ORF1日目、プレミアムセッション「新しいプラットフォーム:SFCの国際化と日本研究」が開催された。今月SFC研究所に誕生したばかりの「日本研究プラットフォームラボ」の紹介に加えて、SFCの国際化、日本研究のあり方などについて、SFCの言語教育に関わる教員や、留学生としてSFCで学んだOBらが議論を交わした。


■パネリスト
・陸楽氏 (北京天地互連公司(BII)Group社 CTO)
・王雪萍氏 (関西学院大学言語教育センター常勤講師)
・平高史也総合政策学部教授
・重松淳総合政策学部教授
・神保謙総合政策学部准教授
・古谷知之総合政策学部准教授
・司会:加茂具樹総合政策学部准教授
・ゲスト:奥田敦総合政策学部教授
 11月に設立された「日本研究プラットフォームラボ」は、学生に対する言語習得の支援と、SFCの留学生に対する日本語での学習環境の整備が目的。将来的には、SFCが世界的な日本研究のコミュニティ、東アジア研究の一つのハブになることを目指すという。セッションでは、まず司会の加茂准教授がラボの概要を説明した後、王雪萍さん(2006年政・メ博士課程修了)が中学から日本への国費留学生の対日印象に関する調査について述べた。

海外から見た日本

本調査は80年代に中国政府から派遣されてやって来た国費留学生に対して行われた。来日直後は日本に対して良いイメージを抱いているが、日本に居る期間が長くなると、6年目頃を境に徐々にイメージが下がってくるという。これは当時、卒業後の進路を考えた時に、日本に残りたくても外国人という理由で就職も進学難しい状況があったことが影響している。
 しかし、その後日本に残った場合は、時間経過と共にまた日本に対する評価が上がってくる。長く居れば、日本の良い部分も悪い部分も含めて深く理解し、中立的に見ることができるようになってくるからだという。
 ただ、中国から長期に渡り日本に留学し、深く日本を理解する事ができたのは、国際社会における日本の地位が相対的に高かったという時代特有の背景も影響していると加茂准教授は述べる。これから先、日本が国際社会でそれほどの魅力を持ち続けられるかは楽観できないという問題意識からラボが設立されたと語った。

新しいプラットフォーム:SFCの国際化と日本研究

これからのSFCの国際的取り組み

次に、SFCの国際戦略委員会の委員長でもある神保准教授と古谷知之准教授により、今後のSFCの取り組みが解説された。
 神保准教授は、90年代以降は日本研究への関心の低下・分散化が起きていると指摘。原因として、日本のスペシャリストになることの価値が持てるほど、海外から見た日本が魅力的で無くなってきている事、日本側でも語学的に留学生に対応できないといったバリアがある事、留学生が日本で就職を希望してもなかなか希望通りにいかない事などを挙げた。
 そこで今回のプラットフォームでは、レジデント型で何年でも滞在できるようにするなど、より柔軟に外国人に対しての日本研究の支援を行う体制を整備し、魅力が低下している日本研究のリカバリーを果たしたいと説明。
 また今後のSFCの国際戦略について、SFCと海外の学生を相互に交流させるなどの経験を通じて、SFCにいながら国際競争力の強化を果たしていきたいと語った。そのためにはSFCの理念と資産を国際戦略と連動させる必要があり、プラットフォームラボもこの資産となっていきたいとの考えを示した。
 次に、古谷准教授が、国際戦略に関しての未来創造塾の取り組みを語った。24時間キャンパスと謳われるSFCだが、義塾の原点に立ち戻ってレジデンシャル型の教育を展開すると同時に、国際戦略を展開しなくてはならないと指摘した。また古谷准教授は、日本への関心が相対的に薄れているという話を受け、ORFで発表されているような研究は、日本が世界に対して強みを持てる分野であり、これらの分野から新たな関心を引き出せるのではないかと着目。こういう研究を深めていく事で、レジデンシャル型の日本研究キャンパスにしていきたいと述べた。

新しいプラットフォーム:SFCの国際化と日本研究

SFCの言語教育

その後、言語教育を専門とする教員によって、これまでのSFCの言語教育の取り組みが紹介された。
 まず、重松教授がSFC創立から20年間の言語教育の取り組みを説明。最初の10年は、国際化に貢献できる人材を育てるため、コミニュケーションをとるための基礎教育を主に行ってきた。次の10年は、インテンシブコースなどで、少数でも母語ともう一つの言語をしっかり見につけた人を身に着けるという教育を行ったという。
 加えて、現在の言語学習環境について、発達したネット社会を利用し、学習に生かしていこうという方向に進んでいると解説。SFCでの新しい教育の方法として、SFC各言語セクションにより制作された、多言語化された教材群にアクセスできる「多言語モードサイト」から、テレビ会議を使って学習する試みを実際に表示して紹介した。
 平高教授はSFCの多言語教育について解説。最近では、教室を出て実際の社会へ出て行くような教育、また言語を教えるだけでなく、そこから専門の研究へと近づける部分をケアするという教え方になっていると示した。
 一方SFCの日本語教育について、幅広い日本語レベルを有した留学生を対象とした日本語教育の取り組みも紹介した。また地域の外国人の子供達の支援を学生が行うという動きがあることも添えた。
 その後、実際に日本研究プラットフォームの前線で活動している、陸楽さん(98年総卒)が慶應の国際戦略について述べた。
 陸さんによると、慶應の留学生は他の学校に比べて少なく、留学生数は国内の大学において18位。そのため、慶應は中国での知名度が殆ど無いという。福澤先生は世界を見た上で危機感を持ち、実学や独立自尊の概念を唱えていたが、今の義塾はそういった危機感を持っているか? と問題提起を行った。
 日本に比べて留学生への支援が手厚い海外の事例を紹介した後に、これからの時代、日本のキャンパスをグローバル化すると共に、海外にもキャンパスを設立し、現地の子供達にも慶應という選択肢を提示していくことを考えなければならないと陸さんは論じた。

グローバル化の先にあるもの

最後に、特別ゲストとして奥田敦教授がSFCのグローバル化の未来を語った。

新しいプラットフォーム:SFCの国際化と日本研究


 まず、今までSFCでは8つの言語を週何時間と教えてきたが、果たしてそれで十分なのか、たとえ言語を習得できても、相手に嘘をついていたらそれはコミュニケーションが成り立っていると言えないのではないかという問題提起がなされた。
 奥田教授は、世界を見渡してみると、自分の失敗について「ごめんなさい」ときちんと謝れる人は少ないのではない、このような詫びる気持ちのように、言語や文化の違いを乗り越えて共有できるものが世界にはあるはずだと述べた。日本研究を通して、世界の人々が共有できる何かを探していけるようなプラットフォームが出来る事が一番望ましい、とした。
 そういった、言語や専門の向こう側にある何か、皆がそれを掴める様な類の言語教育、専門教育に繋がるようなグローバル化ができるか否かが、SFCが世界の中で生き残っていけるかどうかに繋がっていると示唆した。