「コトバを通じて自分と他人と向き合う」
 8月20日から3日間、藤沢市市民会館にて、「自分たちの心と考えを頼りに、 コトバを使って表現すること」を目標にした、中高生対象の「コトバノアトリエ」夏のワークショップが行われる。
 10月から本格的な活動が始まる「コトバノアトリエ」の主催者、山本繁さん(2002年度SFC卒)と小林静香さん(環2)に、SFC中高での「ゆとりの時間」を使ってプレワークショップの感想や今後の活動内容について伺った。

コトバノアトリエをやろうと思ったきっかけは?

コトバに表すことの難しさ

山本繁山本繁さん(2002年度SFC卒)
 人に優しくするということについて、具体的にどうしたら「優しく」できるかわからないのではないか、人に優しくするという行為をコトバに表すのは難しい、という話を、4年生の終わりの12月にサークルの後輩と話をしたのがきっかけでした。
 中高生と一緒に「コトバ」について考える、そんな場を提供したい、と今の仲間の一人である小林さんと意気投合し、「コトバノアトリエ」が発足することになりました。

僕のやりたかったこと

4年の春学期に演劇のワークショップに力を入れていて、そのような活動を続けていけたら、というのもありました。なりたい自分になるために、僕はコトバノアトリエという活動をしていきたいと思っているのです。

社会的なニーズ

家庭や学校とは別に子供の場所をつくりたい。今、家庭崩壊、学級崩壊、ということが言われており、学校に行きづらい子供たち、登校拒否をしている子供たちがいます。そのような子供たちのために、家庭、学校、塾とは別の年齢の離れた人などいろいろな人と関わる場所がたくさん必要だと思うのです。
小林静香小林静香さん(環2)
 文化庁などは、これからは文化と謳って、全国に劇場などの公共の施設をどんどん作っていますが、場所を作っているだけではなんにもならない。実際、そのような場所は、東京から有名な演出家を招いて講演会を開く、東京のメジャーな劇団の人を連れてきてワークショップを行うため利用されており、それだけでは意味がないのです。
僕たちが使用する湘南台文化センターと藤沢市民会館は、比較的市民に使われている施設ですが、僕たちのような活動をする団体はありません。
 だから僕は、大学を卒業したばかりの人でも、子供のために新しい場を作るための活動ができるということを示したいと考えています。そして、できれば本を出したいな、と。
 「コトバノアトリエ」でコトバについて考える。コトバで表現してみる。そんな活動をしていくことで、社会においてなんらかの役割をはたしていきたい、そう思っているのです。

「コトバノアトリエ」の活動の中で大変なことは?

広報活動が大変

広報活動です。このようなワークショップを行っている団体がほかにないので、相手に活動内容をわかってもらうのが難しい。学校自体、完全週5日制になったので、とても忙しいらしく、よくわからない人達の活動に、かまっている暇はないといった印象でした。

藤沢市の教育委員会が後援に

後援といっても実際に宣伝のお手伝いをしてくれるわけではないので、苦労は変わりませんね。でも、教育委員会の方から各学校にチラシを配っているので、ある程度の保証はされているものだということが、校長先生にも届くと思います。

プレワークショップについて教えてください。

グループで物語を作る

SFC中高のゆとりの時間にスタッフとしている関係で、今回、プレワークショップをさせていただきました。6つの音楽を順番に流し、あらかじめ分けておいた4、5人の4つのグループにそれぞれ選曲してもらい、その音楽を出発点にイメージを膨らませていって、物語設定をし、みんなでひとつの日記、物語を書き、曲BGMに朗読してもらいました。投票をして景品をあげました。

その反応

ゆとりの時間といっても、生徒が積極的に物を考えたり書いたりすることが行われてこなかったので、興味深いけど、はじめての経験だからあまり上手くできなかったので反省点が多かったという人が多かったですね。複数の人数で一つの文章を書くっていうやり方もおもしろいと思ってくれてくれたみたいです。
また、高校の先生が2人見学にいらしていて、授業やテストと関係ない勉強を、自分から積極的に集中してやっていくのは、本当になかなか見られないことだったみたいなので、とても褒めてくださいました。

プレワークショップのお二人の感想

山本さん:僕はかなりの長い期間のワークショップを2度経験していたので、そういうのと比べると空気がぬるい。グループで何かをするということも大切なのですが、目標は結果を出すこと。結果として出来た文章よりも、もしかしたら一人で書いた文章のほうがおもしろかったかもしれない。それは、僕達が反省しないといけないし、僕自身もその結果にこだわるような雰囲気を作っていきたいと思っていますね。やっぱり、どんなにグループ活動がうまくいっていて楽しくできても結果がだめだったらダメ。そういうところにこだわれるようになったら、相当意味のあるワークショップになるなとは思っています。
小林さん:プレワークショップをやるまでは、グループで文章を作るということが、どんなものか全く想像できなかった。でも、実際やってみて、なりたい自分になるために、ワークショップをどんな方法でやるのが一番好ましいかという、コトバノアトリエの原点に立ち返ることができました。夏のワークショップのスケジュール組みにも、プレワークショップの経験が役に立ちそうです。個人で書く時間を設けた方がいいのではないか、という意見が出ていますから。

コトバを扱う上での難しさについて教えてください。

小林さん:コトバノアトリエのキーワードとして、「自分と向き合う」ことのほかに「他人と向き合う」ことがあります。個人で文章を書いていくだけでは他人と向き合う機会が薄れてしまいます。逆に他人と向き合って一緒に作品を作ろうとすると、自分をうまく出すことが難しい。どちらかに偏らないことが大事だと思いますね。
山本さん:人が書いた文章に対して、きちんと意見を言うことが最初は難しい。正直に意見を言わなければならないわけですから。を物を作ることを通じて人と向き合い、人に物を伝えていきたい。
表現したものを人に伝えてはじめて意味がある。人を見て、自分が見えてくることもある。

今後の活動内容を教えてください。

10月10日から毎週1回木曜日レギュラーのワークショップをやっていこうと思っています。夏のワークショップはそのための準備という側面があります。
 同じ人と毎週一回会う、ということは結構タフなことだと思います。まだ、メンバーが集まっていないので、どのようなワークショップになるかまだわかりませんが、少し特別な子供が集まるのではないか、と思っています。学校だけでは自分のモチベーションを消化しきれないという子、学校に居場所がない子、ほかに居場所が欲しい子、なんとなく友達に誘われて来た子など。
 ある子は、とても愛情に飢えているかもしれない。何かがきっかけで、ひとりで生きてくという意識を持ち、モチベーションが高いのかもしれない。自分にコンプレックスがあるために頑張っているのかもしれない。本人がそれに気づいていないこともあるし、原因は結構深刻だと思うのです。一人一人関わっていかなくてはならないので大変だと思う。
 でも、毎週一回会うということはとても面白いことだと思います。恋愛の話や、高校時代の話などを違う年齢の人と話をするということが面白い。
 僕たちスタッフの方が学ぶことが多いのではないか、と思います。スタッフはあくまでも案内役。中学生・高校生に自主的に運営していってもらいたいですね。何をテーマにするかを決める過程も大事だと思いますから。

最後に一言お願いします。

山本さん:そろそろスタッフに新鮮味に欠けてきている部分があるので、新しいスタッフが欲しいです。一度、誘って断られた人がいるのですが、なんだか口説いているみたいになってしまったので、この場を借りて謝りたいです。
 僕たちスタッフはいわゆる"共犯者"なんです。絶対に裏切らないという人に入ってもらいたいです。途中でやめる人が出てくるとおもっていたのですが、今、活動している人間が僕だけでないこと、幸せに思います。ワークショップを通じて、スタッフ同士が正直になってきて、そこが面白いですね。
 文章って、自分が出る。人に読んでもらい、自分のことを理解してもらうと、とても嬉しい。僕ははっきりと意見を言うけれど、それはきちんと読んで、理解した結果。お互いに理解し合い、共感できたときは面白いですよ。世界では、年間2千人弱餓死している。でも、実は日本の自殺者は3万人超えており、これはSFCの中でも1年に一人自殺しているという計算です。だから、日本も結構大変だな、と思います。つらい思いを抱えている人に来て欲しい。こういう場に訪れることで、自殺をするなんてことになって欲しくないですね。
小林さん:興味があったらぜひ見学に来てください。実際に参加し、文章を書いて、お互い感想を言い合ってもらえたら、と思います。