自転車で、あなたはどこまで行ったことがありますか?「近所のコンビニ」お願いだから、そんな悲しいこと言わないで。


 今年のゴールデンウィーク、サイクルKでは「富士山5合目征服プロジェクト(正式名称不明:略してフジプロ)を敢行しました。参加者は、サイクルKメンバーの2人。その行程の一部始終を、2人の視点で前・後編に分けてお送りします。これを読めばきっと、この週末にでも自転車でちょこっと遠くまで行ってみたくなる・・・はず。
 神奈川県、辻堂海浜公園。4月29日午前3時30分。男二人、いよいよ富士山征服旅行の幕開け・・・のはずが、もう一人の参加メンバー、松本さんがここにいない。「便利な世の中になったもんだ」と呟きながら携帯を開くと、メールが。「五十分遅れます」・・・?出発前からこれですか?こういうときは寝て待つに限る。寝袋を引っぱり出してベンチで寝ていると、10分後に松本さんが到着。どうやら50分と15分を打ち間違えた様子。
 とりあえずメンバーも揃ったので、午前4時、いよいよ出発。夜も明けきらない湘南海岸沿いのサイクリングロードをひた走る。ここは走り慣れた道なので、特に苦もなくペダルを踏み続ける。途中茅ヶ崎から134号に乗って大磯まで。ここから太平洋岸自転車道に乗って、大磯の西端まで走る。このころには既に空も明るくなっていた。
 自転車道が終わったところで早い朝食をとり、そこから1号に乗って小田原に向かう。さすがにトラックが多く、一般の車も増え始める時間帯なので走るのに神経を使う。1時間毎に先頭交代を繰り返しながら、単調な道路をただ走る。
 午前6時30分、小田原城着。観光客もまだ寝ているだろう時間帯に、休憩がてら早々と見学。ちょっとした動物園があり、ニホンザルが眠そうにしていた。こんな早朝にこんなところに自分がいることに違和感を覚える。ベンチに座ってジュースを飲みながら、蟻の足の往復運動のスピードに関して、熱い議論を行なう。(メンバー註:サイクルKメンバーは、ときにどうでもいい議題で熱くなる。ときには残留するほど熱くなる。そしてたいてい科学的にありえない結論に達して満足する。議題例:サルから人間になる過程で体毛がなくなったのはなぜか。脳内シナプスが結ばれる瞬間とは)
 小田原から再び1号で一路箱根へ。また単調な道が続く。箱根に近付くにつれて、交通量も増えてくる。常に後ろを気にしながら走る。
 午前8時、箱根湯本着。平地はなかなかいいペースで来れたよう。荷台のパッキングをチェックして、峠越えに挑戦。
 ローギアで「我慢我慢」と自分に言い聞かせながら、じわじわ登る。暑さは予想の範囲だし、坂は面白い。問題は車の多さ。結構なスピードで脇を突っ走っていくので恐い。我慢我慢・・・。途中、仙石原のコンビニで休憩。駐車場の隅にテーブルと椅子、タープが張ってあるので、有り難くたっぷり30分ほど休ませていただく。
 乙女峠に向けて最終アタック。コンビニで休憩しているときに、地図を見ながら「ほとんど登らずに、すぐ乙女峠だ」という話をしていたわりには、まだかなり登る。乙女峠の手前のヘアピンにさし掛かる。「もう少しの辛抱」とばかりにうつむいてペダルを踏んでいると、前方で「バン」という音がする。驚いて顔を上げると、車が一台停まっていて、その前方にバイクが倒れている。三叉路で車とバイクが衝突したらしい。ライダーに大きな怪我はなかったようで何より。2 人で気を引き締め直して、乙女峠を越える。トンネルが真っ暗で、路肩も路面がガタガタでびびる。
 そのまま下りに入る。一気に下って、昼前に御殿場入り。市街で装備と食糧を買い込み、富士スカイラインを目指して再び走り始める。街角の普通の交差点を曲がると、スカイラインに続く道。この時点では「第一の関門だった箱根も結構楽に越えられたし、富士山といっても頂上まで登るわけじゃないんだから、そんなに酷じゃないだろう」と思っていた。そんな楽観論は、すぐにいとも簡単に打ち破られる羽目になるわけだが。
 ずっと登り坂。道沿いには中学校や床屋や自動車教習所。富士山の麓といっても、特に特別なことはない。至って普通の街。ただ、誰も自転車になんて乗っていないってことを除いては。松本さん曰く「富士山には水がない」らしいので、途中のコンビニで水を10lほどもらい、松本さんの自転車に括りつける。少し走ると、自衛隊の演習場。ジープに乗った、たぶん米兵の皆さんにお手を振られる。この時点で、坂はかなりきつい。
 「こ、こんなはずでは・・・。」登り始めてどのくらい経っただろう。「ここは何処だ?」「富士山だ」「俺は何をしているんだ?」「チャリンコを押しているんだ」「何故押しているんだ?」「乗ると脚が攣るからだ」「俺は誰だ?」「知らない」そんな壊れた自問自答を繰り返す。自分の爪先の前後運動に焦点を合わせ、ただひたすらに、次の一歩を踏み出すことのみに集中する。自分の身体よりも大きな獲物を運ぶ蟻もこんな気分なのだろうか。わずか数時間前に交わした議論が思い出される。あの頃は、気楽だった…。だんだん気温が下がってくる。汗で濡れたTシャツが身体を冷やす。雲に覆い尽くされた空が、ネガティブな気分を更に暗くする。
 気がつけば太郎坊。看板を見ると、ここからはしばらく平坦な道のようだ。とりあえず水ヶ塚PAを目指す。走り始めると、再びすぐに登り。嘘つき。
 水ヶ塚まで残り2km。ちょっと休憩に止まると、猛烈な眠気が襲う。ふと眠りに堕ちるとすぐに松本さんに叩き起こされる。どうにか水ヶ塚PAに到着。軽く雨が降り始めている。どうにもこうにも眠気に耐えられなかったので、マットと寝袋を光速で引っぱり出し、既に閉まっている売店の軒先で仮眠。その後のことは覚えていない。しかし、雨が徐々に、しかし確実に強さを増していたことだけは確かだ・・・。
(後半に続く)
「自転車を、SFCを、もっと楽しく」 サイクルK
文責:環境2年 大川紘生