世の中、少し前から「おひとり様」がいろいろ話題に。「晩婚化」や「人口減少問題」もあったりと、日本社会の今後を考える機会が増えてきた。「私はひとり強く生きていくの!」なアナタも、「もー、いつ結婚しよう♪」なアナタも自分が生活する街の姿やその仕組みって興味ありません!?


 今回から始まるこのコーナーでは、こうした今話題のテーマについて、SFCの先生方にいろいろおしえてもらっちゃいます! 時には先生の学生時代のウフフ☆なお話も聞いてしまったり。大学公式の紹介ではわからない先生の素顔にも迫ります。研究会どうしようか悩んでる皆さんの参考にもなればうれしいな。
 …というわけで、公開登場いただくのは大江守之先生(総合政策学部教授)。人口・家族変動分析を基礎とした都市研究がご専門です。
 はじめに大江先生のプロフィールを簡単にご紹介。
 1951年慶應義塾大学病院生まれ♪。東京大学理・工両学部を卒業後、民間シンクタンクで勤務。その後東京大学で工学博士号を取得、91年から国立社会保障・人口問題研究所に所属。同研究所で人口政策研究室長、人口構造研究部長を歴任。1997年、SFCへ教授として着任。

「自分の学生時代? 最初はつまんなくてねー。」

大江先生

「子どもの頃から算数とか数学が好きで、東大に行ったんだ。でも、いざ入ってみたら、なんだかつまらなくてねぇー」と語る大江先生。あれれ…、先生方っていつも勉強大好きなのかと思ってました。
 「自分が高校3年生のときは、ちょうど高校紛争が約1年間だけ起きた時期で、身の周りが落ち着かない時代だった。それで大学では現世的なことっていうのかな、世の中で役に立つものは将来やりたくない。山にこもって何かしたいな、なんて思っていた。当時は林学をやろうかなぁなんて思っていたんだよ。」高校時代は、世の中に対する漠然とした受け入れがたさを持っていたという先生。結構ニヒルな青年だったようだ。
 「でも友達に林学に行っちゃった奴がいて、自分も同じことじゃなんだかなーと思って。そんな時つまらない教養科目の中で、すごく楽しかった地理学にたまたま興味を持ったんだ。高校時代は覚えることが多くて嫌いだったのに不思議だよね。」青森県の下北半島まで実際にフィールドワークに出かけたりと、足を使った研究が好き。大学の卒業論文は都市郊外のオープンスペースの活用について調べた。雑木林で遊ぶ子どもたちは、その「場」をどんな感じで使っているのかなどの研究だ。

「『三丁目の夕日』は良い映画だったなぁ…」

「自分は今考えると若いうちから都市の仕組みに興味を持っていたんだと思う。子ども時代の話と言えば、みんなは『ALWAYS 三丁目の夕日』は見たかな? あれは良い映画だったねぇ…」昭和26年生まれの先生にとって、あの世界は子どもの頃、確かに存在していた世界だったらしい。
 「もちろんあの世界が日本の家族すべての象徴ではない。だけど生活と仕事が一体となった『下町的生活世界』は確かに存在していたんだよ。堀北真希さんが演じていた『ろくちゃん』のような集団就職でやってきた子も多かったことを後に自分の研究の中で理解できた。」
 「自分の学位論文のテーマは都心居住に関してだったんだけど、その中では言わば『三丁目の夕日』のその後を扱ってるんだ。映画の中で『ろくちゃん』は周りから家族のように扱われていたけど、あの後はやっぱりあの家族から出て行くことになったんじゃないかな。それが70年代半ば以降の都心人口減少の大きな要因の一つだった。」
 「東京では60年代前半まで給料の安い人材を多く確保できていたんだけど、その後はどんどん人件費があがっていった。『ろくちゃん』のように住み込みで働く人材を雇う側にとっても、雇われる側にとっても、自ら進んでその仕組みを終わらせようする時代になっていくんだよ。」
 「住み込みの職場を出た独身者はいわゆる木賃アパートとよばれるような、トイレや流しが共用で風呂のないアパートを選択するようになる。音楽で言うと『神田川』の時代がやってくるわけ。」おぉ、なんだか昭和ノスタルジーをさそわれちゃうぞ。赤い手拭いマフラーにー♪…うう、なんだか泣けるお話。ところで先生! 学生時代にはそんな素敵な良いお話たくさんお持ちなんですかぁ?

「仲間内で詩や小説を書いて同人誌作ったりね。」

大江先生

「そんなことは秘密だ(笑)。でも大学生活をつまらないと感じていた高校時代の仲間とたまり場をつくるために塾を開いて部屋代を稼いでいたね。月に一回はその塾をやってた西荻窪のマンションで飲み会開いてた。」
 「女の子もいて、その仲間内で結婚した奴もいる。今は大学教授になってる奴が多いね。ガリ版で同人誌を作ったりもしていて、自分はエッセイみたいなものを書いてた」なんだか学生っぽくてうらやましぃっす。教授になられた方が多いって相当な秀才集団だったんじゃないんですか?
 「そんなこと、ないない。まぁ自分はつまらない授業でも、ノートは綺麗に目次まで作ってとっていたけどね(笑)。今だったら授業中YouTubeやmixi見ちゃうような奴ももちろんいたよ」授業中にYouTubeやmixiなんてけしからん! まったく最近の学生は…。
 「村井純先生が『ノートPCでメモとっているのねと思って授業中学生の後ろに回ったら、みんなちゃんと遊んでて、本気でノートPC禁止にしようかと思った』って、笑いながら怒っていらっしゃったね」あぁ、笑われながら怒られてしまった…。大江先生はそんなSFCをどうみていらっしゃいますか?

「SFCに来られて自分はすごくうれしいよ。」

「教授としてSFCに来る前から噂は聞いていた。自分がいわゆる文系・理系にまたがる都市研究が専門だということもあって、もとから文理を完全に分けるのには抵抗があった。一つの領域に押し込まれたり、留まろうとしないSFC生はすごく魅力的な存在だね」なんというありがたいお言葉。ありがとうございますー。
 「ただちょっと前に比べると、授業に関心が無くても出席のために授業にやってくる人が多くなったのは残念かな。自分としては興味がないのに授業にわざわざ来るなんてもったいないなと。教える側も精一杯頑張りたいと思っているので、参加したからには授業をちゃんと聞いて欲しい。」耳が痛いです…。仰る通りだと思います。その他学生に何か伝えられたいと思うことはありますか?

「本を読むことって、ごはんを『食べる』ようなもの」

「自分はみんなのような学生時代に、いろんな本に触れて欲しいと思っています。特にコレがおすすめって言うのはないんだ。あえて言うなら○○新書ってあるよね。ああいったさくっと読めるようなものを通学の時間にでもいろいろ読んで欲しい。」
 「若いうちって、どうしても将来のために専門を極めたいって思いがちじゃないかと思う。少なくとも自分はそうだったからさ。でも自分も今の年になって気づくことや興味がわくことが有るんだ。それまではとても当たり前だと思っていたようなことにね。本を読むことって『食べる』行為に自分は似てるんじゃないかと思う。毎日の食生活が基礎体力作りには欠かせないように、本とちょっとずつ触れ合うことはみんなの成長にきっと役立つはずさ。」
 「自分の場合30歳で結婚して、当時は民間のシンクタンクで仕事をしていた。その職場で扱っていたまちづくりのプランニングのようなことを今後も続けるんだろうなと思っていて、研究職なんて考えていなかった。でも学会に時々発表する機会を得るようになってからは、研究職もおもしろいなと思いはじめたんだよ。その後人口研で仕事をする機会を得て、人口・家族研究に集中していたけれど、大学に移って元々の専門である都市研究を人口・家族変動分析に基づいて展開するという方向に来た。」
 「これまでは、実際にまちに出て人々の生活の様子を調べたり、話を聞いたりと研究という視点で街を見つめることが多かった。でも余裕が出来たら、研究するだけじゃなくて、自分もその一部となって実際にまちづくりをしていきたいですね。」フィールド重視の先生。やはりとてもSFCっぽいのかも。では最後に一言お願いします。
 「まちづくりや、都市の仕組みに興味のある人がもしいたら、是非気軽に研究室へ来て下さい!」
 ここ数年、高齢者グループリビングや浦河べてるの家の研究で北海道に行くことが増え、たまたま手に入れた「スローなカフェをたずねて」という本をたよりのカフェめぐりが楽しいとも語って下さった大江先生。とっても気さくに質問に答えて下さって本当にありがとうございました。全面ガラス張りのデルタ館の研究室も、緑に囲まれて森林浴♪…みたいな感じですっごく素敵でしたー!
大江守之先生担当授業・研究会
授業
春学期 木2 まちづくり論
春学期 月1 ポピュレーションダイナミクス
秋学期(予定) 社会動態論
研究会
「都市・コミュニティ・人口・家族研究」
「大都市郊外のコミュニティ再生 <弱い専門システム>をめぐって」
※追記:6/15
インタビュー部分の記述を一部追記いたしました。