも重要だと述べた。先の東京五輪では、新幹線開通などがその役割を果たしてきたが、先進国となった今、民間が主体となってマクロとミクロ双方の観点から国の発展を意識すべきだと訴えた。

五輪がピークではダメ―2020年に囚われない長期的な見通しを

平氏は、「東京オリンピックがピークになってはならない」と指摘した。東京五輪以降、日本にどんなことが起こるのかというイメージを持つことの重要性を語った。特に、新しい電力供給の形として水素化社会の実現など、エネルギー問題の今後について意識すべきだと強調した。また、技術はもちろんのこと、「ガンダム」やロボット産業技術に表されるような、コンテンツで食べていけるような日本を作りたいと提示した。

来場者の質問にお答え「日本が問題解決の先駆けに」

終盤、プレゼンターは来場者から質問を募った。「2020年に向けて、社会保障の増強など、オリンピックを契機とする健康とスポーツの分野についてお伺いしたい」という問に対し、平氏は「高齢社会などを抱える課題先進国として日本が解決の先駆けになれる」と答えた。
 竹中教授は、「オリンピックをきっかけに国民にスポーツを少しでも興味を持ってもらいたい」という、あるアスリートの声を届けることによって、制度の変革だけではないという視点を加えた。
 武山教授は、「コミュニティ創りの観点から、人のつながりができているコミュニティほど長続きし、健康につながる」と話し、民間の声から、ボトムアップの動きをどれだけ盛り上げていけるかが重要だと述べた。
 

最後に4人から提言

武山教授「オリンピックは形のある部分を意識しがちだが、目に見えないインフラの部分こそ強化の動きが必要だ。世の中の仕組みがレガシーとして残されるべきだ」

田村教授「今後は人が非常に重要なキーワードになる。今回のオリンピックを契機に、日本人の魅力を押し出すべきだ。交渉や集団意思決定の力をもっともっと発揮して、東京で開催する素晴らしさを伝えていく」

平氏「日本全体の魅力アップが地方創生につながる。地域に眠るチャンスを見つけ、ぜひ地域を豊かにすることを人生の選択肢に加えてほしい」

竹中教授「アインシュタインの名言にあるように、今後の日本の発展に寄与するのは、知識ではなく想像力だ」

五輪開催のみに目を向けて行動するだけで終わってはいけない。五輪をきっかけと捉え、以降の日本の発展のために、私たち一人ひとりが行動を起こす必要がある。ほぼ満員のホールに、力強い提言が飛び交うセッションであった。