筧康明研究室は14日(木)-16日(土)、東京都中央区京橋で展示会「Habilis 身体×物質×情報のシンカする関係」を開催した。筧研究室がキャンパスの外で単独の展示会を行うのは、今回が初めて。筧准教授や学生らが制作した計15作品が一般公開されたほか、2日目となる15日(金)には、ゲストを招いてトークセッションも行われた。


 会場となったITOKI Tokyo Innovation Center SYNQAは、株式会社イトーキが運営するイベント・プロジェクトスペースだ。「組織間を横断した知の交流から、新たなアウトプットを生み出す」というコンセプトのもと、カフェやミーティングルームを一般の人々に提供している。

 広々としたフロアには、モダンなデザインの美しいオフィス家具が並び、そこへ溶けこむように筧研の様々な作品が展示されていた。




ハサミが生きている!? enchanted scissors


 不思議な形をしたハサミは、その名も「enchanted scissors」。山下真裕さん(環3)の作品だ。切るべき所だけを切ることができ、違う場所に刃を入れようとすると、ハサミがロックされて動かなくなる。手に持って実際に切ってみると、まるでハサミが自分で考えながら動いているような、不思議な感覚に陥る。

(無題)



 「電気を通す特殊なインクを使って、線が描かれています。そこへ刃が触れると電気が走ってハサミのロックが外れ、線に沿って切ることができる、という仕組みなんです。この作品を通して、『ものを切る』という身近な動作に対して、新しい価値観を与えられるのではないかと思っています」

しゃべる壁 SteganoSonic


 筧研の作品が、写真とともに紹介されているパネルがあった。近づいてみると、なんと壁が話しかけてきた。実はこれも、学生の作品だ。制作者の田中瞳さん(環2)が、解説してくれた。

「壁に対して、斜め上方向から狭い範囲で音声を流すことで、壁に当たった音波が反射し、近づいた人の耳に届きます。あたかも壁のパネルが話しかけてくるように感じますよね。パラメトリックスピーカーというデバイスです」

(無題)



 さらに、専用の端末を音声に近づけると、自動で関連リンクを取得し、画像・動画など様々な情報を取得することができる。

 「今までは、QRコードなどに端末をかざして読み込む、という作業が必要でした。でもこれを使えば、興味を持って近づいただけで様々な情報を得ることができます。広告や観光スポットに応用できそうですね」


ピクセルが自然に溶け込む Transmart miniascape


 また、筧康明准教授の作品もある。8枚の正方形のガラスが等間隔で重ねられた不思議なオブジェ。そのガラスの中では、白っぽいドット(ピクセル)が様々なパターンを描きながら出現し、消えていく。ピクセルは、オブジェに手をかざすと反応し、動きのパターンが変化する。見ているだけで楽しい、クールな作品だ。

(無題)



 このオブジェは、外光の影響を受けるので、蛍光灯などの白い光のもとでは白いピクセルが浮かび上がり、夕日の中ではピンク色に見えるのだという。動きのパターンは、花・波・雪など様々。風景と重ねあわせて楽しむことができる。

人の感覚を変えていく不思議



 Habilisという言葉には、どんな思いが込められているのだろうか。筧准教授に、話を伺った。

 「Habilisは、”able(できる)”の語源にあたるラテン語。例えば、”rehabilitation”という言葉がありますよね。これは、”re-habilitation”と区切ることができる、つまり「再び – 適応する」のが「リハビリ」なんです。
 人は、環境にいつも適応、フィットしようとします。人とモノ・人と環境が、相応しい関係性になること、これを表す言葉が「Habilis」です。
 自転車の補助輪を外しても、人は自転車に乗ることができます。モノが人に与える感覚の変化や、モノがなくなっても人に何か影響し続けるということ。モノを作って終わりではない、モノを利用して人が進化し続けることができる、そんな未来が素敵だと僕は思います」

(無題)筧康明准教授


 取材を行ったこの日、18:00から行われたトークセッションでは、筧准教授、Mozilla Japan代表理事の瀧田佐登子さんらが登壇。WEBの進化によるコミュニケーションの変化、そこから生まれる未来の生活などに焦点をあててトークを行い、大いに盛り上がった。

(無題)トークセッションの様子