SFCのならではの特色は数多くあるが、その中でも特異な例がAO入試である。一般入試とは異なり人物重視を掲げた制度だが、最近では学力低下などAO入試の問題点も指摘されている。こうした社会一般の目線をAO入試を経験した卒業生はどう感じているのか語ってもらった。

「『KY』恐れないのがSFC」
工藤博司さん(J-CASTニュース記者)

2002年総合政策学部卒業
 SFCに入学してから10年が経ちます。SFCの一部では、入学世代をログイン名で認識するカルチャーがありますが、それにあてはめると、私は「s98」にあたります。4月に入学なさったばかりの皆さんは「s08」なので、本当に隔世の感があります。
「SFCらしさ」というテーマで原稿依頼をいただきましたので、SFC生としての4年間、OBとして6年間、SFCに接してきて感じたことを中心に「SFCらしさ」を考えていきたいと思います。
 思い起こしてみれば、最初に「SFCらしさ」を意識したのは、97年の受験生当時です。97年6月から7月にかけて朝日新聞に掲載されたSFCの特集記事、特に連載1回目の「“脱・学力”入試の挑戦」というAO入試を扱った記事に、強い関心を持ちました。この連載がきっかけて、7月下旬、当時住んでいた福岡からはるばるオープンキャンパスに出かけることにしました。このとき、竹中平蔵・総合政策学部教授(当時)による基調講演で聞いた
「SFCでは、本当に色々なことができます。ただし、受け身だと何もできません。受け身な人にとっては、かえって居づらい環境でしょう。逆に、やる気があって、自分から何かやろうという皆さんにとっては、SFCは本当にいいところだと思います」
 という言葉が、私が最初に認識した「SFCらしさ」です。このときは、いわゆる「学際的」といった文脈での話だったように記憶しているのですが、この認識は、現在でも大きくはぶれていません。
 つまり、「求めて、努力すれば、だいたいのものは与えられる」という人的・物的インフラがSFCに備わっていることが、「らしさ」の一部分であるように思うのです。
 卑近な例で恐縮なのですが、3~4年生の頃はゼミの活動に打ち込んでいたという若干の自負があります(テーマは「情報社会におけるジャーナリズム」)。その活動の一環として誕生したのが、まさに今寄稿しているSFC CLIPで、当時のメンバーは01年度のSFC AWARDを受賞してもいます。さらに、SFC CLIPは、(私を含めた)メンバー間の「半学半教」の場としても機能しています。
 これはSFC全体からみればほんの一例にすぎませんが、一般世間に比べれば、SFCでは
「やる気のある人間が、ちゃんと頑張れば、比較的成果は正直に戻ってくる」
といった傾向はあって、それがSFCの「らしさ」を構成しているのだと思います。
 これまでに述べてきたような「らしさ」を支える、根本的な「SFCらしさ」も存在すると思っています。それは、「多様性を許容する文化」というか、「一歩前に足を踏み出そうとしている人間を馬鹿にしない文化」のようなものです。
07年には、「空気が読めない」ことを「KY」と称する日本語の用法が若干の広がりを見せましたが、チャレンジをするということは、先例を破壊したり、これまでの文脈を分断することもあるため、見方によっては、それが「KY」であることもしばしばです。実際、「KY」の結果として、いわゆる「痛い」姿を目にすることも多いです。
ですが、多少の「痛さ」という失敗からは十分に再チャレンジ可能なのも事実で、「KY呼ばわり」を恐れるあまり「とりあえず何でもやってみよう」「頑張りたい」といった気持ちが萎えてしまう方が、SFCにとっては、よっぽど有害です。
 このような「他とは異質だが意欲ある人」に対して寛容な、平たく言えば「多様性を認める」文化こそが、SFCの活力の源であると信じています。
 さらに言えば、この一端を担っているのがAO入試だとも思っています。AO入試は、
「いわゆる『お勉強ができる能力』だけでは評価できない、受験生の能力を積極的に評価しよう。書類審査や面接など、ペーパーテストに比べて非常に手間がかかるけれども、それでもやろう」
というのがそもそもの制度導入の志だと理解していますが、その結果合格した「AO組」は、個人的、経験感覚からすれば、(私自身がAO入試で合格したことを抜きにしても)「KY」とすれすれの「アクの強い」人物が目立つ、という確信を持っています。こういった層が持つ意欲を大事にすることが、「SFCらしさ」を守っていくために必要なのではないかと感じています。
 その文脈で申し上げると、九州大学法学部がAO入試の廃止を決めるなど、全国的にAO入試の見直しが相次ぐなか、阿川尚之・総合政策学部長が
「慶応やSFCがユニークな大学であるということは守りたいと思っているから、他大学が全部やめようと関係ない」(08年3月17日、朝日新聞)
と断言なさったことは、一卒業生として心強い限りです。
 最後にまとめますと、
「他と異質であっても、『頑張ろう』という意欲を持つ人を尊重する文化」
これこそが私が思うところの「SFCらしさ」であって、その結果
「意欲がある人が求めれば、大体は与えられる」
という環境がもたらされているのだと思います。