今回の「私の留学日記」は12日(金)に一時帰国された「私の留学日記」執筆者である齋藤達也さんに東京で直接お話を伺い、留学の動機や齋藤さんの価値観、さらには現地で感じた日本とのギャップなどについて語っていただきました。

今日はお忙しい中、ありがとうございます。さっそくですが、留学をしたいと思われた動機は、何ですか?

なんとなく。(笑)アメリカの大学に伝わるハッカー伝説みたいなのがあるでしょ?

リチャード・ストールマンとかですかね?(笑)

そうそう。ああいう人の本を読んでいると刺激されて、大学で研究するならああいう伝説の舞台になっているところに行きたいと漠然と思っていました。

「研究やるなら絶対に海外で」と思っていたのですか?

そうですね。自分のやりたい分野が、日本の大学院になかったという背景もありますが、やはり海外に行ったほうがいいのではないかと思っていました。

アメリカ以外の大学は選択肢になかったのですか?

ありましたよ。ヘルシンキ工科大学なども調べました。候補を絞る段階で、MITメディアラボ、今自分が留学しているUSCにしましたね。具体的にやりたいことを考える段階になるとやはりアメリカ以外考えられなかったですね。行きたいところはMITのメディアラボでしたが、倍率が厳しくて入れなかった。それで USCにしたわけです。だから最初からUSC行きたかったというわけではないんです。(笑)

研究にはまっていったのはいつ頃からですか?

学部時代に、小檜山研究室で先生に言われて作ったプログラムがうまく動き、その時にやった研究が自分にとって面白かったんですね。そのプロジェクトには学生が自分一人しかいなかったということもありのびのびできました。学部時代に世界最大のコンピューターグラフィックスの展示会SIGGPARHでの発表も小檜山先生とフィッシャー先生と共同で行い、貴重な経験をさせてもらいました。ネイティブのフィッシャー先生から受ける影響も大きかったですね。実際留学するとなれば、自分は何ができるのか、何もなしに留学はできません。それを具体化できたのは小檜山先生の研究会ですね。シーグラフでの発表の機会が与えられたことも留学の動機としては大きかったですね。
 CGには昔から興味があって色々な本をよんでいたし、SIGGPARHのことも知っていました。まさか自分がそんな大舞台で発表できるとは思わなかったですし。その世界で有名な人たちと研究についてお話ができたことはとても有意義でしたし、刺激になりました。

USCでの勉強はどういうものですか?

新しい学科なので、何をやるのかまだ決まっていない部分がたくさんあります。3年間の課程なので、今は授業を受けている段階です。現段階は研究というよりも研究に必要なスキルを身につける訓練という段階です。1年目は実習がメインで、フィルム撮影、アニメ、映像編集、脚本などに授業が及んでいます。

マスター課程なのに、そういう個別具体的な授業が組まれているのですか?

そうですよ。私が通っている大学の場合は履修すべき授業が決まっており、毎日授業漬けです。授業を欠席するなんてあり得ないことなんですよ。「授業を休むなんて、人間のすることじゃない」という雰囲気です。これはアメリカのどこの大学にも共通に言えることなんじゃないかな?

じゃあ、当然だとは思いますが、楽勝科目なんてものは無いですよね?

ないです。あり得ない。他の大学は知らないけど、授業の評価システムがしっかり整っているんです。学期末だけではなく、中間でも授業評価があります。楽勝科目があったとしたら学生から批判が出ると思いますよ。

アメリカの大学で学ぶことのは大変ですか?

授業はきついし、大変でしょう。大変だけど、質はとてもいいと思います。100万払えば100万の価値はあると思います。僕の通っている大学だと映像をつくったり、撮影したりしたものを人に見せます。それに対して必ず反応があります。これはとてもやりがいにつながりますね。

授業の形態はどういうふうに行われますか?

クラスの規模は小さいですね。授業は一番多くて約20人ですね。ほとんどの人が議論に参加します。発言しないと評価されないんですよね。だからほとんどの人が発言しますし、授業後も熱心に質問に行きます。先生にまずは名前を覚えてもらわないと評価されませんから。

留学されて1ヶ月半経過しましたが、英語の力はつきましたか?

ヒアリング力は上がっていると思います。ただ、現地の学生の議論に参加して、ちゃんと議論をするということはまだできませんね。議論の場では私がその学科で唯一のインターナショナルの学生なので、注意して聞いてくれるのでだいぶ助かっていますが。SFCにいるころから、フィッシャー先生に英語で指導を受けていたので、英語を話すことへの抵抗感はないですね。

英語の論文はどうですか?レポートなど大変だとよく聞きますが。

量は大丈夫なんですが、特に脚本を製作する際のせりふの言い回しが難しいですね。例えば、人質に話しかける時に、「車泥棒はこんな言い方しないよ」とクラスメートに言われても、困っちゃいますよね。勉強しなければいけないと思っています。大学に文章を直してくれる部門(writing institute)があって、そこは無料で利用できるので。そこを利用しています。
 話は変わりますが、脚本は面白いですよ。アメリカ的な映像というか、それが何なのかわからないが、典型的なものってあるでしょ?ビバリーヒルズ青春白書のような。僕らがみるとそれをアメリカ的だなーと思うわけです。周りのアメリカ人の書く脚本というのは、そういうものに近似するんですよ。そういうのって日本から来ているからわかることだと思うんですよね。同時にそこではじめて日本的っていうのもわかりますね。
 千と千尋を見た時の感想もやはり日本人が口にするそれとは違いますね。僕らが感じる懐かしさというのも彼らは持ち合わせていないですね。彼らは絵の綺麗さに興味があるようです。例えば顔無しが湯屋でバクバク食べているシーンの後ろの屏風の絵がきれいと言う人がいます。僕らとは違うところをみているんですね。黒沢明監督の映画もみたままの映像の美しさに感動するみたいですね。日本の映画で"THE HIDDEN FORTLESS"という映画をクラスメートから観ようと誘われたのですが、何の映画かわからなかったんですよ。(笑)それで調べたら日本語では"隠し砦の三悪人"というタイトルでした。自分からしてみれば、何でこの映画をみるのかよくわからなかった。(笑)どういう視点で映画をみているのかという視点の違いは海外に行ってみて初めてわかるようです。

将来の夢は?

自分のやりたいと思うことを一生やっていたいです。それが夢ですかね。やりたいことっていうのは常に変わっていきそうですね。だから明確な夢はないですね。目標ならありますが、夢といわれると漠然としていて、自分でもわからないです。

では、目標は?

アカデミックな研究にせよ、企業での研究にせよ、プロフェッションとして研究をしていきたいですね。名前の残る研究がしたいですね。

アメリカでの大学生活は総じて楽しいですか?

僕のいる大学は作品なりアウトプットしたものに対して絶対に反応してくれるんですよね。これは偏見かもしれないが、日本だと授業で作ってみせると、まず最初に悪いところをいうでしょ?向こうはいいところをまず見つけだしてくれますね。建設的な批評が展開されます。それが良いか悪いかはわかりませんが。私はいい点だと思っています。何らかの反応をしてくれるということは、確実にモチベーションにつながりますよね。

齋藤さんはSFCの卒業が半年遅れていましたよね?

ええ。自分はかなりマイペースでした。忙しくて単位が取れなかったのではなく、マイペースで単位を取っていたら、結果的にそうなったということです。(笑)

SFCの学生に向けてひとことどうぞ。

これは、私見ですがSFCに限っていえば、大学ではないというところもあると思うんですよ。例えば授業出なくてもOKとか。そういうシステムというのは、極端に言えば1人の天才と1000人のフツーな人を生み出すようなかんじがするんですよね。まだ結果出てないですけど。ただ、やらなきゃいけないことをきちっとやる必要はありますよね。授業に出るとか課題を出すとか、そういう当たり前のことをきちんとやった上で、やりたいことをやるべきなのだと思います。面白い人というのは、授業出てなかったりする人がSFCの場合は多いとは思うのですが、そういう人が授業にきちんと出たりすることで、さらに大きくなれると思うんですよね。人のこと言えないんですが、こっちに来てそう思いましたよ。SFCには「やらない美学」が蔓延っている気がします。まずはやることをしっかりやっておいたほうが、将来的にはやりたいことを出来る気がします。回り道をしているようで、実は最短の道かもしれないです。

今日は、ありがとうございました。