ORF2004最終日、「12の対談」の最後のセッションでは「アーキテクチャと社会デザイン」として、村井純環境情報学部教授と、坂茂環境情報学部教授の対談が実現した。コーディネータは、土屋大洋総合政策学部助教授が務めた。

初めに坂教授は、普段からコンピュータの分野においても、建築の分野と同じ「アーキテクチャ」という言葉が使われていることに疑問に感じている、と切り出し「ビルディングなどという言葉とは違い、アーキテクチャとは『人を感動させるもの』という意味であるはず」と、なぜこの分野においても使われているのか、村井教授に問うた。
 それに対して、村井教授はTCP/IPを例に挙げ「TCP/IPというアーキテクチャでは、それを基盤に人々のアイディアや新しい感動が生まれてくる」として、建築と同じアーキテクチャという言葉が使われたのは、「本物のアーキテクチャという言葉に対する憧れがあったのではないか」との見解を示した。
 さらに坂教授は若干挑発的に「建築は他の分野とは違い、意外にもコンピュータが建築に役に立っていない」と指摘。「計算などには良いが、建築は人が沢山の時間と手間暇をかけて、考えるプロセスに感動するもの」と投げかけ、自らの事務所の新人に対しても、最初はコンピュータを使わせないことを紹介した。同教授によれば、紙と鉛筆の経験に頼らず、初めからコンピュータ上で作業をさせると、かえってマイナスになるそうだ。
 それに対して村井教授は、「クライアントと建築家の間の、コミュニケーションには十分貢献している」と反論したが、この議論は坂教授に軍配が上がった形で、一旦打ち切りになった。
 一方双方は、建築・コンピュータをの分野を切り開くモチベーションとして、「人を感動させる」という点で一致している。坂教授は、先日の新潟地震において、長岡市内の避難所に紙の家を建設し、大変喜ばれたと紹介。村井氏もアジアなどで広がるSOIの動きを紹介し、アジアで質の高い授業が受けられることに感謝されたことが、何よりうれしかった、と語った。
 最後にコーディネータの土屋氏が「社会のなかにアーキテクトが必要か、人間社会はデザインできるのか?」と双方に投げかけた。坂教授は「現在、日本はエンジニアリングは十分だが、アーキテクトという視点が欠けている」と述べ、それは日本におけるビジョン・リーダの不在にもつながっているとした。村井教授は「まともなアーキテクトとは、人を理解できること、意見を聞くことができることが必要である」とダイアログの重要性を説いた。