2週にわたり紹介している松原弘典研究室「湘南台の住み方設計」の空き家リノベーション。加藤文俊研究室と合同で行ったワークショップの模様を、今週も引き続き松原研の松本智之さん(政・メ)がレポートする。


エントランスハウス

エントランスハウスの外観
松原弘典研究室は、長年使用されずに放置されていた藤沢市遠藤にある1軒の空き家を再生しました。今月から来年3月いっぱいまで学内で短期利用者を募集しており、12月10日-12日まで加藤文俊研究会に利用していただくことができました。今回は、松原研の学生によるレポートの第2報です。
●17:00-第2課題
審査員の面々

審査員の面々(左からオオニシ氏、加藤先生、山崎氏)
「今回のワークショップの会場となった「エントランスハウス」を、さらに居心地のいい場所にするために、なにか具体的な提案をしてください。ただし、アイデアを整理する際には、以下のことに注意してください。
・提案は、かならず、じぶん(もしくは、いまここにいるメンバーの手)によって実現可能であること。
・予算は10,000円であること。
・企画にはタイトルをつけること。
所定の用紙にアイデアをまとめて、1分間のプレゼンテーションを準備してください。」
いやぁ、なんとすばらしい課題。しかも、最後の一文がいい。
「もっとも優れていると評価されたアイデアについては、10,000円を支給して、(松原研究室と交渉し)提案の実現を試みるつもりです。」
これも第1課題と同じく、3人のジャッジを前にプレゼンし、3人ともYESが出れば晴れてクリヤーとなる。一人でもNOが出ればやり直し。もう1枚プレゼンボードを作り再度プレゼンする。多い人は3-4回プレゼンした。
第2課題プレゼン

第2課題プレゼン
このeXtremeな環境で、知的瞬発力というか、瞬発的創造力というのが求められる。この能力は、仕事でプロジェクトに関ったときや、市民参加のワークショップを行うときなどでも、すごく重要となるスキルだろう。
常に変化しつづける流体力学的な現在の都市や社会に対して、限られた時間と予算と人員の中で計画なり政策を打ち出すという現代の企業その他の組織にこそ、この知的瞬発力というのは不可欠なスキルだと言える。
そう考えると、eXtremeな環境って実はけっこう僕達の身近にあるのかもしれない。
で、山崎さんが今夜中に大阪に戻らなければならないということで、急遽代わりに僕が審査員席に座ることに…。
●18:00-審査に参加
ものを買ってきて置いておくっていう案が多かった。やっぱり、そこにもうひとつスパイスがほしいところ。
第1夜終了

第1夜終了
例えば、「範囲を限定する」とか「対象を限定」したほうがいいのではないか。遠藤という地域の中で手に入るものだけ買うのかとか、おもちゃなのか植物なのか、種なのか花なのかとか。
でも、今日は口の調子がよかったねぇ。舌がまわるまわる。「あ、今いいこと言ったなぁ~、俺。」って思った瞬間何度あったことか。
まわり過ぎてちょっと熱くなったりもしたけれど、加藤先生がうまく仲裁してくれて、危機回避。
加藤先生は、発表を1分できっちり止めさせる。プレゼンテーションの仕方や企画書のタイトルにも鋭くコメントをする。これにはびっくりした。
第2ラウン
ド

第2ラウンド
あまりにNOばっかり出すもんで、一人の学生が痺れを切らして「なんかこのままだとずっとクリヤーする人出てこない雰囲気なんで、2人がYES出したらOKってことにしませんか? 」と提案。に対して加藤先生一喝。
「ルールを共有しているわけだから、この時間内は、こういうルールでやるべきだよ。もしゲームの進め方が悪かったなら、あとで反省すればいい。少なくともこの時間は、このゲームに真剣に取り組もうよ。そうじゃないと、こんなのやっている意味なくなっちゃうしさ。」
最後の一人

最後の一人
足は冷たく、頭は熱い第1ラウンドは、午後9時前に終了。クリヤーできなかった学生は、翌朝再度挑戦へ。
●提案
ここで、僕が良かったと思う案を2案だけ紹介しよう。
1つは、「ツキマチノイエ」。満月の晩にだけこの家が開放され、皆でお月見をするという提案。
「ツキマチノイエ」

「ツキマチノイエ」
実は今日は満月の2日前。きれいな月が大きな玄関から見えていた。あえてなのか、プレゼンではそのことはふれなかったけど、今日という日があったからこそ出てきた発想だ。月の暦だと、来月の11日が満月。次のイベントはこれに決まりかな?
「満月を待つまでの空白の時間へのまなざしがタイトルからよく伝わった」と加藤先生。
2つ目は、「かわかすはうす」。すごくありふれた日常を深く読み込んだ提案。
「かわかすはうす」

「かわかすはうす」
日曜日にも家のベランダには洗濯物が干してある。ということは、世の中のお母さんは、日曜だって洗濯しなきゃならない。
学校が休みのこどもも一緒になって、みんなでごしごし洗って、みんなの洗濯物が青空にバアーッと並んでたらすごく楽しい。ぼろぼろになっていた庇を外してしまったので、物干し竿を新しくこの家の庭につくるという提案。
「コミュニケーションを促すツールっていろいろあると思うんですけど、それを「洗濯」ってツールを持ってきた。その発想にやられてしまいました。お見事です。」(僕)
「洗濯物が干されているのを見ると、家とかまちが生きているんだと実感できるよね。とてもいい着眼点だと思う。」(加藤先生)
どちらも、キャンプという限られた場所と時間の中で創造力を搾り出し、みんなが気がつかなかった時間の流れ、見過ごしていた時の循環サイクルみたいなものを、うまくこの家に結びつけた案だった。
こういうの松原研でもやるべきだなぁ。うむ。
スタジオでも、普段からエスキスよりもこういうやり方のほうが絶対いい。学生の知的体力が身につくし、先生も適当なコメントして終わり、にはならない。うむうむ。
●利用が終わって
芳名帳がわりに壁に人型とサインを描く

芳名帳がわりに壁に人型とサインを描く
「もう一度この課題文に立ち返る必要があると思うんですよ。あなたにとって居心地がいいって何なのか。それがプレゼンではまったくありませんでしたよね。」
「予算の使い方が荒い」
「何が言いたいのかよくわからなかった。」
「そもそも課題に正面から答えていない。」
テキスト化するとけっこうひどいこと言ってるな、俺。
YESかNOか。この選択ってけっこうつらい。たぶん陪審員もこんな感覚なんだろうな。とにかく、学生の空気も読まなくちゃいけないし、審査員同士の空気も読まなきゃいけない。二重に空気を読まなきゃならないわけで、ある意味僕もeXtremeでした。
2時間も審査していると、だんだん自分の評価基準が何だったのかよくわからなくなる。おまけに足元からじんじん冷えてくるし、頭もフル回転状態でどんどん熱くなってくるし、腹は減ってるのにひっきりなしにプレゼンがあるから食えないしで本当にしんどかった。
でも、設計して、施工して、それを第三者に貸して、しかもそのイベントに参加させてもらって、一緒にこの家について考えている。それは、設計者・施工者にとって、とても幸せな時間じゃなかっただろうか。
寄贈されたクッションとヒーター

寄贈されたクッションとヒーター
おわり
(寄稿:松本智之 政策・メディア研究科修士2年)
●空き家利用者、募集しています。
松原弘典研究室では、引き続きエントランスハウスの利用者を募集して
いますので、[email protected]までお気軽にご連絡ください。