【セッション】地方を通して自らを見直す 「地方創生の鍵を探る 〜現場で取り組む開拓者のセッションを通して〜」
ORF2017初日の11月22日(水)、セッション「地方創生の鍵を探る ~現場で取り組む開拓者のセッションを通して~」が開催された。「地方創生」をキーワードに活躍している学生やゲストが登壇し、今後の「地方創生」の展望について議論が交わされた。
今回のセッションで登壇したのは以下の5人。それぞれ地方創生をテーマに活躍しているメンバーだ。
パネリスト
- 柳澤大輔 面白法人カヤック 代表取締役CEO
- 鈴木寛 大学院政策・メディア研究科 教授
- 藤原正賢 総合政策学部4年、鈴木寛研究会所属、株式会社BAZUKURI 代表
- 間瀬海太 総合政策学部3年、鈴木寛研究会所属、Route of U 代表
- 高橋佳歩 総合政策学部3年、鈴木寛研究会所属、HEARTRIP 代表
なぜ若者が地方に行くのか?
まず、このセッションの発起人である千葉むつみさん(環4)は「地方創生」における想いを語った。
千葉さんは、身近なゼミ生が活発に地方に行くなか、それを疑問に思い、「地方創生」において重要なことは何かと考えたという。その過程で、地方で活動の中心となっている学生は「自分は何者なのか」「何故ここにいるのか」「何をもって幸せと定義するのか」を考えて行動していることに気がついたと語る。
また、千葉さんがそれに気づくきっかけをもたらした間瀬海太さん(総3)は、首都圏で生まれ育ったがそこでの居心地に疑問を持ったという。そしてその後、すでに活動を行っていた先輩に招かれる形で鹿児島県長島町に移住した。しかし、そこでも違和感を感じ、「何が自分に合うのか、どこならば自分自身を発揮できるのか」という想いを千葉さんと共有し、このセッションを企画することになったという。
面白さから考える「地方創生」
SFCの卒業生である柳澤氏は、1998年に同級生とともに「面白法人カヤック」を設立した。設立当時は「何をやるか」を定めず、「面白法人」という言葉に象徴されるように「面白さで人々を笑顔にすることを追求した」と語った。
その中で、外から見て「面白い」状況というのは、様々な人が楽しんでいること、そして重要なのは多様性が保たれている状態であるとの考えに至ったという。東京のみではなく地方での「面白法人」としての活動を実現していく過程で、「つくる人を増やす」という事を経理面の目標として掲げることを決めたと話す。
そのためには社員全員が主体性を持ち、面白がることが重要だと考え、会社の運営方法に「全員が執行部になったつもりでアイデアを出す」ブレインストーミングを取り入れたという。その「執行部になったつもりで問題を考えられる」ということは、主体的な地域活動を行う際にも活用できると話す。実際、鎌倉で住民が行う「カマコン」という活動につながり、そこでは中止となった花火大会を住民がクラウドファンディングで資金を集め開催できたような事例もあるという。
最後に、「せっかく地方にいるのだから、逆に地方創生案から問題を解決できるのではないかと考えている」と柳澤氏。社会問題として富の格差の拡大を挙げ、「富の格差をゲームとして考えると、勝ち続けている人がいてゲームバランスが崩れている状態」とし、それは面白い社会ではないとする。GDPのような収入だけの指標には限界があるので、面白さを追求するために仕事の満足度を評価できる指標が必要だとも語る。この考え方から地方での経済環境にヒントを見いだせるのでは、と締めくくった。
なぜ、地方でのプロジェクトなのか
柳澤氏の話を受け、来場者も含めて感想を共有したのち、鈴木寛研究会所属の学生によるプロジェクトの紹介が行われた。
まず、鈴木教授が「すずかんゼミでも脱GDPに向けた研究をしており、皆がワイワイ楽しめる社会の実現を目指している」と述べた。その中で、「現在の日本では、『地方』や『地域』が混同されていることが多い」とし、英語でいうところの「Rural」「Regional」「Local」のどれに焦点を合わせて話をしているのか考える必要性を強調した。
地方は人と触れ合える 高橋佳歩さん
人の想いに触れる旅を大事にしたプロジェクトに取り組んでいる、高橋佳歩さん(総3)。Airbnbや民泊の口コミサイトで、「誰々とのこんな時間が素敵でした」と語られるような宿や、「情報や想いの交換ができる」ような宿を見つけて旅をしていたという。そうした「人にすり寄れる宿」を求めた結果、地方に行き着いたと話す。
小さな地方だけではない 藤原正賢さん
元々、地元である長野市の隣に位置する小布施町のプロジェクトに関わっていた藤原正賢さん(総4)。最近は、自身の出身である長野市のシティプロモーションに携わっている。そこで、長野市が観光客にとっては他の観光地への通過地点であり、地元民にとっては便利な町以上の存在ではないことを感じたという。そのような思い入れが少ない点に面白さを見出したと話す。
地方にしかないものを学ぶ 間瀬海太さん
2016年12月より1年間、鹿児島県長島町に滞在していた間瀬海太さん(総3)。「全国から高校生を呼び、長島町の生活や文化を学びながら交流する」というプロジェクトを行っていたという。田舎では生活費がかからず、都会での無駄の多さを学んだと語る。「都会だと当たり前だと思っていた行動も、なぜしているのか見直すことになる」と述べ、地方に行くことでしか学べないことの重要性を強調する。
田舎ならではの形態
「すずかんゼミでは、キャッシュミニマム社会の実証実験のために積極的に地方との関係を築いてきた」と語る鈴木教授。衣食住、学び、医療などを、どれだけお金をかけずに享受することができるか探っているという。お金を使わないことで、資本主義を脱し、自らが自由な生活を送れる状態になれると話した。また、現在の学生のビジネスプランありきな考え方に対しては「やりながらでしか直せないことがある」と語り、現在の収入に囚われている学生の姿勢に警鐘を鳴らした。「地方では、収入がなくてもセーフティネットはあるということを見出している」と語った。
また、柳澤氏は鎌倉を例に挙げ「鎌倉の魅力は徒歩圏内に山、海、文化施設が詰まっているところ」と話した。「地方のもともと持っている魅力を含めて、主体的に活動していくことで成果を出すことができる。成果を出すことができなければ面白くない」と締めた。
3、4年前、「地方創生」はブームになった。その一方、若者による「地方創生」の難しさが浮き彫りになったのも事実であり、発展していないプロジェクトもある。しかし、首都圏とは異なる地方独特の動きやすさ、コストの低さはある。社会問題となってしまっている「地方」を再び見直してみることで「自分」が何をできるのか問うてみてはいかがだろうか。