SFC独特の存在である研究会を、SFC CLIP編集部員が突撃取材する「CLIP流研究会シラバス」。シラバスだけでは伝わらない、研究会の実情を調査する。第2回は井庭崇研究会を取材した。パターン・ランゲージというあまり聞き慣れないアプローチを持った研究会を、井庭崇総合政策学部准教授と井庭崇研究会の学生、荒尾林子さん(総4)、原澤香織さん(総2)に取材した。

何をしている研究会?

井庭崇総合政策学部准教授

 井庭崇研究会(以下、井庭研)は、クリエイティビティとそれを支援する方法について研究している。パターン・ランゲージという手法を用い、創造性の支援を目指す。例えば、プレゼンテーションを成功させる秘訣を34個にパターン化した「プレゼンテーション・パターン」などがある。パターン・ランゲージは、○○学というような学問としての肩書きを持たない。2012年度は人々の協同作業(コラボレーション)を対象にしたパターン・ランゲージを作成している。

活動の仕方

 井庭准教授は研究会を2つ受け持っている。「パターン・ランゲージによる実践知の言語化プロジェクト (魅力があり、想像力をかきたて、人を動かすことばの探究: コラボレーション・パターン)」と「創造社会の理論・方法・実践プロジェクト – Exploring Theories, Methods, and Practices for the Creative Society」だ。井庭研では、前者をB1、後者をB2と呼ぶ。B1とB2で研究対象に大きな違いはない。B1は研究会に所属する全員でプロジェクトに取り組み、B2は個人研究に近い。例えば、B1では2012年度、全員で「コラボレーション・パターン」の制作に取り組んでいる。B2は個人で社会学的な研究や、新しい領域でのパターン・ランゲージの制作に取り組む。B1とB2のどちらを先に履修すべきというような決まりはない。

(無題)研究会中の様子

 研究会の時間は、研究室にある巨大なホワイトボードと大量の付箋を用いてパターン分けの作業をし、講義型の座学は行わない。座学で身につけるような知識は、井庭崇准教授の他の講義を履修して得る。そのため研究は確実にスムーズに進むと井庭准教授は言う。研究会中は音楽をかけるなど、アクティブな雰囲気で活動する工夫がなされている。

 井庭研は、国際学会で研究発表をしたり、卒業論文も英語で書くことにしている。だからと言って、帰国子女や留学経験者ばかりと言うわけではない。井庭准教授は「学生たちには、卒業論文を英語で書くという目標がある。英語での研究会活動は、日頃から英語を勉強するモチベーションになる」と語った。

卒業後の進路

 だいたいの学生は学部卒業後、就職するそうだ。特に業種に偏りはなく、多様な業界に進んでいる。井庭准教授は「パターン・ランゲージが企業から注目されてきているので、数年後にはそういった職能が社会的に認知されて、それを仕事にする人も出てくるだろう」と語った。

学生と井庭准教授との”キョリ”

 荒尾林子さん(総4)と原澤香織さん(総2)に井庭准教授の印象について聞いた。

荒尾林子さん(総4)と原澤香織さん(総2)

 井庭研の特徴は、井庭准教授が学生と一体となって研究を進めていることだ。学生の研究を井庭准教授が指導するというスタイルではない。学生は井庭准教授の意見に対して、「それは違う! この方がいいのではないか」と反論することもある。井庭准教授はこのスタイルを、「背中を見てついて来いという研究会ではなく、同じラインで歩む研究会。私にとって学生は研究仲間」と語る。

 井庭准教授がSFC卒であることも、SFCの学生との近さの理由の一つだ。パターン・ランゲージという新しい分野で、学生と一緒になって模索すること、アウトプットを大切にしていることなど、確実なSFCスピリットを持って井庭准教授は研究会を進める。

(無題)井庭研の学生

 井庭研メンバーはとても仲が良い。お互いをあだ名で呼び合う文化に表れている。研究会のあとには学生と井庭准教授で食事に行くことがあり、学生の家での食事会に井庭准教授が呼ばれることもあるそうだ。井庭准教授の印象を聞く中で、「twitterでの何げないツイートが(井庭准教授に)よくfavoriteされる」「小学校の先生みたい」など、和気あいあいとした仲の良い雰囲気が伝わって来た。