シラバスだけではわからない研究会の実情をSFC CLIP編集部が研究会に赴いて調査する「CLIP流研究会シラバス」。今回は、地球温暖化や気候変動の問題を中心に地球環境ガバナンスにおける課題を研究している蟹江憲史研究会「持続可能な未来: SDGsと東京2020」(以下「蟹江研」)を取材した。

蟹江研におけるキーワード「SDGs」とは

来学期の研究会について語る蟹江憲史環境情報学部教授(写真右奥) 来学期の研究会について語る蟹江憲史環境情報学部教授(写真右奥)

蟹江研の研究テーマは「持続可能な開発目標(SDGs)」だ。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された向こう15年間の新たな開発目標で、政治・環境・経済といったさまざまな観点から持続可能な開発のための目標が定められている。具体的な目標としては「貧困や飢餓の根絶」「ジェンダーの平等」といったものがある。現在、国や地方公共団体はもちろん、民間企業レベルでも取り組みが始まっている。

蟹江研では、SDGsに関する文献の輪読やフィールド調査といった活動を行っている。最近行った沖縄県恩納村での活動では、環境問題・漁協・ツーリズムの三者共生に焦点を当てた。恩納村は綺麗な海とレジャーで観光地として人気だが、一方で観光客による漁場荒らしが問題になっている。その問題解決にSDGsが役立つのだという。17個あるSDGsの目標のうちの14個目には「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」という目標がある。その視点を活かしつつ、複合的な問題解決を目指した。

そのほか、日本ではまだ知名度の低いSDGsを広めるのも蟹江研が行っている活動のひとつだ。昨年10月ごろにSFCの至る所に貼られた「キャンパスSDGs」のシールを見て初めてSDGsを知った人も多いだろう。

オリンピックにも!? 注目を集めつつあるSDGs

学期最後の研究会の様子 学期最後の研究会の様子

SDGs自体がまだ新しい目標ということもあり、必ずしも一般への知名度は高いとはいえない。しかし、日本においてもいくつかの企業でSDGsの取り組みが始まっている。「SDGsはマスメディアにも取り上げられるようになっており、今後ますます普及していくのでは」と蟹江教授は話す。

最近では、オリンピックの持続可能性についての研究も行っている。オリンピックでは多くの新しい施設が建設されるが、その施設の持続可能性が大きな課題となっている。昨年の夏に開催されたリオ五輪の会場も、開催から半年足らずで廃墟と化しつつあると報じられ話題となった。2020年に東京オリンピックの開催を控えている日本でも、新国立競技場などの施設をどう利用していくのかを考える必要がある。そして施設だけではなく、エネルギーや環境への配慮も問題となるだろう。

そうした問題を考える上で、SDGsがひとつの鍵となると蟹江教授は考えている。研究会では、オリンピックの施設予定地の視察や、オリンピックについての新聞記事を集めてデータベースを作成するなどして、オリンピックの持続可能性を考えている。

「横断的な視点と基盤の両方を持つことが重要」 研究会に必要な素質とは

インタビューに答える蟹江教授 インタビューに答える蟹江教授

2015年に政策・メディア研究科教授として着任した蟹江憲史教授は、SFCの卒業生だ(1期生)。国際政治学が専門で、現在の研究テーマは地球環境ガバナンスに関するものだ。

現在蟹江研に所属している学生は、蟹江教授について「とても話しやすい方だ」と語った。蟹江教授自身がSFCで学んでいたこともあり、学生との距離がとても近いと感じるという。蟹江教授も「SFCでは、先生と学生の距離が近いことが昔も今も変わらない良さだ」と話す。

また、さまざまな学問分野を横断的に学ぶことができるのもSFCの良さだと蟹江教授は話す。「新しいものを生み出すには、既存の学問体系ではうまくいかないこともある。その点、SFCであれば、横断的に学ぶことができるため、ひとつの課題に対してさまざまなアプローチが可能だ」とした。

一方、「横断的なアプローチ」は既存の学問の枠組みを軽視することではないとも強調。「自分が拠って立つ基盤が持てず、根無し草のようになってしまうこともある。すると、かえって問題解決から遠のいてしまう」と語った。SDGsに関する研究のようにさまざまな分野にわたって考える必要がある場合には、専門の軸を持つことも重要だ。分野横断的な視点を持ちつつ、自分独自のアプローチを忘れないことが必要であるとした。

最後にポーズを決めて1枚。ありがとうございました! 最後にポーズを決めて1枚。ありがとうございました!

蟹江研は、休み時間などはとても和やかな雰囲気で、学生が研究会での活動を楽しんでいるようだった。環境や開発に興味がある人はもちろん、オリンピックに興味がある人、SFCらしい研究をしたいという人は、ぜひ履修を検討してみてはいかがだろうか。

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