SFC Open Research Forum 2006にて、看護医療学部e-careプロジェクト・渡辺研究室・安村研究室・徳田研究室と三菱地所をはじめとする企業などの協力を得て、ひとつのモデルルームが作成された。その名もiLogHouse。この家を使って研究生達は何を伝えたかったのか。今回は、新時代の技術、アイデアが飛び交ったiLogHouse展示会場の様子とセッションの様子をお伝えする。


 iLogHouseという名前の由来は、log houseと「I log house.」という意味をか
けたもの。私を記憶する、「自分で育む暮らし」をコンセプトに作ったそうだ。
-展示会場-

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iLogHouseは、東京ビルTOKIAガリレアにて11月22日-29日の間展示された。iLogHouseに入ってはじめに目に付くのは、ソファの前の大きなスクリーン。これは安村研究室・國領研究室・eco-s coporationによる「Asnaro」だ。そこには4種類の大きさの木と、棚の絵が映し出されている。
 このスクリーンは家族間のコミュニケーションを助長するためのものだ。4種類の大きさの木は家族構成員それぞれが所有していて、大きい木は両親の木、小さい木は子供の木である。お小遣いのツールなど、子供が使うツールは子供が使いやすいように低いところに配置されている。他のツールとして、連弾、落書きできるアルバム、手紙の交換などがある。このスクリーンから赤外線がでているので、反射材がついている専用スティックで操作できるようになっている。

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また玄関につけるデジカメ付き姿見「Time After Mirror」や、その写真も含むデジタル写真を家のどこでも再生できる写真たて「PushPull」があった。前者の作品は、心に刻まれるのは晴れ着姿ではなく普段着の自分というコンセプトのもと、普段の姿を記録する。後者の作品は奥に押すと写真が流れ、引くととまって写真をじっくり見られる。これは家のどこでも再生することができる。

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次に見たのは自閉症の方のための歯医者通院事前プログラム。自閉症の方の70%は虫歯に悩んでいるという。自閉症の方はもともと習慣として身についていないことをはじめるのを、とても苦痛に感じる。つまり、もともと歯磨きをする習慣がついていない人は、後になって歯磨きをすることが困難なのだ。そして、通い慣れていない歯医者に行っても、見慣れないいすに座らされ、知らない人が怖い音のする小さなドリルを口に入れようとする。この時点でほとんどの自閉症の方はパニック状態に陥る。このままでは治療ができないだけでなく、歯医者側にもう来ないで下さいと言われてしまうのだ。
 その問題を解決すべく考えられたのが、ネットで見られる歯医者講座。ひとつひとつの行程を写真と文字で説明する。歯医者に行く前に保護者と一緒にこの映像を見て、安心して治療を受けられる環境を整えることができる。
 また、同じ区画で行っていたのは、コミュニティ間で食生活の見直しをするプログラム。特定人数のコミュニティを作成して、一人一人が毎食ごとに食べた料理をブログにのせ、自分で振り返って反省したり、他の人からコメントをもらって励みにしたりする。このコミュニティにはプロの栄養士なども入っているが、栄養のバランスがあまりにもひどい時以外は干渉しない。あくまでコミュニティ内でのフォローアップを意図している。今は数名のモニターでコミュニティをつくり、実験をしている。
 また、商品をかざすとその商品のアレルゲンや賞味期限がわかる装置もあった。商品のパッケージに付属させたチップシートを読み込んで、商品の情報を知ることができる。今後の使い道として、冷蔵庫に設置、スーパーマーケットのカートに設置が案として出されている。冷蔵庫に設置されていれば、一目で賞味期限がわかるし、カートに設置されていればカート内の商品が総額いくらなのかがいちいち計算しなくてもわかる。

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-セッション-
 セッション「iLogHouse:生活を記憶し育む家プロジェクト」は、11月22日(水)16:00-17:30に、丸ビル8階 Room2で行われた。

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三菱地所は現在、オリジナリティを求めて、会員しか見ることのできない会報誌「生活散歩」でコンセプトを提案している。また、「できるクラブ」というwebページを作り、会員要望を募って、会員の理想の家つくりを少しずつ実現している。三菱地所商品企画部の唐澤眞二氏は、「今回のORFで初めてSFCと共同で仕事をしたのだが、SFC生のハードウェア・ソフトウェアの知識を生かすべく今後もつながりをもっていきたい」と語っていた。
 iLogHouseの出口付近に展示されていた可動式システムPuzzline。これはITOKIが今年の4月に発売したものだ。これは部屋の間取りを変えることができる家具と言ったらいいのだろうか。この商品のコンセプトは1.可動式、2.空間構造、3.薄型収納、4.安全性という4つのコンセプトのもとに作られている。まず1に関して。この機能の利点としては子供ができた場合、子供が自立した場合などに合わせて何度でも間取り構成をし直せるという点だ。次に2に関して。このPuzzlineを家具として空間を構成できる。次に3に関して。奥行き30cm・幅60cmで、高さは天井にあわせることができる。最小で最大のスペースを生かすというコンセプトだ。最後に4に関して。地震に強い。震度6弱なら耐えられるそうだ。
 この商品開発の背景には3つの暮らしの変化がある。それはマンション永住思考をする人が多くなったこと、*SI(スケルトンインフィル)住宅の普及の兆しが見えてきたこと、可変性のある間取りを要望する声の増加である。このような時代変化により、一般的に平面的と言われる日本家屋を立体的に空間デザインする必要が生まれてきたのだ。
 また、セッションに参加した児玉哲彦さん(政・メ博士課程)は「思い出コミュニケーションプロジェクト」をコンセプトにアイデアやオブジェクトの発表を行っていた。その例として、服を鏡にかざすと、その服を着ていた人の写真が映し出される鏡、その日の家族のフラッシュが流れるお風呂ガラスがある。家族の会話をはずませたり、子供のお風呂嫌いをなくすという効果がみこまれる。先に述べた家族コミュニケーションを図るタッチスクリーンと画像が流れる写真立ても、児玉さんの研究作品だ。

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フィグラ株式会社は環境・省エネ商品を発表した。例えばチョーク公害のないガラス黒板や、書く・見る・貼る・触るの機能をもつガラス、画像取り込みをできるセンサーつきガラスなどだ。
 今までは机などはネットワークにつながらなかった。しかしこれからはiLOGHOUSEなどを媒介として、実空間と情報空間とをつなぐことができるようになる。
 iLogHouse研究代表である岩井将行政策メディア研究科講師は「iLogHouseは始まったばかり。これから人間中心の空間を考えながら、高速に進化する専門分野に精通している方々と連携していきたい」と語っていた。
*SI(スケルトンインフィル)
スケルトンは骨格・構成を意味し、インフィルは内外装・設備・間取りを意味する。丈夫な構造をつくることができれば、自由にインフィル部分を変更できるようになる。そうすることによって、ライフスタイルの変化に合わせられ、長く暮らせる住宅をつくることができるのだ。