いよいよ来週22日(水)・23日(木)、六本木・東京ミッドタウンにてSFCの研究発表イベント「SFC Open Research Forum 2017」(以下、ORF)が開催される。2年連続で実行委員長を務めた中澤仁環境情報学部准教授から交代し、今年度は「LAB IS THE MESSAGE 実験する精神」をテーマに加藤文俊環境情報学部教授が実行委員長を務めるORF。さまざまな変化に秘められた「MESSAGE」を聞いた。

SFCの根底に流れる「実験する精神」

ORF実行委員長を務める 加藤文俊教授 ORF実行委員長を務める 加藤文俊教授

—— 今年度のORFのテーマにはどのような思いが込められているのでしょうか。

具体的な時期は覚えていないんですが、熊坂先生(熊坂賢次名誉教授、2001年-2005年 環境情報学部長)が学部長だった頃にSFCガイドに書いてあった文章が好きで。とにかく「SFCは新しいことをやろう」って言っていたんですよね。既存のものをいい意味で疑ったり、「新しい可能性があるんじゃないか」と考えるのが、SFCのスピリットだと思うんです。

SFCは、巷ではインターネットのイメージがすごく強いのが事実です。でも、「SFC=インターネット」だけではなく「SFC=まだ見ぬものを見に行く、まだないものを作っていく」という部分が大事だなという思いが前からあったんです。インターネットがこれだけ普及すると、たぶん「インターネットの次は何だろう」っていう話になりますよね。でもそこで「インターネットの次はこれだ」というトピックを探すのではなくて、「周りが変化しても変わらない、本質的なことは何か」を考えてみる。そして、もちろん考えているだけではだめなので、手足を動かす。ないんだったら作っちゃおうよっていうスピリットですね。

そこで大事になってくるキーワードが「実験」です。SFCは、教員も学生も「やってみないとわからないから試してみようよ」というカルチャーがあります。それはとても大切なことなので、そこを際立たせるというか、強調するようなテーマにしたいという話をORF実行委員会のなかでしていました。

最近、「LAB(ラボ)」という言葉はけっこう日常的にも使われていますよね。世の中では「実験」という言葉だけで説明されるかもしれませんが、それでも社会のいろんなところに、言葉では語り得ないような「挑戦しながら結果を見てそれを直して…」というような「実験と試行錯誤」みたいなものが、ひとつの考え方として、大げさにいうとひとつの生き様のように染み出しているように感じられるんです。SFCは元からそういったスピリットを持っているはずなので、「実験室」っていうのをダイレクトに全面に出しました。ORFはやっぱり実験室のショーケースなわけだから、実験室(研究室)のありようを見せるということ自体、「MESSAGE」を持っていると思うんです。「自分たちはこういうことをやっています」「こういう方向を向いてます」というように。ブース展示やセッションそのものが発信力を持っているのではないか、あるいは発信力を持っているべきだという思いを込めて「LAB IS THE MESSAGE 実験する精神」というテーマにしました。

—— こうしたテーマが反映されているセッションはあるのでしょうか。

どれも甲乙つけ難いんですけど、ひとつは、この秋学期に開講されている寄附講座「出版の未来」と紐づけられた「パブリッシング – 出版の未来をウェブに見る」があります。出版っていうと僕たちはどうしても本とか紙媒体をイメージしてしまうけど、パブリッシュを「公のものにする」と捉えるなら、当然紙媒体に限られるものではないですよね。色々な媒体を通して「発信」「表現」していこうというテーマを扱うセッションがあります。

あとは、去年から始まっている「ファブ3Dコンテスト」がありますね。例えばコンテストは部門別にエントリーできるようになっていて、オープンな形でいろんな人が参加できる企画が動いています。ORFが単に僕たちだけの展示の場ではなくて、外部の人とか、なんらかの形でSFCに関係を持つ人たちが集う場として拡張しているのだと思います。

SFCで重要になってくるものとしては、「未来をデザインするSDGs。その可能性を研究から考える」もあります。グローバル化が進むこの時代に、みんなが共通して使えるSDGs(持続可能な開発目標)というゴールがあります。「この活動はこのゴールに寄与しています」ということを表明する17種類のアイコンがあるんですよ。こういうものを用いていくと、みんなが共有できるビジョンがつくられていくかもしれません。SFCが今までやってきた「実験」も、SDGsという観点から再度評価していくことにはすごく意味があると思います。

変化の多いORF2017 その背景は

—— 日程が例年の週末(金・土)開催から変更になりましたが、その背景をお聞かせください。

僕自身は、変更というより、曜日ではなく単に「11月23日」の前後に設定しているものだと理解していました。平日なら、企業の方は仕事の一環として来ることもできるし、夜まで展示をしているので、社会人は、会社帰りに来ることができる。祝日(あるいは週末)だとまた少し色合いが変わって、高校生やOB・OGも動きやすいですよね。僕は今年が特異というイメージはまったく持っていませんでした。

—— ブースのデザインが変更されましたが、その背景もお聞かせください。

松川さん (松川昌平環境情報学部准教授)がデザインしたブースは3年使ったんですよね。実はその前の2年間も松川さんが担当していて、そろそろ交代しましょうっていうのが一番わかりやすい理由です。もうひとつは、あの木材も使途がもう決まっていて、もう使えないということ。また、防炎加工を施すとなると、手間もコストもかかる。

会場設計の難しさは、年々出展者が増えているということともダイレクトに関係しています。当然のことながら、ブースのスペースは、出展したい人が増えれば増えるほど狭くなるわけですよね。そして、ORF実行委員の議論の中で「基本は全員均等割にしよう」という方針になりました。だから、会場を見てもらうとわかるように、大部分の研究室は同じ面積を割り当てられています。

いっぽう、SFCには「ラボ」や「コンソーシアム」という仕組みがあって、ORFは、そうした仕組みをとおして学外のパートナーとともに調査研究をすすめている研究室が成果を発表する場として位置づけられています。だから、それを勘案する。わかりやすく言うと、専任教員は1人1区画。「ラボ」や「コンソーシアム」の代表者はさらに+1、たとえば2つの「ラボ」の代表を務めていたら+2、というように区画を割り当てることにしました。そうすると、実は今のSFCの調査研究がどのように外部と連携しているかが可視化されることになります。まさに「SFCの現在(いま)」を映した会場になるはずです。

あと、大きく変わるのはイーゼルの高さですね。155cmくらいなんですよ。だから、身長170cmの人だったらイーゼルから頭が飛び出るような感じなんですよね。天井が広くて、かつ全部の展示が目線を下げるくらいのところで揃っているので、どうなるのかちょっとわからないです。今年、会場設計をお願いした鳴川さん(鳴川肇環境情報学部准教授)はアジアの村や街並みのイメージだと言っていました。メインストリートがあって、路地があって、いろいろな道筋を通り抜けられるようなカオスな感じにしていくと。彼のイメージがどこまで実現するのかわからないですが、そこは面白いところなんですよね。僕も、ブースの展示内容はもちろんなのですが、ストリートでいうところの交差点のような、人と人とが交わる場所こそが面白くなるだろうと期待しています。だから、シンプルになっているように見えて、それなりにORFのカオス感は変わらないんじゃないのかな。

ORFは本当に「実験」できているのか? 委員長としての思い

—— 変化というと、環境情報学部長の交代ということがありました。それによる影響はありましたか。

学部長、研究科委員長の選挙の年なので、ORFを実施する頃には体制が変わっていることは、もちろんわかっていました。なので、特に影響があったということはないですね。

それよりも、実際に委員長という立場でかかわることで感じたことはたくさんあります。なにより、ORFはイベントとして社会的にも認知されてきて、大きなイベントに育ってきたということを、あらためて実感しました。個人的にはORFが大好きだし、今までの積み重ねがあって立派なイベントに育ったことは、リスペクトするべきだと思います。

その一方で、イベントとして成熟してきているから、段取りがすごく整っているんですよ。僕は、むしろ整いすぎているとさえ思ったんです。これまでの知恵と経験が蓄積されているからやりやすいものの、僕の性格もあってか、そのやりやすさというのが若干、つまらなさになってくるというか。まさに冒頭で話したような「実験」がしづらくなっているのではないかと感じながらすすんできました。「実験する精神」とか「LAB IS THE MESSAGE」などと言いながら、今年に関しては、実験環境としてのORFそのものについて、十分に問いなおすところまでは行けなかった。

そもそもORFというイベントさえ存在していないところで、「やりましょう!」という声が上がった。最初はSFCで開催していたのが、六本木ヒルズができたときに誰かが「外に出ましょう!」という決断をした。それからはずっと六本木や都心で開催することになっているわけで、まさに「実験」したということですね。SFCの教員が全員2日間外に出ていって成果報告をしましょうというというのはわくわくするアイデアだし、みんなやっぱり冒険心があって動いていたと思うんですよね。だけど、イベントとしてある程度成熟して、みんなにとって「あたりまえ」になって、大胆な冒険ができなくなっているのかもしれない。まさに、委員長の「実験する精神」が問われていたんじゃないかと考えると、今は、自分の非力さを責める気分になっています。

ORFがイベントとして「あたりまえ」のように整っていることは、実は僕たちにとっては黄色信号です。惰性とは言わないまでも、僕たちの向き合い方が、「年中行事に参加する」みたいな話では面白くないと思うんですよ。みなさんがそうしていると言うつもりではないのですが、今回やってみて僕は勝手にそういう空気を感じてしまいました。お決まりのルーティーンの中に位置づけられてしまうと、イベントとしては面白みを失っていくんじゃないかと。委員長としてというより、一教員として、1人のコミュニティーのメンバーとして、ちょっと心配になりました。

少し考えを変えてみると、ORFは、100人くらいの教員、つまり100くらいの研究室・団体によるグルワなんですよ。「外部の人に2日間、日ごろの成果を公開する」という課題です。そう考えると、すごく楽しいチャレンジに思えてくる。例えば、スペースが足りないという問題は、僕たちがグルワで解かないといけないものなのかもしれない。かぎられたスペースを、100人でどう分け合うか。こういう課題に向き合うときにこそ、お互いの人間性を確認することになります。だから、そういう意味でもORFは「実験」の場所なのかなと思っています。グルワだと考えると、ちょっと気楽になりました。今年は、特に会場設計が大きく変わって見えると思うのですが、あのイーゼルも、2年、3年と活用して、僕たちが使い勝手を学んで使いこなせるようになってくると、展示がよくなっていくでしょう。今年は、転機なのかもしれません。見かけからしてだいぶ変わるから、去年を知っている人はだいぶびっくりすると思うけどね。

ORFはカリキュラムにない学習の場

—— 最後にSFC生に向けて一言お願いします。

ORFは、SFCの教員が一堂に会するという、七夕祭や秋祭とはまったく違うイベントだと思うんです。21年間かけてイベントとして定着しているのは間違いないので、ぜひ、行くといいと思いますね。

研究会シラバスだけではわからないような活動内容に、直に触れられる場でもあるし、なにより、タイムテーブルを見ればわかるように、とても面白いセッションがたくさんあります。三田祭期間中で休みなので、まだ行ったことがない人はぜひ行くべき。雰囲気を味わうだけでもいいです。自分の関心領域も広げられるし、単に展示の仕方を見るだけでも楽しい。

特に今年のブースは、統一された什器(じゅうき)なので、どのように使うか、それぞれの研究室の個性が表れるはずです。みんなが同じ規格のブースを使うからこそ、ユニークさを出せるかもしれないんですね。SFCらしさを感じられる場所なので、まずは見に行ってみる。そして、展示をしたことがない人は、今度は展示する側に立ってみる。自分の姿を誰かに見てもらうという体験をすることによって、自分の研究や自分がやっていることが意味づけされていきます。なので、授業やカリキュラムに組み込まれているわけではないものの、すごく貴重な学習の場になると思います。ぜひORFでお会いしましょう。

—— ありがとうございました。

SFCのスピリットである「実験」に対する各研究室の「MESSAGE」が見えるであろう今回のORF。それがどのような場になっているのか、自らの目で確かめに行ってみてはどうだろうか。

関連記事

関連ページ