ミッドタウンで開催されているORF2013、健康高齢社会エリアは、身体知・ヘルスケア・ライフサイエンスがテーマだ。このエリアから、諏訪正樹研究会を紹介する。


 諏訪正樹研究会では、「身体知」をテーマに、語ることや日常の発見から学びを広げる研究を行っている。「学びは教室の中だけで起こるものではない」という諏訪教授の理念のもとに、学生が多種多様な分野での研究活動に取り組んでいる。これまでに行われた主な活動には、からだメタ認知促進ツール、くらし、震災、採集の4つを大きな枠組みとしたものがある。

 今回ORFに展示する研究テーマは、4つのテーマの中の1つ、震災関連の研究「おとなりさんの哲学」である。また、諏訪教授が大学院のプロジェクト科目の一環として取り組む「生活実践値(LKiP)」のプロジェクトの中から、3点の研究活動も展示する。


自分を語り、自分を深めるためのコミュニケーションを目指して


 諏訪研究会が2011年10月から取り組んでいる「おとなりさんの哲学」プロジェクトでは、地域で働く人々に「哲学とは何か?」というテーマでインタビューをし、その内容をポストカードにして地域内で共有してもらうという取り組みを行っている。これは、諏訪研究会の研究テーマである「認知科学」を社会に還元し、社会を変化させていく、ということを目的として立ち上げられたプロジェクトだ。発足当初は、まず私たちSFC生に身近な湘南台のレストランでインタビューを始め、その後は「震災復興のきっかけになってほしい」という学生の一言から、気仙沼市でのインタビューも行われるようになった。

 このプロジェクトでのインタビューを通して、見えてきた成果や学びが多くあったという。
 「インタビュイーの方にその人なりの哲学を語ってもらうことで、その人が今までもやもやしていた気持ちや考えが整理され、自分と向き合う視点が生まれる。日常や世界に対する見方も変化し、それをポストカードという形で共有することで、他人の考え方や生き方を垣間見ることができるようになる。この流れは、”語ることと言葉にすること”を大切にしている諏訪研究会にとって大きな意味をもっています」と、このプロジェクトに取り組む坂井田瑠衣さん(政メ2)は語る。哲学という抽象的な考えや価値観をその人なりの言葉や表現で整理し、自分のために語り、相手に伝えるという流れよって、認知を認知するという「メタ認知」や自分で自分を語ることの意味や価値に気づくことができるという。

suwa_01諏訪正樹研究会ブース



生活実践知から日常の身体知を紐解く


 また、大学院のプロジェクト科目の一環として諏訪教授が取り組んでいる「生活実践知(LKiP)」からは、「実践知の可視化―FabLabKamakuraにおける学び合いから―」、「ライフヒストリーからコミュニティを読み解く」、「物/音からふと思い出す情景」の3つの研究を紹介している。
 日常生活と身体知が私たちの気づかないところで関わり、影響しあっているという現状を可視化することがテーマのこの3つのプロジェクト。
 どの研究も、人間が暗黙的に考えている思いや考えをわかりやすく可視化し、実生活での実用を図ることを目指している。身体知という、一見私たちに馴染みのないように見えるものを、もっと身近でわかりやすく紹介しているのが諏訪研究会のブースだ。

「学びの研究室」として


 「実生活に密着していない、自分にとってあまり興味のない物事や分野を研究することは、真の学びに結びつかない」と坂井田さんは言う。「研究の種は生活のなかにある」をモットーに、一見すると個人がそれぞれ全く違うことを研究しているように見受けられる諏訪研究会であるが、教授と学生の目的は学びである、という認識は一貫している。「学びは教室の中だけで起こるものではない」という諏訪教授の言葉にもあるように、それぞれが疑問に思ったことや問題意識として捉えたことを生活ベースで考え、問題に気づき解決していくというプロセスを重要視しているのが、諏訪研究会の特徴でもある。
 自分の経験が社会を大きく変えうるということ、日常に溢れる学びを再発見し、目に見える形で社会に還元できるということを実践的に証明しているプロジェクトに、一度目を向け、触れてみてはどうだろうか。

suwa_02諏訪正樹環境情報学部教授と研究会の院生のみなさん