メディアセンター1階のFabスペースに並ぶ3Dプリンタやデジタル刺繍ミシンなどのFab機器に実際に触れ、ものづくりの楽しさを発信する「Fabってあそぼ!」。今回は、水野大二郎環境情報学部専任講師インタビューの後編をお送りする。3Dプリンタ銃製造事件の規制議論から見たデジタルファブリケーションのこれから、そしてFabスペースの展望を熱く語っていただいた。

Fabスペースのマシン

3Dスキャナは、物質を情報に変換する。

”入力”するマシン―3Dスキャナが可能にする情報と物質の交通

Fabスペースには3Dスキャナという、ほかとは性質の異なるマシンがあります。ほかのマシンが「出力」するのに対して、3Dスキャナは「入力」するということです。デジタルファブリケーション(以下、デジファブ)のおもしろいところは、情報という物質的な重さのないモノと、重さがあって知覚できるモノとの間を行き来する、交通できるようにすることです。それを体感するためには、データをただ単にコンピュータ上でゼロから作るだけではダメで、物性を理解することが必要です。そういう意味で、3Dスキャナというのはデジファブにおいて大切なマシンだと思っています。
 現代においては、物質から情報へと消費の在り方が変わりましたよね。カタチのない情報へお金を出すことも当たり前になってきました。ただ単にその逆(情報から物質へ)を実践するというわけではなく、入力が可能な3Dスキャナによって多様な表現をするということを可能にして、情報と物質の間の交通が双方向に起こることを期待しています。

“共有”するマシンの導入へ

Fabスペースにマシンが、秋からひとつ増える予定があります。それはレシピ(つくり方)データを共有するためのマシンです。
 これからもマシンの種類を増やしていく予定です。みなさんとつくりあげるFabスペースですので、「あったらいいな」と思うマシンがあったら教えてほしいです。
 

メディアとしてのデジファブは規制されるべきか

4月に導入された3Dプリンタ「MakerBot Replicator 5G」(MakerBot社)

新技術の宿命―3Dプリンタ規制議論は然るべき流れ

今年5月に3Dプリンタで殺傷能力のある銃が作られ、大学職員が逮捕されるという事件(3Dプリンタ銃製造事件・2014年5月8日逮捕、6月16日再逮捕、銃刀法及び武器等製造法違反容疑)がありました。それに対して、デジファブが規制されるべきではないかという議論も起こりましたね。
 しかし、今までにも新しいメディアが出る度に社会は揺れてきたわけです。今までになかった技術の誕生によって、より多くの「情報」が交換できるような状況が生まれてきた。その度に社会が問題視して、その技術を抑制しようとしてきたんです。それは電子的な情報技術だけではありません。かつて、イギリスでは郵便ポストができただけで社会問題になったという話を聞いたことがあります。新しい技術やアイデアが生まれる度にいろんな懸念が起こります。その上で、規制のために新しい法律を作るべきかという検討が必要なこともある。いずれにせよ、議論が起こることは当たり前ですよね、技術によって社会が不可逆に進化するわけですから。
 金属加工についてインターネットで調べる能力さえあれば、3Dプリンタを使わなくても銃を作る事は不可能ではありません。一旦、守られていた情報が人間の手からリリースされてインターネットに出てしまうと、それを食い止めることはできないわけですよね。3Dプリンタの銃っていうのはわかりやすい故に多くの人を不安にさせましたが、よく考えるとそれ以外にも人を傷つけるための道具は山ほどあります。それを全部規制するのかということになるのは、議論として不毛ですよね。製鉄技術やダイナマイトを作る技術であらゆるものが作れるようになったのと同じように、3Dプリンタも莫大な可能性を秘めています。人を傷つけることだけが3Dプリンタの存在価値ではないんです。

知的財産権の問題―行動抑制ではない対等な取り決めを

ほかにデジファブで何が問題になるのだろうか、何が規制の対象になり得るのだろうか、という話になると、知的財産権の話に及ぶことになります。
 例えば、カッティングマシンとかデジタル刺繍ミシンとかを使えば、特定のファッションブランドのロゴを容易に模倣・複製することが可能ですよね。しかも、これまでみたいに2Dプリンタで紙限定だったものが、いろんな種類の布にいろんな形で印刷するのが容易になったわけです。しかも、企業だけではなく、個人が実践できるようになったわけですから、規制するのはとても難しいという考え方もあります。
 現在の知的財産権制度では、パーソナルファブリケーション(個人用途のデジファブ)で起こる一切合切を規制するには不十分であることは間違いありません。もちろん、デジファブでつくったコピー品を販売すること自体は現行の法律で取り締まることができます。しかし、個人の作りたいという欲望を規制するのは不可能です。ファッションブランドのロゴは特許庁のデータベース(IPDL、特許電子図書館)に載っていますが、それらは基本的には企業間の取り決めを保護する名目です。なので、企業対個人になると新しい枠組みが必要です。その枠組みというのは、誰かが誰かの行動を抑制するのではなく、誰かが誰かと取り決めをするものでなくてはいけない。対等な関係を前提にして、これだったらいいよ、という契約のあり方を検討すること、お互いが納得できるように決めることがとても大切なのではないかと思っています。
 

これからのデジファブ

参加型プラットフォーム―人を巻き込む仕組みづくりに期待

最初につくった人に対してどのようにリスペクトできるのかという姿勢で、自分から参加していく精神が必要だと考えます。Fabスペースで実際にモノをつくることで、受動的な立場から能動的に参加するという立場に変わっていくわけです。参加する人がどんどん増えていくと、今度は参加する人をまとめるプラットフォームや、ユーザーコミュニティを作る人が出てきます。
 SFCは、社会を変革するにあたって何を先に考えるかという思考の場所だと思うんです。ファブが様々な社会問題に対して解決策の一つとなるのでは、ファブラボのような場所が社会イノベーションの重要なハブになるのでは、と多方面から期待されています。この意味において、Fabスペースはただ「ものづくり」をするだけではない、未来をつくる場所です。
 今在学中のSFC生が「あそこを利用していてひらめいたんです」なんて話が5年、10年先に聞けたら本当に嬉しいですね!

水野大二郎講師インタビュー後編、いかがでしたか。前編よりさらに踏み込んだ水野講師のデジファブに対する考えが読み取れます。同時に、FabスペースをSFC生に活用してもらいたいという熱い想いも伝わってきますね。SFC生こそが、デジファブをリードする先駆者なのです。

「Fabってあそぼ!」では、弊部の部員がFabスペースにあるマシンを実際に利用したり、Fabに関係のある人物に話を聞いたりすることで、独自の視点でFabに迫っていきます!