ORF2016初日である18日(金)、セッション「アジアの課題を解決する新たな人材 – ASEAN大学との連携によるIoT戦略・人材育成のこれまでと今後」が開かれた。

慶應義塾は「EBA(エビデンス・ベースド・アプローチ)」というプロジェクトを行っている。これは東南アジアの大学と共同で、アジア地域の問題解決や人材育成に取り組むプロジェクトだ。本セッションでは、国際協力機構(JICA)、日本電気株式会社(NEC)、そして慶應義塾の、産官学3つの視点からEBAの現在までの取り組みを振り返り、今後の展望を語った。

■司会

  • 大川恵子 メディアデザイン研究科教授

■パネリスト

  • 國尾武光 日本電気株式会社執行役員
  • 宮田尚亮 独立行政法人国際協力機構
  • 村井純 慶應義塾大学環境情報学部長・教授
  • 小尾晋之介 慶應義塾大学理工学部教授
  • 梅嶋真樹 慶應義塾大学政策・メディア研究科特任講師

産官学の分野からパネリストが集まった

産官学の分野からパネリストが集まった

「インターネットを前提」とした教育やデータ活用を

初めに、村井純環境情報学部長がインターネットとEBAについて語った。

村井学部長は様々な分野のオープンデータやIoTを使ったセンサーデータを使うことが社会のあらゆる問題を解決する近道となると主張し、「これからの世界はインターネットが前提である」とくり返し強調した。インターネットを使うことで、今まであらゆる分野に存在していた壁を乗り越えることができる。「Beyond the border、それがIoTの基本だ」と語った。

データを用いた問題解決のアプローチは、特に健康分野で注目されている。高校生が糖尿病患者の少ない地域の住民の行動ログデータを取るアプリを開発し、データを比較分析した結果「頻繁に運動や散歩に出かける人々の方が糖尿病にかかりにくい」という事実が明らかになった例もある。「新しい、若い発想が問題を解いていく。アジアにおける新しい問題も、若い世代に解いていってほしい」とEBAの根幹にある想いを語った。

教育の分野においてもインターネットへの期待は強い。インターネットを利用することで、国境を越え多様なバックグラウンドの学生たちとリアルタイムで議論を行うことができる。慶應義塾もインターネットを活用した教育の推進を進めており、遠隔授業で単位が取れる協定学生の制度などを導入してきた。「データを使って分析し、問題を発見、解決するというのは、どんなアカデミズムでもずっとやってきたことだ。しかし調査やデータ収集にかかるコストが圧倒的に低くなったことで、オープンデータやセンサーから生まれてくるデータを使って何かを発見できることが前提の社会となった」とまとめた。

データ活用の可能性を説く村井学部長

データ活用の可能性を説く村井学部長

共通言語を使い、IoTを使ったエネルギー活用を

梅嶋特任講師は、オープンデータの利用法として電力の最適化を例に挙げた。世界的なトレンドとして、大企業の生産する電力に頼った集中型発電から、個人の家で電力を生産し消費する分散型発電に移行しようという動きがある。「ドイツを始めとするヨーロッパ諸国では、ネットワークに繋がった分散型発電を導入し、余った電力は必要なところに売電するなど最適化がされている。それに比べると、日本では効率よく電気を活用できていない」と梅嶋特任講師は指摘。「両国の違いはデータを活用したシステムの構築ができているか否かにある」とした。

このような電力最適化のシステムは企業によってではなく、ただ1人の若手のエンジニアによって構築されていることもある。AppleやGoogleは、共通言語を利用し外部リソースを活用するために、各社が開発したHomekitやNestといった共通言語を推進している。EBAでもEchonet Liteという日本のエネルギー政策で推進される共通言語を使ったアプリが開発されており、IoTとエネルギーという分野の相性の良さがわかる。

日本は世界でも有数の停電の少なさを誇る国だ。これから電力網が分散型に移行していくなかでいかに低コストで安定したコントロールができるかは、データをうまく使えるかどうかにかかっている。

ASEANの人材についての資料を掲げる宮田尚亮氏

ASEANの人材についての資料を掲げる宮田尚亮氏

技術第一主義からの脱却 課題ベースの考え方を

NEC執行役員の國尾武光氏は海外大学卒の若手エンジニアの1人を紹介し、自分が持っている技術の繋ぎ合わせで何ができるのかを考える日本的な考え方と、課題を解決するために技術を身につける海外大学の学生の考え方の違いを指摘した。

ハノイ工科大学を卒業しNECに就職した学生のアンくんは、EBAで共通言語を使って開発をしていたエンジニアの1人だ。彼はまず課題を認識して、その解決に必要な技術を必要に応じて身につけていくという考え方を持っているという。彼のような考え方こそが、日本人にとって、あるいは日本の教育にとって足りないものではないかと國尾氏は分析した。ハノイ工科大学の他にも、EBAでのパートナー大学は各国の理系トップ大学だ。EBAを通して、こういった大学から日本に来てインターンをしたり就職したりする学生が増えてほしいと語った。

日本の強みを生かし、アジアからシリコンバレーへ展開も

村井学部長は、かつてヨーロッパとアメリカ、日本で教室間をインターネットでつなぎ、クオリティの高い授業をしようとする取り組みがあったと話す。ニューヨーク・タイムズで大々的に取り上げられたが、結局は時差の壁に阻まれて失敗してしまった。EBAではその反省を活かし、同じ生活時間を持っている地域同士がインターネットで連携している。

EBAが掲げる3分野、「環境・エネルギー」「健康・公衆衛生」「防災・セキュリティ」は日本の得意分野でもある。急速に成長する東南アジアにあるたくさんの課題を、アジアの学生たちが共同で解決する。アジアがシリコンバレーのモデルを真似るのではく、アジアからシリコンバレーに展開していくことができる。EBAはその先駆けだと村井学部長は語る。

来場した高校生は「分散型発電のネットワークといったIoTを開発している人たちは問題解決型のアプローチで社会に貢献している。課題を意識した考え方のできる人材の重要性を感じた」と感想を述べた。かつては企業に入ってからしかできなかったような大量のデータを用いた開発が、今は学問の場でもできるようになった。そのことを実感したい学生は、是非EBAプログラムへの参加を検討してみてはいかがだろうか。

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