奥田敦研究会は、11月2日(日)-16日(日)の2週間にわたり、アラブ諸国の日本語学習者を招聘し、学術交流を行う「アラブ人学生歓迎プログラム(ASP)」を開催する。SFC CLIP編集部は、ASP実行委員長の井川英利奈さん(総3)にASPにかける熱い思いを聞いた。

(写真は関係者様からの依頼により削除させていただきました)

アラブ人学生を日本に招いて学術交流―ASPとは?

アラブ人学生歓迎プログラムを示す「ASP」とは、「アハラン・ワ・サハランプログラム」(Ahlan wa Sahlan Program)の略称であり、「アハラン・ワ・サハラン」とはアラビア語で「ようこそ」という意味だ。2002年に始まったASPでは、アラブ諸国の日本語学習者をSFCに招聘し、アラビア語を学ぶ学生たちのサポートのもと、日本語レポートの作成やスキット撮影をはじめ、ホームステイや旅行などの幅広い学術交流、日本文化体験を行う。

ただの文化交流だけではない―学問追求という共通の立場を築く

ASPは一般的な「文化交流」とは一線を画している。単に互いの文化や伝統の相違点・共通点に目を向け、認め合い尊重し合うことだけを目的とはしていない。
 このプログラムでは、様々な価値観を生きてきた学生が、お互いの多様性を尊重しながら「学問を追求する者同士」という共通の立場で学ぶ。自分たち自身が率先して変化して行くことが大切にされており、互いがどのように変わっていけば、「学問」を究めようとする者同士として、よりよい社会を共に作っていけるのかを、活動を通じて考えていく。その意味で「文化交流」ではなく、「学術交流」である。
 将来にわたって、日本とアラブの私益にも国益にも囚われない真の友好関係を発展させることのできる人物の育成を目指すプログラムなのだ。
 

3カ国から5人を招聘

今年のASPにはアラブ6カ国から27人の応募があり、5人が選出された。選考では、日本語運用能力はもちろん、本人の問題意識や熱意が焦点となる。それらをASPの理念に照らし合わせることで、招聘者を選抜・決定する。

名前 性別 年齢 出身 専攻 レポートテーマ(予定)
イスマーイール・ナイト・アブドゥッラー・ウアリー 男性 24歳 モロッコ コンピューターネットワーク モロッコ・日本の文化における共通点
ウマル・アブドゥッラー・アッシャマーイラ 男性 19歳 ヨルダン グラフィックデザイン 非母語話者のためのアラビヤ語教育
シャイマー・アラミー・メッルーニー 女性 21歳 モロッコ 経済学 日本人の忍耐
ナダー・フサイニー 女性 26歳 シリア 英文学 日本における教育法
ハスナー・アウワード 女性 27歳 ヨルダン 教育 日本の学校における教育方法
ASP招聘学生の紹介

奥田研究会に所属していない学生でも、レポートテーマに関心がある人、調査に関わってみたいという人は、asp2014.public@ml.keio.jpに連絡してみよう。
 

授業で招聘学生が発表 SFC生がASPに触れるチャンス

奥田敦教授が担当する講義「イスラームとイスラーム圏/現代文化探究」(金4・Ω11)のうち2回が、ASPの活動に含まれている。
 1回目は11月7日(金)、招聘者が日本語で自分の出身国(モロッコ・ヨルダン・シリア)について語る。日本人学生にとっては、頻繁に報道されているアラブからやってきた現地の学生の生の声を聞ける貴重な機会だ。2回目は11月14日(金)、招聘者それぞれがASP期間中に取り組んだ日本語レポートの最終発表を行う。
 どちらの授業も履修の有無に関わらず、参加が可能である。質疑応答にも積極的なので、昨今のアラブ関連報道を目にして少しでも関心や疑問がある人には、またとないチャンスである。
 

ASPにかけるSFC生の思いを探る! 実行委員長の井川英利奈さんにインタビュー

開催を目前に控え、ASPの中心を担う実行委員のSFC生はどのような思いを秘めているのか。今年度ASPの実行委員長を務める井川さんにインタビューした。
 

— なぜ実行委員長になろうと思ったのですか?

過去の招聘学生がASPへの参加をきっかけに現地に日本語学校を建てたことがあります。また、私がアラビア語の現地研修に行ったときに過去のASP参加者と会うこともありました。そういった事例や経験を通して、ASPは単なる大学のひとつのプログラムではなく、アラブ人一人ひとりにとって、すごく大きなステップなんだな、と実感したことが、理由の一つとしてあります。
 もう一つの理由は、ASPの出だしがスムーズなものになってほしいという気持ちがあることです。私は委員長なんてタイプでもないので悩みましたが、滅多にない機会だと考え、委員長に手を挙げました。
 

— 過去のASP参加者で日本語学校を建てた人がいるのですか?

はい、過去のASP参加者が現地に日本語学校を立てました。さらに、昨年のASPで招聘された学生のなかには、その日本語学校で勉強したという人がいます。まさに、「わ」ができているんですよね。自国に帰ってからも勉強を続けるという個人のモチベーションもすごいですが、ASPに参加したことが大きなきっかけや転機になっているんだと思います。
 

失敗体験をバネに委員長という重責を

— なるほど。井川さん自身は、昨年に続き2回目の参加ですが、昨年ASPに参加して、自分の中で成長したことや変わったことはありましたか?

私にとってのASPは、成長というよりも、成長のための挫折という意味合いが大きかったです。私は引っ込み思案な性格で、ASPより前にあったアラビア語の現地研修では、自分から積極的に言葉を発することができなくて。ASPでは積極的に頑張ろうと思っていたのですが、日本語レポートに関して招聘学生の問題意識を探るためにアラビア語を使わなければいけなくなったとき、全然話せませんでした。結局、院生に頼ってしまったので、自分としては主体的に関われた感じがしなかったんです。本当に自分のアラビア語力はまだまだなんだな、という挫折感を味わいました。
 あと実感したことは、できないからやらないんじゃなくて、できないながらも自分でできる限りのことをやるのが大事だということです。昨年、私がチューターをした招聘学生は、日本のアニメがすごく好きな人でした。プログラムで東京旅行に行ったとき、私はアニメがわからなかったので口出しもできず、とりあえずついて行くだけでした。すると、招聘学生には、私が我慢してるように見えたみたいで、「大丈夫ですか?」とすごく心配されたんです。こちらがもてなす側なのに向こうに気を遣わせてしまって、私は何をしているんだろう……と痛感しました。アラビア語ができないとか、アニメを知らないとかじゃなくて、知らないなりにもっと積極的に聞くというコミュニケーションをすべきだったと反省しました。

(写真は関係者様からの依頼により削除させていただきました)

「わ」の意味は十人十色―今年のテーマに込める思い

— そういった失敗体験も成長につながっていくのですね。今年のASPテーマ「わ」についても教えてください。

テーマについて各班や運営委員会で話し合っていたところ、「平和」や「輪」という言葉が出てきました。さらに議論を重ねた結果、ひらがなの「わ」にすることで、いろんな意味を投影できるようにするのがいいのではないか、という意見ができあがりました。
 平和の「わ」でもいいし、輪っかの「わ」で人と人の繋がりを指してもいいし、対話の「わ」で話すということを指してもいいと思います。接続詞で前後を結びつける「〜と」という意味の、アラビア語「わ」もあります。私たちが思っている「わ」が全てではなく、人それぞれの「わ」があっていいのです。どんな「わ」を大事にして実現していくのか。それを考えるきっかけになればいいな、という思いを込めました。

— 「和」もそうですよね。では、今年のASPにかける思いや、意気込みを聞かせてください。

昨年は自分がチューターをする招聘学生をサポートで精一杯でしたが、今年は実行委員長として招聘学生一人ひとりの不安をまずはなくしたいと思います。
 そして、今年は初めて参加する日本人学生が多いので、そういう人が置いてきぼりなってしまわないようにしたいと考えています。みんなが自分のできる範囲で最大限に参加できるように尽力します。
 

「アラブ人の将来の一歩に」広がりを見せるASPの「わ」

— 心強い意気込みですね。ASPはこれからどのようなプログラムになってほしいですか?

今年は、初めてスーダンから応募がありました。スーダンにはこちらの繋がりがないので、本当にアラブ人同士の間でASPの「わ」が広がっているのだと感じました。応募人数も昨年の11人に対して今年は27人。内戦中のシリアだけでも11人も応募がありました。確実に広がりは見せています。これからもさらに「わ」が広がって、アラブ人の将来の一歩になってほしいです。
 そして、ASPは、アラブ人だけでなく日本人にとっても、たくさん考えることがある2週間です。自分には何ができるんだろう、できないながらも自分ができることはなんだろう、と自主的に考えることは、日本人にとっても大きな機会なのです。

— 最後に、一般のSFC生にメッセージをお願いします。

最近は、アラブやイスラームに対して負のイメージが強くあると思います。私自身、なぜイスラム教徒は戦争ばかりしているのか、と聞かれることもあります。でも、アラビア語の現地研修で関わった人にそんな人はいません。むしろ、本当に優しい人たちがほとんどです。赤の他人にどうしてここまでしてくれるんだろうって思ったくらいです。
 一般のイスラム教徒は、戦争ではなくて平和を望んでいる、思いやりのある人ばかりです。負の一面があるのは事実ですが、そればかりではありません。誰でも見ることができるASPの発表会に参加して、ASPが掲げる「わ」について多くの人に考えてもらいたいです。

(写真は関係者様からの依頼により削除させていただきました)

CLIP部員がASPに潜入! 密着リポートをお届け

今回のインタビューでは、奥田研究会のASPにかける熱い思いに触れ、その大きな意義を知ることができた。
 さて、2日から始まるASPに弊部部員が参加し、密着取材を行うことが決まった。プログラムの詳細に迫ることはもちろん、招聘学生のインタビューも行う予定だ。お楽しみに!