住宅街に突如生まれたスクランブル交差点

横浜山手といえば閑静な高級住宅街として有名な場所である。美しい西洋  の建物が立ち並ぶことから、散歩のコースとしても人気な所で、休日ともな  ればスニーカーを履き探索に訪れる人が後を絶たない。


 10月27日の朝、そんな山手の一角に妙な空間が発生した。多くの学生や団体・企業に支えられたイベント『こうさ展』である。
 会場である5つの洋館の一つエリスマン邸では、入り口付近で古着の幕のようなものが掛けられ(企画の一つ、古着でおばけに変装する"うろうろ古着おばけ "だ)明らかに普段と違うその様相は人目を引き、散歩に訪れた人の興味を呼んでいた。そんな4つの洋館に惹かれてやってきた人は、受付で説明を聞いた後に吸い込まれるように会場へ足を踏み入れる。そこに待っていたのは様々な人が触れ合うことの出来る場所だった。

無秩序ではなく、調和が生まれる

『こうさ展』とはその名(交差点)が示す通りまさに"出会いの場"である。世代と世代 の交差点であり国境を越えた人と人、アナログとデジタルの交差点である、アートを 通じてそんな場所を訪れる人たち自身で作り上げていくというのがコンセプトなのだ。
 会場を訪れる人々の年齢は様々で、スタッフに多かった大学生や高校生世代の他に親 子連れ、散歩の途中に訪れた人々など世代が入り乱れるといった感があった。しかし 決してそれは雑然とした風景ではなく、アートやそれを扱うスタッフを仲介役として混ざり合い調和する世界というイメージが強い、心地よい風景だった。

参加型アートの数々

小さい子供が静かな美術館に退屈することが多いのは、やはりそこに自分が参加して 楽しむ余地が見当たらないからだろう。その点今回の『こうさ展』は、見て聞いて触 れるという機会がとても多かった。はさみとペンとのりを持って図工のような全くア ナログなことをする場所があるかと思えば、パソコンを使った書道やお絵描きチャッ トなどのデジタルなこともある。
 懐かしいものと新しいものが上手く融合された状態はどんな年齢の人間に対してもス ムーズに受け入れられていく。とまどいながらも思い切って触れてみることで色んな 光景や音や感覚に出会えるのだからとても楽しい。周りを見渡してみると、そこには 興奮した顔、感心した顔、笑顔が溢れていた。

「人はだれでも生まれながらのアーティスト」

モノを生み出すことの出来るアーティストとしての才能は誰もが持っているものであり、それを引き出し、遊びと力と笑顔とを生み出せるようなアートが用意されていた『こうさ展』。だがそうやってアーティストを体験するということだけがその目的ではなかった。たった一人では自分がアーティストであることを発見することは難しい。色んな人と触れ合うことで自分の中の様々な可能性を知る。教えあい語り合いお互いに交わりあうことによってこそ、真に楽しめることができるのが『こうさ展』なのだ。そして実際にその空間の中にいると人と一緒に何かを作り出したいという気分 にさせられた。
当日の晴れた青い空、美しい緑の木と芝生、落ち着いたあたたかな雰囲気の洋館、そ れら全ての美しい風景の中に更に訪れた幾人もの人の色が重ねられて見ていて展覧会 それ自体が大きなアートになるような…『こうさ展』とはまさにそんな展覧会 だったように思う。