2010年4月、SFCは開設20周年を迎える。しかし、「問題発見・問題解決」を掲げるSFCでありながら、20年経ってもなお答えの出ない問いが存在する。それが、「SFCらしさとは何か」である。今回のアゴラでは、卒業生の視点から「SFCらしさ」を語ってもらった。


閑歳孝子さん(株式会社ユーザーローカル)

2001年環境情報学部卒業

SFCは素の自分を発見した場所

幼少期から通信に強い興味がありました。誰に教わったわけでもないのに地域の草の根BBSにつなごうとしたのは小学生の頃。高校生のときにはお小遣いを貯めてパソコンを購入、パソコン通信を始めて「ここにはいない誰か」とつながる快感を知りました。でも、周りには同じような興味を持っていた人は誰もいません。夜な夜なNiftyServe(当時のパソコン通信最大手)につないで掲示板を巡回しているなんて、親にも友達にも言える雰囲気ではありませんでした。
 SFCに入ってみてまず驚いたのは、自分と同じような人たちがたくさんいたこと。そして海外生活が長く日本語より英語が堪能な人、すでにデザイナーとして活躍している人、ヘヴィメタル音楽にハマりすぎて、それでAO入試に合格した人など、多種多様な人が集まっていました。「ああ、素の自分を出してもいいんだ」もっと正確に言うと、初めて素の自分を発見した感覚です。それからはλ21(当時Mac端末が置いてあった教室)に泊まり込んでCGを作ったり、ドキュメンタリー映画を撮影したり、友達とインターネット関連の事業で起業してみたり留学してみたりと、自分でいうのも何ですがとてもSFC生らしく、節操なく活発に活動をしていたように思います。
 中でも大学4年生の頃に学内コミュニティサービス「SFC-mode」を立ち上げたことは、私の原体験になっています。今でいうSNSにかなり近い仕組みで、mixiでいうマイミク機能やコミュニティ機能、友達の誕生日通知機能などを備えていました。もともとは「今から○○っていう授業で出欠が取られるから、教室に集合! 」などというのを、同じ授業を取っている人たちに同報通知したい、という邪なモチベーションがきっかけでした。はじめは仲間内で使えればいいかな、という程度だったのですが、ふたを開けてみればリリースと同時にユーザー数は急増。卒業する頃には学生数の95%が参加するコミュニティに成長しました。
 卒業後の就職先は出版社でした。しかし心の底では、SFC-modeでの経験が忘れられません。自分が作った仕組みの上で、人がつながっていくさまを目の当たりにするのは、感じたことのないワクワク感があったのです。「インターネットほど好きだったものはなかった」と気づき、3年半でネット業界に転職。今はWEBのアクセス解析ツールを作るベンチャー起業で企画および開発を担当し、忙しいながらも楽しい毎日を過ごしています。

SFCに似ているネット業界

出版業界からネット業界に転職してみて、その文化の違いや仕事の進め方などに違いがあり驚くことが多々ありました。でも何だか、とても居心地が良いのです。ふとこの前、その理由が分かりました。私の目から見たネット業界とSFCは、非常に似ていたからです。
 私が思うネット業界の特徴は以下のような点です。

  • ・人のモチベーションが多種多様。ネットやプログラミングが好きで趣味半分な人から、仕事/ビジネスとしてバリバリ働く人までさまざま。
  • ・人のバックグラウンドが多種多様。国内外一流大学出身者から、バーテンダーなどまったくの異業種から転身した人までさまざま。
  • ・仕事が多種多様。アート寄りのものから基幹業務システムまでさまざま。
  • ・横のつながりが強い。誰かしら共通の知り合いがいる。イベントも多く、薄く広くつながれる。

この人種のるつぼ感は、まさにSFCと共通しています。ネット業界は私にとって、とても刺激が受けられる楽しい場所です。

「自分で問題を発見し解決する」からこそ、幸せに対して貪欲

では「SFCらしさ」って結局何だったのだろう?
 さまざまな人がいるのはネット業界も同じ。SFCにはSFCだけの特徴がある気がします。卒業して10年近くが経った、同級生や先輩、後輩たち、そして自分自身について考えてみました。
 そして、根本にあるのは「幸せに対して貪欲なこと」なんじゃないか、と思い至るようになりました。
 たとえばSFCの友達のうち、会社を辞め子育てに専念している人もいます。私の親などに言わせると「あんなに優秀なのにもったいない」ということになるようですが、彼女は自分自身や家族、そして周りの人たちのことを考え決断したようです。またある先輩はネット事業の立ち上げに成功し多額の資産を得ながらも、より大きなビジネスにチャレンジするために最前線で活躍しています。さらにまた別の友達は、世界的に大ヒットしたiPhoneアプリを開発する一方で、奥様が始めたクッキー屋さんを手伝う二足のわらじの生活を続けています。
 私自身、その時々の人生ステージに応じて価値観がガラリと変わりました。そしてその度に転職したり、行動範囲を広げたりと何らかの変化を自分自身に課すようにしています。きっとこれは、
 「自分で問題を発見し解決する」
 という、SFCの精神が息づいているからなのでしょう。SFC生は立場は多様ながらも、各人が自分自身の幸せ、および家族や周りの人、ひいては不特定の多くの人たちの幸せを突き詰めて考え、自分の環境を変化させ続けているのではないでしょうか。
 貪欲に変化し続けること。これこそが、SFCらしくあり続けるための、私の指針です。

閑歳孝子さん
2001年慶應義塾大学環境情報学部卒業。小檜山賢二研究室、佐藤雅彦研究室所属。新卒で日経BP社に入社、現在はWeb系ベンチャーの株式会社ユーザーローカルにて製品企画・開発を担当。佐藤雅彦研究室としてADC賞、学内SNS「SFC-mode」の立ち上げで慶應義塾大学塾長奨励賞を受賞。写真共有サービス「Smillie!」やTwitterのクチコミ発信力を解析する「ReTweeter」などのWebサービスを運営。 Twitter:kansai_takako