この春、メディアセンターのFabスペースが1階エントランス横のガラス壁に囲まれたスペースに移転した。もともと設置されていた3Dプリンタに加え、別機種の3Dプリンタ、3Dスキャナ、カッティングマシン、デジタル刺繍ミシンなどが新しく導入された。

 今回のFabスペース移転・拡充を記念して、20日(火)、パネルディスカッション「Fab is for everyone インターネット前提社会のデジタルファブリケーション」が行われた。

いがfab2豪華な登壇者



■登壇者

環境情報学部長 村井純(以下、村井学部長)

環境情報学部准教授 田中浩也(以下、田中准教授)

環境情報学部准教授 筧康明(以下、筧准教授)

環境情報学部講師(非常勤) / 一般社団法人Mozilla Japan代表理事 瀧田佐登子(以下瀧田氏)

これからのメディアとなるデジタル工作機械

 Fabスペースの導入・拡張に向けて尽力した田中准教授は、SFC生によって切り拓かれるモノづくり時代に期待を寄せている。
 「この20年間、日本においてコンピューターやインターネットの進歩を担ってきたのは、SFCの教員と学生たちです。そして、これからの時代は、Fabスペースに置かれた工作機械だったものが個人の頭の中にあるアイディアを形にする『メディア』として、進化を遂げる時代です。SFC生には、この時代を担う存在になってほしいです」
 これまでも、Ζ館にモノづくり工房が存在していた。しかし、今回新たにメディアセンターにデジタル工作機械が導入されたことについても、大きな進歩だと田中准教授は胸を張る。
 「本、コンピューターや動画編集機材などと並ぶ新しいメディアとして設置されたことで、これらのデジタル工作機械がメディアとして認知されるようになると思います」

Mozilla Busとモノづくりの関わり

 瀧田氏は、ネットワーク環境とデジタルファブリケーション機材を搭載したITワークショップバス”Mozilla Bus”を通じた、インターネットとリアルをつなぐ取り組みについて語った。
 「この10年間で、ブラウザやインターネットのできることは大きく変化してきました。WEBによって様々なバーチャルな繋がりが生まれてきた一方で、リアルなものも結局は繋がっている。デジタルからリアルに飛び出していこうという試みの中で、地域格差を解決する手法としてMozilla Busは生まれました。Mozilla Busはネットワーク、3Dプリンタなど、車内に載せるものによってまったく違う使い方ができます。緊急時の情報拠点としてだけでなく、ワークショップやコミュニケーションの場としても使用することができます。十人十色の価値観の違いを繋げていく場になると思います」と、Mozilla Busの取り組みを紹介した。

MoziilaBus_2イベントに合わせて車体が展示されたMozilla Bus


モノづくりの場からつながる人、ノウハウ

 筧准教授は、2008年のSFC赴任当時を振り返り、モノづくりの場の大切さを語った。
 「私がSFCに赴任してきて数年たった後に、Fabスペースの前身であるモノづくり工房ができました。モノづくり工房の存在によって、学生のモノづくりに対する姿勢ががらっと変わり、議論の中にマテリアルのことや、新しい機構を作り出すといった議論が生まれるようになりました。そこにあるマシンも重要ですが、マシンをとりまく場所、繋がりが非常に重要であるということを認識しました。SFCのFabスペースがそうした場になっていくことを期待しています。またそうした繋がりやノウハウを、フェイストゥフェイスだけでなく、インターネット上でも伝播していく場GitFAB(http://gitfab.org)をつくりました。GitHubのようなオープンなソフトウェア開発のカルチャーをファブリケーションの世界にも持ち込み、今後の資産としていけたら、と考えました。まさにリアルとインターネットをつなぐ機構になっていくと思います」

ファブリケーションの黎明期は学生が担う

 3人の登壇者のコメントを受け、村井学部長は「今日のセッションの本質はクリエイティブです。欲求を持つ個人がいて、夢を追い求めるのが人間の特性です」と、パネルディスカッションに勢いをつける。
 「(私が)インターネットを作り上げてきたように、次の世代が夢を実現したり、問題を解決できるようになるための機構を作ることが、私の喜びです。インターネットがオープンになり、その後グローバルに、だれとでも共有できるように…と変化を遂げてきた結果、インターネット前提社会のデジタルファブリケーション時代を迎えました。Fabスペースがメディアセンターに導入されたことにあたり、SFC生にはデジタルファブリケーションの今後の可能性をもっと探っていってほしいと思います」

 村井学部長の発言に対し、田中准教授は学生がモノづくりをすることの意義を付け加えた。
 「デジタル工作機械は既存の何かを効率化したり、ものをつくるツールではなく、創造や発想を刺激する “発明” のツールです。そしてツールは、世に浸透しきってしまうブームの一歩手前が一番面白い状況であると言えます。そうした時の力を発揮するのは、ここにいる学生たちです。なぜなら、学生には、ものごとを創造するための時間がたくさんあるからです。デジタル工作機械に触れることによって試行錯誤をし、創造の本質に触れる経験をしてみてください」

いがfab1


デジタルファブリケーションによって30年後はどうなるのか

 瀧田氏は、これまでのインターネット黎明期についてこう語る。
 「ブラウザやインターネットが無料になり、利用者が増加していった時代を経て、十人十色のWEBの使い方が生まれてきました。その結果、新しい文化が生まれた時に大きなインパクトを世の中に与えることができるようになり、人々の関わり方に大きな変化が生まれるようになりました」
 続けて田中准教授は、デジタルファブリケーションの波を、インターネットの広がりになぞらえた。
 「同じようにデジタルファブリケーションによって、人と人の間に大きな変化が起こってくると考えられます。なんでも作れる状態になった時、従来のモノに対する考え方が全く変わっていきますし、同時にこれまでの社会制度で解決できない問題が生まれてきます。デジタルファブリケーションによって、世界はこれまでと全く違うものになっていきます」
 
 最後に、村井学部長は「Fabスペースが、SFCのうんと目立つ場所に設置されたことを本当にうれしく思います。ぜひみんなで使ってください。」という言葉でセッションを締めくくった。

いがfab4セッション後インタビューに応じてくれる村井学部長


 セッション終了後、村井学部長にSFCとFabスペースとの関わりについての考えを尋ねた。

— SFC生であっても、今の時点で3Dプリンタなどのデジタル工作機械を使ったことがある人はまだまだ少なく、また使い方を教える人も少ないというのが現状だと思います。


 「その点に関してはまったく心配していません。新しいものを使うとき、大学だと先輩から教えてもらって使うことが多いですよね。今はまだ3DプリンタのSFCにおける歴史が浅いため、使える人が少ないと思いますが、これから3Dプリンターなどを使うことができる人が増えていくと思います。教える人も、そして使っていく人もどんどん増えていくのではないでしょうか」

—SFC生にはどのような使い方をしてほしいと考えていますか?


「外れていったボタンを3Dプリンタで作り出して、好きな男の子のボタンを留めてあげる “ファブナンパ” など、たくさん面白い使い方があるとは思いますが、まずは使ってみてほしいと思います。使ったことがあるものじゃないとやっぱり発想も生まれにくいものですからね。何でもいいからぜひ一度使ってもらって、そこから様々な発想を形にしていってほしいです」

 メディアセンターにFabスペースが開設したのを機に、これからの新しいメディアとなっていくだろうデジタル工作機械を使って、アイディアを形にしてみてはいかがだろうか。
 SFC CLIPでは今後、Fabスペースの機材の使い方などを取材していく予定である。