SFC CLIP読者の皆さん、はじめまして。前回前々回の本好→岡崎と引き継いで今回寄稿させていただくことになりました。

こんなところにもプチSFCコミュニティ

現在私が所属している東京大学の情報学環・学際情報学府(研究組織は学環、教育組織は学府と呼ばれます。http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/)でまず驚くのが、このコミュニティにはSFCの諸先輩方がかなりいらっしゃることです。僕が知っている限りでも10人前後います。SFCから巣立った(留学していた?)人々が1期生を始めその後に続く世代も頑張っているところを見ると、SFC10年の歴史が連綿と繋がっていることを感じます。

試行錯誤しまくり

僕自身はというと、学部時代は隈研吾先生と渡邊朗子先生の研究会で建築と都市をベースにコンペなどやっていました。今では大学院のAUDと学部の連携が強化されED(Environmental Design)というクラスター領域になったそうですが、去年、そのサイト制作の打診を受け、EDのサイトを立ち上げました。http://www.sfc.keio.ac.jp/ed/
現在では、コンピュータサイエンスの研究室にて、主にユビキタスコンピューティングを研究しています。このような研究活動をするように至った経緯は、建築の世界では、実作ができるようになるまでに相当期間の修行を経ねばならず、若い人間には特にチャンスがなかなか与えられない難しさを感じたところが大きいです。だから、今建築を学んでいる人でもCGをやったり、メディアアートに挑戦してみたり、デザインそのものをもっとラディカルに追求してみたり…と多方面に拡散していますよね。あるいは都市系ならば、環境問題についてソリューションを考えたり、都市開発の問題など…。もっともその間口の広さが建築や都市を学ぶ大きな魅力ではあるのですが、今では前ほど、都市デザインとかいうことはあまり提案されなくなっているような気がします。
ちょっと脱線しましたが、岡崎君や本好君のように、僕自身も学部のときにはいろんなことにトライしてみました。あまり授業には出席せず(卒業に5年かかりました…汗)、とりあえず大学に入ったらやってみたかったことで、自らの体力で日本を縦断してみたかったので、それを1,2年の時に実行し、3年の時は半年休学して、アメリカで個人的な付き合いのある画家の助手をやって向こうの大学巡りをしたり、欧州とアメリカで30年ダンスを続けているアーティスト夫妻宅に居候して向こうのシアターで「山ちゃん、照明の具合みるから脱いで」とパンツ一丁にされたり、勢い余ってペルーの日本大使公邸事件の真っ最中に現場で仕事をしたり…。
そんなこんなで大学に真面目に通いだしたのは3年生の後半からだったのですが、シアターの舞台美術制作を通じて、空間を演出することにすごい面白さを感じました。そこで隈先生の研究会に入ったわけですが、劣等生の僕はやはり別に自主的なプロジェクトArchi-coを渡邊先生の指導と建築サークルのC-broadingのジャニーズ軍団のような素敵な後輩とのジョイントのもとで始めてしまい、またもや授業とは縁遠い生活にはまってしまいました。
しかも、それと同時期に SFCで最も親交のあった友人が会社を立ち上げることになり、その誘いにも乗って参加することになり、ますます大学5年間の締めくくりは大変な事になってしまいました。あまりにもいろいろと手を出しすぎるのも考え物ですよね。しかも学内での活動に比べ、ビジネスとなると対社会的な責任が発生する完全に大人の世界なので、本当に厳しいけど、実は一番自分のためになった経験です。個人的な事情も色々あったのですが、一番は、やりたいことをやるにせよ、ビジネスをやるにせよ、研究・開発の
フロンティアに身を置きたいという動機で、院への進学を考えました。
紆余曲折の中にあっても常に意識していたのは、「自分が携わる領域を一つ、ちゃんと深めておくこと」でした。SFCの良さは選択肢が多様に用意されていることですが、漫然と広く浅く動いてしまうと、せっかくの良さも半減してしまいます。僕は終盤までそのような状況ではあったのですが、4年生時にプロジェクトの成果も出すことができ、一つの領域に集中して取り組むことの大切さを改めて再確認しました。もちろん、最近では一つの問題といっても様々に複合的に絡んできてしまうのですが…。何か自分の中で一番ヒットするテーマ、そしてできるだけ高いモチベーションを維持できるテーマを一つ設定してみてください。それにある時期没頭することで、今度は逆に学際的にいろんな問題と繋がって一気に視野が広がってくる体験ができると思います。

研究テーマについて

テーマに至る経緯がだいぶ長くなってしまいました。建築・都市を学ぶ中で良く引き合いに出されるアーキグラムの都市プロジェクトがありますが、実はその理論的後ろ盾としてコンセプトメーキングをしていた建築史家のレイナー・バンハムは約30年前に「携帯基準生活パッケージ」によって環境制御装置を集積化・軽量化し、自由なモバイルライフとしての建築の未来像を提示しましたが、現代生活にはもっとラディカルな技術革新が起こりつつあります。
R.バンハムのモデルのように中心のある機械設備ではなく、かといってインターネットのように完全にオープンなシステムでもない、(それはセキュリティの問題がこれからのユビキタスコンピューティングのキーだからなのですが)半開放半自足系の分散マイクロコンピュータ技術が、生活空間のあらゆる局面に不可視化され、生活と環境を制御する…。センサやエフェクタを実装したハード(インテリジェント・オブジェクト)とソフトウェアで言うところのオブジェクト、そしてヒトがダイナミックに通信する未来の生活環境について、未だ研究の緒についたばかりですが、 2年間で具体的なシステムとして実装・評価することを目標としています。

現役SFC生のみなさんへ

ついこの間も来年度本研究科が募集する新入生向けの説明会がありましたが、SFCの3年生などとも会場でお話ができて懐かしかったです。SFCの環境は日本でも最高峰であるのは間違いないと思います。今でも「ああ、あの時SFCにあんないい先生がいたのに、授業しっかり受けていればよかったな」などと思うことがあります。3,4年生は進学・就職シーズンを目前に忙しくしていることと思いますが、ブランドだけに頼らない実力を、たまには泥にまみれて培ってみてください。それが後々、一番大きなモチベーションに大化けする可能性も秘めていると思います。また、自分の研究テーマに近いものを感じてくださった方、あるいは単純に面白いと思ってくださった方はいつでも気軽にメール下さい。お酒でも飲みましょう。
<<プロフィール>>
山崎晃嗣(やまざき・こうじ) [email protected]
 2000年環境情報学部を卒業後、在学中に友人とともに立ち上げた会社にて、新建築社など主に建築写真誌のWEB周りに従事。研究開発のためにこの春大学院に進学。現在は、友人の建築家や研究員とともにメディアアートやプロダクトの電子工作やプログラミングなどを個人的に担当。本業の研究では、情報学環・学際情報学府基幹の坂村健氏に師事。来るべきユビキタスコンピューティング社会について、まずは基礎的サーベイの毎日。