ORF2017・2日目の11月23日(木)、「社会安全政策・警察学の未来」が開催された。このセッションでは今年8月に設置された社会安全政策・警察学ラボによる社会安全政策分野における研究の紹介と、様々な分野からのアプローチでこれからの社会安全政策・警察学についての議論がなされた。

パネリストの面々 パネリストの面々

パネリスト

  • 田村正博 京都産業大学 法学部教授、京都産業大学 社会安全・警察学研究所所長
  • 四方光 前・総合政策学部教授、地方公務員共済組合連合会監事
  • 岡部正勝 総合政策学部教授、社会安全政策・警察学・ラボ 共同代表
  • 新保史生 総合政策学部教授、社会安全政策・警察学・ラボ 共同代表
  • 小澤太郎 総合政策学部教授
  • 清水唯一朗 総合政策学部教授
  • 堤和通 中央大学 総合政策学部学部長

産学官連携のプラットフォームに

ラボの設立経緯について語る岡部教授 ラボの設立経緯について語る岡部教授

ラボの共同代表を務める岡部正勝総合政策学部教授によると、SFCでは10年以上にわたって警察庁から専任の教員が出向して授業にあたっており、その中でも歴代の出向者が担当している「社会安全政策」という授業が高評価を得ているという。このような実績が評価され、今年8月に社会安全政策・警察学・ラボが設置された。岡部教授は、このラボには社会安全政策・警察学の認知度向上、法律学者との連携による更なる学際的な研究の促進という目的があると述べた。そしてこのラボを、セキュリティ業界・研究機関・警察庁など行政府を巻き込んだ産学官連携のプラットフォームとしていきたいと決意を語った。

犯罪、刑事手続や法執行におけるAIやロボットの活用

先端技術の観点から社会安全政策に切り込む新保教授 先端技術の観点から社会安全政策に切り込む新保教授

同じくラボの共同代表を務める新保史生総合政策学部教授は、AI・ロボットを利用した犯罪が起こることや、AI・ロボットが刑事手続きをする可能性と課題について語った。ビッグデータ解析により振り込め詐欺など従来の犯罪がより高度なものになるという問題があるそうだ。また、ドローンを軍事施設周辺など飛行禁止区域で飛行させるといった新たな形の罪に問われる事案が発生すると指摘した。

一方、このような技術は捜査や犯罪の予防にも使えるという。AIを犯罪捜査などに利用することで過去の犯罪のビッグデータ解析をして捜査の効率向上ができるほか、ロボットを捜査現場に導入することで警察官の人的被害の抑制ができると期待を示した。しかし、公平な法執行における具体的な課題として、ロボットがセンサーによって黒人を感知することができず、結果的に白人と黒人とを差別してしまうのではないか、という懸念を露わにした。

小澤太郎総合政策学部教授は、人間の心理や意思決定に関して行動経済学やゲーム理論の観点からアプローチをする可能性を語った。小澤教授によると、人間の行動心理として利益局面ではリスク回避的になるが、損失局面においてはリスク愛好的となるため、これを利用して意思決定を善導できる可能性を提示した。この理論から、小澤教授は社会安全政策においては犯罪被害に関する情報を公開したうえで強く訴えていく必要があると主張した。

社会安全政策における政治的中立性と政官関係

政官関係の観点から切り込む清水教授 政官関係の観点から切り込む清水教授

清水唯一朗総合政策学部教授は、警察庁からの初の出向者としてSFCに田中法昌氏が着任して以降、SFCで公共と安全について考える学生が増え、三田ではできない議論がSFCでできているとした。また歴史的な視点から政治学を研究している清水教授は、今後の社会状況の変化に対応していくため、社会安全政策・警察政策はますます政治との協働が必要となると主張した。

そして清水教授は、2014年に内閣人事局が人事院とは別に設置されて以降、従来の官僚制行政機構が内閣主導の中で翻弄されるように変化してきたのではないかと指摘した。実際に第2次安倍政権発足以降の5年間で閣僚官邸で人事を変えておらず、官房副長官などのポストに警察出身者が登用されている。このことを清水教授は「官房副長官のように本来政治任用職ではないポストに政治的任用がなされているということをどのように考えたらいいのかは、その先にある警察機構との考え方としても重要ではないか」と指摘。そのうえで清水教授は、社会安全政策と警察政策でも、これまで以上に国会・与党との関係はもちろん野党との関係も構築し、政治的中立を発揮しながら共同政治を行っていく時代に来ていると主張した。清水教授はこの見解を述べたうえで、政治的中立性はどう保つのか、また協働が高まる中で政官関係はどうあるべきなのか議論が必要であるとした。

より広範囲の学問体系の参加が重要

田村正博京都産業大学教授は、従来の社会安全政策の問題点を3つ挙げた。犯罪事象に対する政策論の欠如、警察政策が国民から理解を得られにくいほど大きなコストのかかるものであったこと、そして組織間での用語の統一性の欠如だ。これらの課題に対する取り組みとして、自身が所長を務める京都産業大学社会安全・警察学研究所で開催されたシンポジウムなどのさまざまな学問分野との交流や自然科学、人文科学分野などとの共同研究などの研究実績を紹介した。最後に田村教授は「従来の社会安全政策のイメージよりも広がった学問体系が参加することがとても大事なのではないか」との見解を示した。

パネリストの意見をまとめる四方光前・総合政策学部教授 パネリストの意見をまとめる四方光前・総合政策学部教授

四方光氏(前・総合政策学部教授)は、社会安全政策では犯人を捕まえるだけではなく犯罪予防についても考える必要があると語った。四方氏は、社会安全政策論には従来の価値論的な法律論に加えて、変わっていく社会状況に対する体系的な認識や社会科学の分野の知見を取り入れる必要があると述べた。

社会安全政策・警察学ラボでは、今後SFC外の関係研究機関などと協力しての公開シンポジウムの開催や、サイバーセキュリティに関連した自主的な犯罪予防施策の一環として青少年・生徒児童に対するサイバー防犯ボランティア活動が実施される予定があるという。AI・ロボットが生活の一部となるなどめまぐるしく身の回りが変化していく時代だ。日常を守る社会安全政策から目が離せない。

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