あなたはひとの話を「聴いて」いるだろうか。清水唯一朗研究会オーラル・ヒストリーゼミでは、「インタビュー」を用いることを共通のテーマとして様々な研究が行われている。今回のORFではブース(A39)に今までの研究成果をまとめた冊子を展示しているほか、1人15分程度で個人研究の発表を行っている。

共通するのは「聴く」ことを通して未知を切り拓くこと

「オーラル・ヒストリー」とは、人と「語り」、話を「聴く」ことで研究の糸口をつかみ、それを広げていく手法だ。ゼミ全体で共通することはインタビューという人の温度を感じられる手法を用いて、研究を、そして未知を切り拓くという点だ。現在のゼミ生の数は15人で、研究テーマに関しては十人十色、幅広い分野が立ち並ぶ。実際にインタビューに用いる手法も様々だ。

清水総合政策学部准教授のサバティカル前後で、ゼミ生が扱うテーマが大きく変わったという。以前はインタビューを通して社会的な問題を見出したり、アクション・リサーチの手法を用いて社会を良いものにしようとするような、外向きの研究志向をもつゼミ生が多く在籍していた。対して再開講後は、より深く人の内面にアプローチを進めるゼミ生が多くなったそうだ。

3年ぶりのORF ブースでは様々な個人発表が

2014年度は清水准教授がサバティカルでSFCを離れていたため研究会自体が開講されておらず、2015年度は研究会が再開して1年目であったため、出展を見送った。そのためORFへの出展は3年ぶりとなる。

清水研は全体で共通したプロジェクトに取り組む研究会ではないため、ORFへの出展は個人発表の場という位置付けだ。ブースにはゼミ生たちの研究成果をまとめた冊子が置かれているほか、1人15分程度で個人研究の発表も行われている。今記事では、清水研の数多くの研究の中からいくつかを紹介する。

ブースにはポスター、冊子に洋服まで様々な展示が ブースにはポスター、冊子に洋服まで様々な展示が

音楽という「LAYER」を切り口に

音楽をテーマに研究をしている寺島和貴さん(環3) 音楽をテーマに研究をしている寺島和貴さん(環3)

カルチャーとは、個人の思想の集積だと考える寺島さん。その積み重なったもの、カルチャーを多層構造に見立て、そこからいろんな層を取り出してみようと考えたという。特に音楽が好きだという寺島さんは尊敬するミュージシャンたちへインタビューを行い、「LAYER / music issue.」というZINE(=自主制作の出版物)を制作する活動を行ってきた。今後は、世間の潮流などの自分の外にある価値観から独立してある、一般の人々が本当に大切にしている音楽とその人の関係を考えることによって、音楽の素晴らしさが純粋に表出するのではないかという仮定のもと、研究を進めるそうだ。

幸せは「自分にしかできないこと」の中に?

テーマは「女性の幸せ」 宮田春香さん(総4) テーマは「女性の幸せ」 宮田春香さん(総4)

宮田さんは年齢・職業を問わず、多くの女性にたいして「あなたの幸せとは何か」についてインタビューを行ってきた。それを通じてわかったのは、結婚や子育てなど数々のステレオタイプはあれど、やはり幸せとは人それぞれだということ。そしてその中でも「自分にしかできないこと」を持っている女性は幸せを感じているということがわかったという。このORFでは今までの研究成果を発表するとともに、研究の概要や研究を始めたきっかけに共感してもらえた人には、今後の研究にぜひ協力してほしいそうだ。

内面は外面にあらわれる? ファッションから人を読み解く

来訪者と楽しそうに話す臼井馨子さん(環3) 来訪者と楽しそうに話す臼井馨子さん(環3)

臼井さんは「ファッションと人の関係性」をテーマに研究を進めている。人の内面とその人のファッションは関係しており、ファッションには人となりが表れていると考えているという。インタビューを通して、そのインタビュイーと服のつながりについて明らかにしている。今回のORFでは今までのインタビュイーから服を借り、顔写真とその服とのエピソードを添えて展示している。それに加えて、ブースへ訪れた人々へ、その日の服装をどのような理由で選んだのかのインタビューも行っている。

アートに込められた生き様とは 人をつなぐ架け橋として

ポスターや冊子を用いて、来訪者に説明をする田口茜さん(環3) ポスターや冊子を用いて、来訪者に説明をする田口茜さん(環3)

みなとメディアミュージアム(MMM)という現代アートプロジェクトでキュレーションを務めていた田口さん。学生・作家・地元民の三角関係プロジェクトに関わっている。芸術家がなぜその作品を作るのか、そしてなぜその手法を用いるのか。インタビューを通してそれを明らかにし、地元の人々に発信している。地域の人々の文化芸術への萌芽が目的であると言う。今回のブースでは、「MMM2016の作家たち」というタイトルで、6人の作家のインタビュー記事を冊子にまとめて配布している。

オーラル・ヒストリーゼミでは、毎週様々なテーマの発表を聞くたびに新しい発見があるという。また、ほかのゼミ生のプロジェクトにたいしても親身になれるのが特徴だ。発表を聞いたり相談を受けるうちに、自分のプロジェクト以上に他のゼミ生のプロジェクトのことを考えていることもあるという。

身近な人たちのこと、本当に知っていますか? 「かぞくオーラル」プロジェクト

「かぞくオーラル」にも参加している田口さん 「かぞくオーラル」にも参加している田口さん

個人研究が基本となる清水研だが、複数人の有志で行っている共同プロジェクトもある。「かぞくオーラル」は一番身近な存在である「家族」にインタビューを行うことを通して他者への興味を広げることを目的としたワークショップだ。過去には、小・中学生の子どもたちがその親へインタビューを行う「こどもインタビュー体験教室」や高校生を対象に青春基地とコラボした企画「Family History Lab」などを行ってきた。

上記のものだけでも幅広い分野の研究がなされていることがわかるが、清水研で研究されているテーマではこれだけではない。ゼミ生の数だけテーマがあるのが清水研だ。

ひとの本質に迫る手法 アナログゆえの魅力

清水准教授がゼミ生へ期待していること、それは自分の見方だけで物事を考えないことだという。自分の研究を根拠づけるためにインタビューを行うことはよくある話だ。しかし、インタビューを行うことでむしろ自分の仮説が崩されていく、つまり、人の時間をもらいその人の話を聴くことによって自分が思ってもいなかった物事の見方や価値観に触れていくことが、インタビューを行う上での大きな意味だと考えている。

今年度のORFではAIの活用やシンギュラリティなどハイテクノロジーに関する話題が目立つ。その中で「インタビュー」というアナログな手法を用いる清水研。最先端技術というものはいずれ "最先端" ではなくなっていく。しかし、人の話を聴き、それを理解し、そこから自分のパースペクティブを広げていく能力は人間の本質に迫るもので、古くはならないのだと清水准教授は語る。

あなたと違う価値観にきっと出会える ORFはあす19日(土)まで!

「ORFには当然 "SFCの外" に対して自分たちの研究を発表する場としての意味合いもあるが、 "SFCの中" にある数々の研究が混じるのも見逃せない」と清水准教授。清水研ではあす19日(土)も個人発表が行われる。ぜひ清水研のブースを訪れ、実際に人と関わる中で研ぎ澄まされてきた様々な研究にふれてみよう。あなたもきっと「自分と違うものの見方」に出会えるはずだ。

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