22日(木)、23日(金)の2日間に渡り、三田キャンパス東館(G-SEC)において、国際シンポジウム「インタラクティブ社会とコモンズ型社会基盤」が開催された。


 今回のシンポジウムの主催は、政策・メディア研究科を拠点としたリサーチプログラム「次世代メディア・知的社会基盤」。このプログラムは2002年、文部科学省21世紀COEプログラムの1つに採択されたもので、今回のシンポジウムはこのプログラムによる2年間の研究教育活動の集大成として位置付けられている。会議は全て英語で行われ、日本語の同時通訳も行われた。会議の模様はプログラムのWEBサイトにて同時配信され、現在も上記WEBサイトにて当日の模様を見ることができる。
 今回のシンポジウムで題名にも使われた「コモンズ型社会」とは、コミュニティや組織、社会のメンバーそれぞれが持っている情報や経験を共有資源(コモンズ)として蓄積し、それ使ってイノベーションを起こし、社会的な問題に対処して行くという社会のあり方。有用なコモンズを蓄積するために、情報基盤技術や次世代のメディアを活用して、現代の社会的問題をインタラクティブに解決する社会像を描くことが、今回のシンポジウムが目指した方向性だ。
 そしてその社会像を描くための手段としては、『ユビキタス基盤技術、次世代メディア、社会的実験の三つの層が、互いに浸透する「串刺し」モデル』がプログラムのあり方として想定されている。今回のシンポジウムでは、この三つの層に対応して「情報通信技術」「メディアのデザイン」「受容する社会での実践・研究」という三つの立場からからアプローチした研究教育活動の発表が行われ、学際的な研究を目指すSFCらしい試みといえるものとなった。
 シンポジウムのオープニングには、安西祐一郎慶應義塾塾長と21世紀COEプログラム拠点リーダーの徳田英幸政策・メディア研究科委員長の二人が登場。安西塾長による挨拶と、徳田委員長による今回のシンポジウムで目指す目標の説明があった。
 1日目の22日(木)は、「第1部:インタラクティブメディアの可能性:個人からの出発」と題し、社会の中で個人の能力や社会的価値が技術によってどのように高められるのか、その可能性についての4つのセッションがなされた。
 23日(金)のセッションは「第2部:インタラクティブな信頼と安心できるシステム」。テクノロジーが社会に対して果たし得ることや、受け入れる社会の側の問題などについて、昨日と同様に三分野からのアプローチで4つのセッションが行われた。
 2日目最後に行われたsession8「全体のまとめとこれからの課題」では、2日間の内容のレビューや、ゲストスピーカーからの問題提起、今後の方向性についての議論がなされた。
 その中で、古石篤子総合政策学部教授は「今まで私は(言語が専門なので)テクノロジーや技術者について、偏見があったかもしれない。しかし昨日今日の会議を通じて考え方が変わった。社会的課題に対応するという哲学的な概念を実践するためにテクノロジーを使うならば意義深いと思う」と発言し、今回のシンポジウムで行われた分野間の研究者によるコラボレーションの成功をうかがわせた。
 また、 Clifford Alden Hillコロンビア大学教授は「このシンポジウムではよりよい社会作りをしようというビジョンが感じられた。アメリカや中国の情報技術の研究を見てきたが、社会的なビジョンがないと感じた。『文化を尊重する』という日本の良い考え方だと思う」とプログラムのビジョンにについて評価した。
 一方、Kilnam Chon韓国科学技術院教授からは「今回は様々な社会的課題が提示されたが、その課題をもっと絞り込んで進めてゆく必要があるのではないか?」との指摘もあった。三分野の研究教育活動がコラボレーションする今回のシンポジウムの様な試みを増やし、対処が必要な社会的課題を皆で認識し、解決に向けて三分野からアプローチする必要性が、あらたに見えてきた。
 締めくくりとして述べられた、徳田委員長の「湘南藤沢キャンパスに関わる者として良いビジョン・情熱を持っているということを誇りにしたいと思う。会議は終わったが、今日が新しいコラボレーションのスタートだと思う」という言葉で、2日間にわたるシンポジウムは閉会となった。

国際シンポジウム「インタラクティブ社会とコモンズ型社会基盤」
タイムテーブル
22日(木)
「第1部:インタラクティブメディアの可能性:個人からの出発」
Opening Remarks
session1「インタラクティブメディアとコモンズ型社会」
session2「知とその表象のための技術」
session3「身体知・行動理解・ヒューマンインターフェース」
session4「先進的なメディアデザイン」
「第2部:インタラクティブな信頼と安心できるシステム」
session5「インタラクティブな学習システムに向けて」
session6「テクノロジーによる安心と社会的受容」
session7「環境マネジメントとコミュニティ形成」
session8「全体のまとめとこれからの課題」