4日(木)、θ館で行われたキック・オフ・レクチャーで、「慶應義塾大学SFCの挑戦」の著者・田中章義氏が講演を行った。田中氏はSFC1期生で、歌人として創作活動を行うほか、WAFUNIF親善大使を務めるなど、幅広く活動している。


 講演では、様々なエピソードを交えながら、自らの学生生活や国際活動の経験を語った。新入生に対し「SFCでの4年間、(世界や身近な所で起こっていることを)自分の目で見て、誰かのために、何かのために、一瞬の喜びに満足することなく、継続的に活動をしてほしい」と、これからの大学生活を激励した。
 今後のSFCに関して「100年後もSFCという空間が、この星全体を暖かくする物語が生まれる場所として存在するように」と歌人らしい言葉でメッセージを送った。
 田中氏は親善大使としての活動を通じて、「以前は一部の大人が国際的キャンペー ンをやるものだと思っていたが、実際はそんなに大変なものではない。人を思う「思 いやり」がきっかけとなり、イメージしたことに対する発案者の熱意が大きければ周りの人に伝わり、それが広がっていく」と語った。また「実際にSFCに入学してきたからには、4年間の中で、アイディアを形にする過程をサポートする先生、先輩がいるこのキャンパスで、何かプログラムをつくったり、立ち上げたりして、他の国の人たちに語っていきたくなるような、地球スケールの伝説づくりのきっかけをつくってほしい」と参加者に熱く伝えた。
 このようなことを語る背景の一つが、親善大使としてインドのダラムサラに行った際 の、チベットの亡命政府の子供達との出会いである。今回の講演に田中氏が持参した ものがある。それは、ダラムサラで「16歳の少年からもらったオレンジ色の飾り物」である。母親もいなく、父親とさ え1度しか会った事のないその少年は、唯一父親と会った時に家族からのお守りとし てもらったそのお守りを、田中氏に「あげる」と言うのだ。彼らは世界に出て行って 自分たちの現状を伝えたいが、亡命政府の子供達ということでパスポートを発行して もらえない状況にいる。一方、世界中を駆け巡る田中氏。彼らの現状を世界に伝えて 欲しいという理由でお守りを託したのだと田中氏は思った。しかし男の子は言う「あ なたの旅が安全でありますように」と。
 田中氏はこのような状況で自分にできることは何かと考え、「この大切なお守りを 彼に返す時には、(彼が家族と会えた時に)一緒に返してあげたい」と思い、今後どの ようなプロセスで実現できるか考えていくと述べた。
 「SFCの生徒には、このような事実があるということを、自分の目で見て受けとめてほしい。そして、事実に対して、どうアプローチして、解決していけばよいかを考えて欲しい」と語る。
■■田中章義氏(歌人・国連親善大使)プロフィール
1970年4月19日静岡県生まれ。慶応大学総合政策学部卒業。
大学1年生の時に第36回角川短歌賞を受賞。以後、創作活動を続けている。現在までに単行本を十数冊を出版。
短歌集以外ではJ-WAVE(DJ:深津絵里)の番組内で毎週新作詩を発表したものが 単行本化されたり、各界に生きる若き職人たちをルポした人物紀行の単行本を出 版したり、地球環境平和財団の地球の森プロジェクト推進委員長を務めるなど、 多才ぶりを発揮している。 2000年8月アナン事務総長が呼び掛けた国連主催の世界平和ミレニアム・サミット に日本代表団の一人として参加。 2001年2月国連外郭組織のWAFUNIF親善大使として、アジアで唯一任命され、世界各国のアーティストと共に国際平和のための活動をしている。 著書に『ふたりをつなぐもの』(角川書店)、『聴きなれた曲だけ聴いていたい夜が ある』(サンリオ)、『約束』(学研)、『主役』(サンクチュアリ出版)、短歌集 「森の妖精ティタの旅」(作品社)など。 角川書店・学研・ダイヤモンドピック社などの雑誌で連載中。