22日・23日に開催される今年度の「SFC Open Research Forum」。年に一度の研究発表の場として、SFCで行われている多様な研究が一同に集い、毎年大きな賑わいを見せている。今年度のORFのテーマは「Beyond SDGs -SDGsの次の社会-」。SFC CLIP編集部では、そんなORFの見どころや内情について実行委員長を務める蟹江憲史政策・メディア研究科教授/環境情報学部教授に詳しく話を聞いた。

「未来からの留学生」を体現する

ORF実行委員長を務める蟹江教授 ORF実行委員長を務める蟹江教授

—— 本日はお時間を頂き、ありがとうございます。早速なのですが、今年度のORFのテーマに込められた意味についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

去年のテーマが「次の次の社会」。次の社会とは多分10年後。それはやっぱりSDGsの目標が実現すればだけど、「実現した社会」のことでしょ。では今年はその次を考えましょうってことで、「SDGsの次の社会」って設定したんですね。

僕自身はSFCの卒業生なんだけど、当時からSFC生は「未来からの留学生」って言われてました。僕は環境研究や環境ガバナンスの研究をやってきて、本当にそれを実感したんです。90年代の始めくらいにSFCで習っていたことが、まさに世界で実現されてきたっていうのを目の当たりにしてきた。そんな「未来からの留学生」を体現するっていうのがテーマに込められた本当の意味だと思ってます。

—— 蟹江教授が特に気になっている点は何かありますか。

準備期間が短くてあまりきっちりできていない。気になっているというよりも心配な点ですね。例えば、「会場の電力は全部再生可能エネルギーにする」だとか「廃棄はなくす」だとか。いろいろやりたいことはあったのですが、そこまで手をつけられなかった。「ぺットボトルをなるべく使わないようにする」という話はしているが、参加者に直接説明する機会も設けられていない。やっぱりこれは我々教員サイドの問題ではある一方、きっちり準備をして本質的にそのテーマを考えられるようなORFにしないと中途半端だなと思いますね。

—— アピールしたい点についてもきかせてほしいです。

ロゴは自慢のロゴです。あのロゴは昔、鳴川先生と雑談してたときに、無茶振りで「17面体ってできますか?」って聞いたのがきっかけなんです。鳴川先生はデザインの中でも、多面体や、平面で立体をどう表すのかが専門だから、17あるSDGsに結び付けられらないかなと思って。そこからしばらくしてあるとき、「出来上がりました?」ってきいてみたら、「17は難しいけどちょっと工夫してできました」っいうのがあのロゴなんですよ。

最近SDGs関連のゲームが作られ始めています。僕は、そういう場面でサイコロみたいに使えるような面白いものができたらいいなと思って依頼したら、そのぐらいの価値はあるロゴを作ってくださったので、今後機会があればぜひ出していきたいですね。

過去記事からみるSDGsの現在

—— SFC CLIPでは2017年にも蟹江研究会について取材をさせて頂いております。当時の記事では、日本におけるSDGs自体の認知度の低さを指摘されています。あれから約2年、何か変化はありましたか。

だいぶ進んでますよ。特に社会人。SDGsってやっぱりやらなければいけないことなんですよね。みんながやらないといけないとしたら、これをビジネスにしたら売れていくっていうこと。そういう視点で企業の方々が見始めてくれているので、だいぶ広がりは出てきています。まだまだこれからっていう部分はあると思いますが、2年前と比べると全然違いますね。

—— 2030年までの目標達成に向けて、大切なことは何だと思いますか。

やっぱりやる気次第だと。特に政治的な意志っていうのは非常に大事だと思いますね。できると思えばできると思うし、できないと思えばできない。ですが、まだ諦める段階ではないことは確かです。

SDGsは、世の中を変えていく若い世代にとってもすごくいいツールだと思います。目標があってそれを実現するためにどうするかっていうのを考える。例えば、「再生可能エネルギー100%を目指す」。記者さんは、どうすればいいと思いますか?
質問を投げ返す蟹江教授 質問を投げ返す蟹江教授

—— うーん、そうですね。極論、使わない方向にシフトしていったらいいのではないかなと。「原始時代に戻る」とか?

なるほど。でもそういう風に言われると大人ってさ、否定するところから始めるでしょ。これは、逆だと思います。「原始時代に戻る」。ではどうすれば戻れるのか。例えば、「原始時代に戻ると今よりいいことが増えたらいいのでは?」とか。"そういう発想"をしなければいけないんです。

今までやってきたことって、「現実を知りましょう」というようなこと。そうすると「電気の無駄をなくそう」みたいな発想に至ってしまう。そして最終的には「再生可能エネルギー100%は無理だよ」ってなる。

でも、「原始時代に戻る」みたいな発想だと、それを実現するためにはどうすればいいのかっていうような全く別の発想が思い浮かんでくる。例えば「昼間に活動するようにして夜に活動しなければいいのか」とか。要は、あまりごちゃごちゃした知識がない若い人の方がいい発想ができるんです。大人はそれをちゃんと見つめ、ちゃんと議論する寛容さと若者の言葉に耳を傾ける精神性を持たなければいけませんね。

融合した「研究」であること

—— では、そもそもORFが社会に果たしている役割とはどういったものになるのでしょうか。

SFCでは他分野が融合している研究がたくさんあります。ORFは、融合した研究によって生まれた面白い考え方や面白いものづくり、社会の仕組みをさらにまとめてみる場です。つまりそこで、また新たな融合みたいなのが生まれる可能性がある。その可能性を外からみてもらうことがORFのすごく大事な役割なんじゃないかな、と思います。

—— 今年度からの新しい取り組みや挑戦があれば教えてほしいです。

まずは、Pitchを去年と同様に続けたこと。加えて今年は、東京ミッドタウンとコラボイベントをやります。なぜかというと、今年の東京ミッドタウンが出しているミッドタウンアワードというデザインのアワードのテーマもSDGsなんです。デザインでアワードを取った人たちと僕が一緒にセッションをやって、SDGsの目指すものと、東京ミッドタウンとして考えていることにはどういう共通点や未来への可能性があるのかについて話す企画です。

本当はオープンスペースとかでやりたかったんだけれども、事情があってできなくなってしまったので、今後しっかりやっていければと思いますね。そうすると一般の人が見ても面白いものを発信できて、もっといろんな人が来てもらえる形になるんではないかなと。でもとりあえずは、SFCとかの研究に関係ない人でもとっつきやすい話だと思うので、そういう意味でぜひ、いらしてほしいです。

—— どういった方に来てもらいたいですか?

やっぱり「研究」を考えている人に来てもらいたい。僕は「研究」と「教育」が大学の使命だと思っています。SFCの場合、学生さんにも「研究」に携わってもらうことでそれが「教育」になるっていう実践的なところを重視していますよね。このように「研究」を考えているのであれば、引退した方でも、高校生でも、もちろんいいと思うんですよ。「研究」として何かアイディアに飢えている人、そういう人が来てくれると嬉しいですね。

—— ありがとうございました。

学部長も変わり、変化の時代に突入しているSFC。そんな中開催される今年度のORFには、これまで以上の期待が寄せられている。ぜひあなたもこの機会に足を運んでみてはいかがだろうか。

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