3回目のORF出展となる牛山潤一研究会、かたや今秋開講されたばかりの藤井進也研究会。共同で出展(A08)する両研究会に共通するテーマは「身体運動の神経科学」だ。神経科学にまつわるさまざまな研究成果を展示しているが、特に身体に関するテーマとあって、体験型の展示も多くみられる。

3年目のORF 開講から積み重ねてきた成果を 牛山潤一研究会

開講から3年目となった牛山研。弊部でも取材した1年目のORF2014展示では、開講されたばかりの新しい研究会だったこともあり、「牛山准教授がこれまでやってきた研究」や「これから牛山研でやっていきたい研究」の紹介という色が強かった。しかし3年目の今年はしっかりと"牛山研として"の研究成果を披露できると牛山環境情報学部准教授も意気込んでいる。

あなたはイメージ通りに動けてる? 「運動イメージの個人差」

研究成果がポスター形式で展示されている 研究成果がポスター形式で展示されている

鳥山央人さん(総4)は「運動イメージ」をテーマに研究を進めている。スポーツや楽器演奏における練習とは、まず「こう動けたらいいな」という個人が理想とする運動イメージがあり、そこに実際の動きを近づけていくことだと考えると、個人にある運動イメージの時点で差があった場合、それはその時点で練習の効率に差が出ることを意味するのではないかと考えた。

ひとえに運動イメージとは言っても、一人称的に、身体感覚をもとに動いている自分を思い描く「体験イメージ」と、三人称的に、動いている自分を第三者視点で思い描く「観察イメージ」の2つのイメージがある。運動をただしくイメージできたときのみ得られる脳波の変化を特殊な実験機器を用いて測定し、上述のふたつのイメージ傾向のどちらが得意かで違いがあるかどうか、解析を行っている。

ヒトからサルに 「器械体操選手の脳と身体のシステム」

体操選手の体に関する研究を行っている田中麻奈美さん(環4)は、自身も体育会器械体操部に所属するアスリートだ。体操選手は自分の「上肢」をサルの「前肢」かのように使いこなし、身体のバランスを保つことで高度なパフォーマンスを行っている。普通の人は、対側支配、例えば右の運動関連脳領域に刺激を与えると左の腕が動くといったように、右脳は左側の運動・感覚を、左脳は右側の運動・感覚を担当している。

その上で、「人間ばなれした、サルのような動きができる器械体操選手の脳と身体をつなぐ経路は、一般人とはかけはなれたものになっているのではないか?」、「サルからヒトという進化の過程で使わなくなった神経経路を再び使うようになったのではないか?」という仮説のもと、神経科学的な実験を行っている。

こんな経験ありませんか? 「感覚ゲーティング」

「感覚ゲーティング」とは、「ゲート」、感覚の「門」を開閉することで、身体からのぼってきた感覚の情報を必要なときはとりこみ、必要ないときはシャットアウトする、といった現象である。たとえば、ある行為に集中することで、その行為に必要ない別のタイプの感覚は解像度が落ち、認識されない、といった現象だ。長谷川季咲さん(総2)は今回「視覚」と「聴覚」の組み合わせにおける「感覚ゲーティング」に関する発表をしている。この研究は、今春に卒業した卒業生(辻田悠介さん 2016年卒)の卒プロ研究を引き継ぎ、さらなるブラッシュアップを狙ったものだ。被験者に漫画を読んでもらい、音が聞こえたら手元のマウスをクリックしてもらう実験を行ったところ、「おもしろい」と思っている漫画を読んでいるときほど、音が聞こえにくくなるという。今後は「視覚」と「聴覚」の組み合わせだけではなく、別の感覚の組み合わせでの実験も行ってみたいそうだ。

自分の足じゃないってどんな感覚? 「下腿切断患者の義足を用いた歩行」

模擬義足は膝を折り曲げて装着する 模擬義足は膝を折り曲げて装着する

原基さん(環3)と森下愛弓さん(総3)は南千住にある義肢装具サポートセンターで義足患者の歩行計測の手伝いをする傍ら、データの解析を行っている。今回のブースでは、模擬義足を用いて健常者でも下腿切断患者の感覚を体験することができる。折り曲げた状態の膝に模擬義足を装着するという形で、当然のことながら下腿切断患者と同じ感覚というわけではない。とはいえ、なかなか想像がつかない「義足で歩く」感覚を体験できる貴重な機会だ。

今秋開講! 音楽はヒトの脳・身体でどう処理されるか 藤井進也研究会

今秋から開講した藤井進也研究会のテーマは「音楽と脳・身体」だ。藤井進也環境情報学部専任講師は、学生時代に「運動生理学の観点から科学的にドラムの練習をすれば世界一ドラムがうまくなるのではないか」と思い立ち、京都大学と音楽専門学校にダブルスクールで入学。京都大学を卒業し、音楽学校の特待生にも認定された異色の経歴の持ち主だ。京都大学で博士号を取得後、京都大学や東京大学、ハーバード大学、トロント大学などで研究員などを務めてきた。
牛山研とは研究分野が完全に一致しているわけではないが、広い意味で「身体運動の神経科学」というテーマで一致している。そのため牛山研と合同で授業を行っており、お互いに刺激を与えあっているという。今回のORFでは藤井講師のSFC着任が決定した時点で既に出展のエントリーが締め切られていたため、牛山研と共同のスペースを使ってブース出展をする運びとなった。

あなたはどこまで近づける? 「世界最速ドラマーに挑戦!!」

研究会メンバーによるチャレンジの様子 研究会メンバーによるチャレンジの様子

藤井講師が執筆した論文に「世界最速ドラマーの筋活動」がある。人間は1分間に何回ドラムを叩けるのか。現在のギネス記録はなんと1分間に1208回、つまり1秒間に20回以上ものスピードでドラムを叩くという驚異的な記録だ。もはや想像もつかない領域の話だが、なんと今回のブースではドラムパッドが用意されており、世界最速ドラマーへの挑戦ができる。実際に自分が叩いたデータを目で確認でき、世界最速ドラマーの筋活動についても解説を聞くことができる。

あなたは中居くん?木村くん? 「あなたの音楽力、測ります」

今回は2種類のテストが用意されている 今回は2種類のテストが用意されている

あなたは「音痴」という言葉でどんな人を思い浮かべるだろうか。歌うことは苦手だが踊るのは上手といった風に、ひとえに「音痴」といっても、音程の問題なのか、リズムの問題なのか、音を聴くのが苦手なのか、身体を動かすのが苦手なのか、原因が色々違う可能性がある。今回のブースでは藤井講師がハーバード大時代に開発したリズム感を測るテスト、「ハーバード式ビート評価テスト」と、音痴テストとして世界的に有名な「モントリオール式失音楽症評価テスト」を体験できる。

「理論」を「体験」して「現実」へ ORF2016はあす19日(土)まで

互いに刺激を与え合う、両研究会の関係にも注目だ 互いに刺激を与え合う、両研究会の関係にも注目だ

「理論」は実際に「体験」することで「現実」へと繋がる。頭では分かっていても、実際に動いてみなければ分からないことはままある。今回のブースに用意されている様々な研究にも実際に体験することができる試みが多く用意されており、それはきっと理論を理解する手助けとなるはずだ。

両研究会は合同で授業を行い、今回は同じブースで出展をしているとはいえ、やはり対抗意識も強いという。牛山研が開講から3年という月日を経て積み重ねてきた研究成果はもちろん、対する今秋開講したばかりの藤井研のフレッシュな研究にも今後への期待が募る。あす19日(土)まで続くORF2016で、身体に関する最先端の領域を、その身体で体験してみよう!

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