Dエリアは、社会イノベーション(社会・グローバル・地域・教育-社会イノベーション)をテーマとした展示だ。本記事では、丹治三則研究会の福島復興プロジェクトを紹介する。


 丹治三則研究会は、環境安全保障研究会の一つとして福島復興プロジェクトを行っている。東日本大震災からの復興において、教育や観光、まちづくりをはじめ、エネルギーや除染問題など、取り組む視点は様々だ。自然や地域を見つめ直し、人や組織を育成することで、福島の弱い部分を強くすることを研究活動の目的としている。

 今回のORF2013は、「風評被害払拭にむけた料理教室ワークショップ」と「福島県高校生への聞き書きプロジェクト」を出展した。この2つの展示について、学生に話を聞いた。


料理教室で放射性物質への正しい理解を


丹治研3タブレットを使って説明する深尾さん


 「風評被害払拭にむけた料理教室ワークショップ」は、原発事故により福島県産の農産物を中心に発生している風評被害に対するプロジェクトである。農家が食材を提供し、消費者が料理をきっかけに放射性物質への正しい理解を得ることで現状打破を図るという提案だ。
 昨年の夏、福島県を訪れた際、風評被害に対する農家の意識が低いことに、学生たちは問題意識を持った。「どうにか改善できないか」と検討した結果、料理教室にたどり着いた。
 日常的に料理をする主婦層をターゲットに設定している。プロジェクトメンバーの一人である深尾眞登さん(環3)は「食べて復興支援するという形では継続が難しい」と指摘し、「普段から農産物を買っている人たちに焦点を絞った」と説明する。

 さらに、問題意識だけでワークショップを企画するのではなく、論文や消費者に対するアンケート調査をもとに、風評被害払拭に向けて料理教室という手法が適しているという裏付けも取っている。
 これまでに数回、実際に料理教室を実施した。その際、参加者からは、「料理に使う食材がどこで採れたものなのかという食材に関する関心が高まった」という反響があったという。
 これに対し、深尾さんは「風評被害に関心をもつ最初の一歩だ」と言い、「食を楽しみながら放射線やその検査体制について学べる」とこのワークショップの意義を強調した。
 また、今後も続けて料理教室ワークショップを開くにあたり、運営メンバーや参加者を募っている。農産物の風評被害だけではなく、料理や食に関心のある人は参加してみてはいかがだろうか。

「聞き書き」体験で高校生の自己実現をサポート


丹治研2掛さんは来場者に「聞き書き」プロジェクトについて説明した。


 「福島県高校生への聞き書きプロジェクト」は、キャリア教育の一環として、「聞き書き」を福島県の高校に提案する。「聞き書き」とは、あるテーマに沿ってインタビューを行い、構成を考えて文字に起こし、文章を作成した上で、聞き手が話し手から問題意識を奪い取るというものだ。
 今回のプロジェクトでは、福島県内における震災関連の諸問題をはじめ、被災経験や震災復興に携わる人をテーマに設定している。これらについて高校生が「聞き書き」を行い、考察や議論をすることで興味分野への関心を深めたり、問題意識を新たに芽生えさせたりする。結果として、偏差値などの外的基準ではなく、自分が誰に何を学びたいのかという内的基準で進路選択ができるようになる。
 これまで「聞き書き」が普及してこなかった原因の一つに、教員の負担が大きいことが挙げられる。そこで、大学生をメンターとし、インターネット通話などのITを利用するなどして、問題を解決する。

 昨年の夏、福島県立福島高校の生徒を対象に「聞き書き」を実施した。沿岸部を訪れ、津波の被害状況を見たり、被災者から話を聞いたりした。「震災がこんなにも身近な問題なのに、全然知らなかった」と驚いた生徒が多くいたという。
 福島高校は県の内陸部、中通りにある。津波被害を受けた浜通りに対し、目に見える被害の少なかった中通りでは、高校生の震災に対する問題意識はあまり高いとは言えない。
 参加した深尾さんは「関東に住んでいる私たちと同じくらいの情報量しか持っていなかった」と驚きを見せ、「福島県に住んでいるからといってみんなが震災や原発事故に高い関心をもっているわけではない」と話した。

 「大学に入る根拠となる自分のテーマを高校のときに創り、深めなければならない」とプロジェクト代表である掛泰輔さん(環2)は訴える。これは自分探しではなく「自分づくり」だ。掛さんは、偏差値や親・教員からの期待といった、「世間の愚かな価値観」に囚われがちな従来の進路決定に疑問を感じていた。その疑問がこのプロジェクトの根底にあるという。
 関心がない生徒にどうやって関心を持ってもらうかという工夫に課題があるものの、「まずはやってみることが大切だ」と前向きだ。これから本格的に始動していくにあたり、掛さんは「何をなぜ学びたいのかというテーマを高校時代につくり上げてもらえるようにしたい」と意気込んだ。

 「福島県高校生への聞き書きプロジェクト」では、協力者を募集している。震災に関する問題をはじめ、作文や文章教育、問題発見教育などに関心があるSFC生は必見だ。高校生の自己実現を支援すると同時に、指導を通してSFC生自身の自己実現や問い出す力を涵養し、問題解決能力の開発を仲間とともに切磋琢磨してはいかがだろうか。