【ブース】3Dプリンタといえば ソーシャル・ファブリケーション・ラボ
22日(水)-23日(木・祝)に六本木・東京ミッドタウンにて開催された「SFC Open Research Forum 2017」(以下、ORF)。今年も多種多様な研究室が日頃の研究活動の成果を発表した。今回SFC CLIP編集部は、「ソーシャル・ファブリケーション・ラボ(A57)」のブースを取材した。
ソーシャル・ファブリケーション・ラボとは
ソーシャル・ファブリケーション・ラボは、デジタルとフィジカルを紐づけるファブリケーション(Fab)をテーマに、次世代の造形工作機械(デザインマシン)、設計支援環境(デザインツール)、自然的新素材(デザインマテリアル)の新規開発を行っている。また、社会のさまざまな問題にFabを応用して取り組んでいる。
代表を務めるのは、3Dプリンタの研究で知られる田中浩也環境情報学部教授。研究室にある3Dプリンタや3Dスキャナなどの設備を活用しながら、多くの学生が個性に富んだ研究を自由に行っている。
ORFでは、看護・ソフトウェア・表現・建築デザインの4つのプロジェクトの展示が行われた。本記事では、看護と表現の2つのプロジェクトを取り上げる。
ファブリケーションを看護・介護分野に応用
「Fab Nurseプロジェクト」では、看護や介護の分野にFabを応用して質の高いケアを提供することを目指している。デジタルファブリケーションを用いることで低コストかつ自由度の高いものづくりが実現でき、ひとりひとりの身体的特徴を反映したケア用品の開発が可能になる。
Fabの看護分野における社会実装を目指す 若杉亮介さん(総4)
若杉亮介さん(総4)は、抗菌素材でできた柔らかいフレキシブルガーグルベースンを見せてくれた。ガーグルベースンは、うがいなどをする際にあごにあてて用いるソラマメのような形をしたトレイだ。Fabを応用すると個人のフェイスラインにより合ったものを作れるという。病院と連携して患者さんのニーズを確かめ、試作品を使ってもらいながら開発したそうだ。
これからの課題はサービスデザインだという。例えば、ガーグルベースンを患者さんが購入するか病院が購入するかによって、構築すべきビジネスモデルは異なってくる。「今ここで患者さんのニーズに合うモノを作ることができても、患者さんに実際に使ってもらうためには製品を普及させていくための仕組みを体系化する必要があります」と若杉さんは語る。そのために、高さや奥行きなどの数値を入力すると自動生成できるツールの開発などによって誰でもどこでも若杉さんのフレキシブルガーグルベースンを再現できる環境づくりをすること、そしてその製品が患者さんに届くためのサービスも構築することを目指している。
ファブリケーションの新技術を探り、表現を研究
「ハードウェアとマテリアルプロジェクト」では、デジタルファブリケーションの新たな技術と表現方法を模索している。「ハードウェア」と「ソフトウェア」という一見対立する2つの視点から研究を行っていることが大きな特徴だ。
常識を超えたものづくりをアートで開拓 田岡菜さん(総4)
田岡菜さん(総4)は、形状記憶の素材が元の形に戻ろうとする力を利用したアート作品を手がける。「3Dプリントしたものは固く動かない」――そんな常識を、形状記憶の性質を持ったフィラメントを活用することで大きく変えた。
昔からロボットなどの動くものが好きだったという田岡さん。現在は新しい表現方法やものづくりの可能性をアート作品を通して探っている。田岡さんは「デザインだけでなくエンジニアリングも同時に学べるところがこの研究室の良いところですね。今はほかのメンバーも加わり7人で作品を作り始めています。良いものを発表できるよう頑張っていきたいです」と話す。
3Dプリンタによる制作環境をより快適に 千葉真英さん(総4)
テクスチャーに独特の凹凸をつけた造形物は、千葉真英さん(総4)が手がけたものだ。この作品は、3Dプリント中に素材を出力する量や印刷速度などの設定を変えて作成しているという。
現在、田中浩也研究室では3Dプリンタ用に10種類以上の素材を使用している。新たな素材を試す際、どのような条件でプリントすればよいかは未知の部分も多く、試験的に何度もプリントする必要があった。そのため、実際の作品を出力する前の段階で時間やコストがかかってきたという。
そんな課題を解決するため、千葉さんの研究では新しいマテリアルを出力しながら素材ごとの最適値を調べている。目標は、制作段階に入るまでの過程をさらに短くし、3Dプリンタを用いた制作を支援すること。現段階では、素材ごとに適切なパラメータを短時間・低コストで特定できるよう、ツールの精度上げているところで、研究室での3Dプリンタを用いた研究に貢献することを目指している。
これからのファブリケーション
ORF期間中の2日間は、展示物を手に取り、質感や動きなど細部に見入る来場者の姿が多く見受けられた。
近年は3Dプリンタをはじめとしたデジタルファブリケーション機器が普及し、多くの人がデジタルファブリケーションを利用できる環境が整いつつある。そんな中、ソーシャル・ファブリケーション・ラボでは、異分野とデジタルファブリケーションを融合させたり、ファブリケーション技術の先端領域を開拓することによって、これまでのものづくりの範囲を超えた多様な可能性を提示している。ファブリケーション分野の今後の進展が注目される。