SFC現役生のみなさん,こんにちは。世の中に星の数ほど雑誌がありますが、私は今「日経コミュニケーション」という情報通信分野の専門誌で、編集記者として働いています。書店売りではなく直販専門ですから、おそらく目にした人はほとんどないと思います。

何はなくともネタ探し

では,その知られざる雑誌の記者はどんな“今”を送っているのか?
 まず朝は,普通のビジネスマンと同じように新聞に目を通します。その際,自分の担当分野で未知のニュースが載っていると,暗い気分で家を出ることに。出社したとたんに上司から「お前,この記事のネタ掴んでなかったのか。確認しておけ」とカミナリが落ちるからです。こうしたことがないように,トレンドを見越して記事のネタを探す作業は欠かせません。それが企画であり,取材です。

三度の飯より楽しい!?取材

今の仕事をしていて,一番楽しいのがこの取材活動ですね。私が担当している分野は,NTTドコモの次世代携帯電話「FOMA」に代表される“モバイル”。産業界では唯一といっていいほどホットな分野と言えます(SFCの中にも,実際に研究したりビジネスを手がけたりしている人が大勢いますよね!)。そのキー・パーソンに直接会って,熱い話を聞けるのですから。
 取材スタイルは記者や媒体の性格で違いますが,あるテーマに関して事前に仮説を立てておき,取材時に「私はこう思うのだが,あなたはどうか」とぶつける形が基本でしょう。ただ実際は,相手との駆け引きも重要。時には相手の主張に疑問を投げかけ,反発させて本音を引き出すこともあります。

コメント取るには粘り腰

とはいえ,そこは人と人とのやりとりなので,いつもこちらの想定通りに進むとは限りません。とりわけ土地勘がない分野の取材先を回ると,肩すかしをくらうことがままあります。そんな時はワイシャツの中を冷たい汗がつーっと流れますが,あきらめずに,何とか記事に使えるコメントを取ってくるしかない。
 かって断筆宣言をしたある著名な小説家に「表現者として,ブロードバンド社会に興味はあるか」というテーマで取材したときのこと。氏は開口一番「ブロードバンドにまったく興味はない。クリエータは本来,新しい情報技術に対して保守的のはずだ」という。これだけ聞くと,「どうぞお帰りください」というメッセージに思えますよね。
 それでも粘って話をつないでいると,今度は全然違うことを言ってくれる。「小説なら小説,映画なら映画といったそれぞれの分野に“伝統”というものがある。表現する者は,まずそれをマスターしなければ。伝統抜きに新しいものはできないし,伝統がどんなものか知らなければ,これを破壊することすらできない」といった具合です。これは,新しいメディアでの実験に積極的に見える氏にしては意外なコメント。これは使える,となるわけです。

脳フル回転の執筆作業

さて,楽しい取材が終わると,今度はそれをアウトプット,つまり記事としてまとめなければなりません。そこには当然ながら,産みの苦しみがあります。事実や新情報を盛り込むのは最低条件で,お金を払って読んでもらうためには,「目の前の事実が持つインパクトが誰にでも分かりやすく伝わる」ストーリーを形作ることが最重要。しかも,記事やシカケ(記事中に差し込む図表や写真のこと)の〆切が次から次へと襲いかかってくる。文字通り,手に汗握る作業となります。
 読みやすい記事にするためには,取材先が話してくれた10の事柄のうち,三つか四つしか入れられないこともあります。雑誌に限らずメディアというものは,あるニュースに関して集めた事実の固まりを,たった一つの面でしか切れない。それが限界でもあり,おもしろさでもあると思っています。

終わりに

こうして記事を執筆しつつも,ふと空いた時間には,取材中に得たヒントをもとに次の企画を暖めておく。そして編集長から「何か企画はないか」と言われたときに,「ありますよ」とポンと出す-。なんて上手くいけばいいのですが,日々悩みながら仕事を続ける毎日です。
 こんな風にせわしない毎日を送っているわけですが,5年目を迎えてもまだまだ未熟者。SFCで鍛えたみなさんのお役に立てるかどうかはわかりませんが,何か知りたいことがありましたら遠慮なくご連絡ください。そして,おもしろいネタがあれば,こっそり教えてください。
##略歴 高槻 芳
1997年総合政策学部を卒業後,日経BPに入社。
日経コミュニケーション編集部に配属され,雑誌記者としてモバイル通信の新技術や業界動向を日夜追いかける。休日はクラシック・カメラを持ち歩いてスナップ撮影を楽しんでいるが,ときに不審者として職務質問を受けることも。