1日(水)、「著作権とP2P」合同シンポジウムが開催された。会場はθ館で、13:00から約3時間にわたり、活発な議論が展開された。


 これまで、SFCの学生がP2Pソフトウェアを使って、著作権における公衆送信権を侵した例がいくつかあった。そこで、積極的に著作権について考える機会を設け、違法なP2Pの利用をなくそうと、このシンポジウムが企画された。狙いどおり、来場者には学部の1年生や教員の姿も見られ、このシンポジウムの関心の幅の広さがうかがえた。全体は大きく基調講演とパネルディスカッションの部に分けられ、ディスカッションの後半部では会場からパネラーへの質問が受け付けられた。

まず、講演に先立ち、村井純環境情報学部教授が開会の挨拶を述べた。村井教授は「IP on IP」、すなわちIP(Internet Protocol)におけるIP(Intellectual Property:知的所有権)について、問題の背景と現状を説明。そのうえで、P2P(Peer to Peer)とインターネットの「建設的な未来を考える」ためには「テクノロジによる対策」、「新たなビジネスモデルの模索」、そして「社会でのコンセンサスの形成」が欠かせないことを強調した。そして「建設的な未来」の実現に向かって、今回のシンポジウムのようなミーティングを積み重ねていくことの必要性を訴えて挨拶を結んだ。

次に、ACCSから久保田裕事務理事が基調講演「インターネット時代の著作権」を行なった。久保田氏はまず、ACCSが問題としているのは、P2Pの技術自身ではなく、それを利用する個人のモラルであることを指摘。一般に誤解されやすい著作権の仕組みを説明し、インターネットが普及してからの著作権侵害の変遷を紹介した。そして最後に、現在P2P利用の9割強が違法なファイル交換であることに対して、ACCSのみならず、社会全体が具体的対策を取らなければならないと訴えた。
 続いて、パネルディスカッションが行われ、主に音楽の著作権に関して、議論が進行した。参加したメンバーは、久保田裕ACCS専務理事、渡辺聡JASRAC送信部長、今村二郎RIAJ広報部担当部長、田中久也弁護士、徳田英幸政策・メディア研究科委員長、稲蔭正彦環境情報学部教授で、萩野達也環境情報学部教授がコーディネータを務めた。
 7名のパネラーはいずれも、P2Pが技術として優れていることに関しては一致。しかし、それが違法ファイル交換に使われている現状に関しては、各々の立場から、違った見解が示された。

稲蔭教授は、クリエイターの立場から、「コピーをすればするほどクリエイターにとって、プラスになる仕組みが考えられないのか。クリエイターがコンテンツの使い方を定義する技術は作れないのか」と提案した。また一方では、システムの研究開発に携わる側からの「なぜP2Pファイル交換ソフトを開発した人の責任が問われているのか」という疑問を徳田教授が提示。これに対して「ユーザ一人一人を追及するより、サービスを提供する側を追及するのが現実的である」とアメリカやヨーロッパで著作権法関連の問題を扱ってきた田中弁護士が答えるなど、パネラー間での活発な議論が展開された。
 終盤、コーディネータを務める萩野教授が「CDやDVDが高いから学生はコピーするのではないか」とパネラー全員に投げかけた。これに対しては、久保田氏が「コンテンツごとの値段の差異は少ない。競争の中で、コンテンツの目利きが生まれてくるのではないか」との見解を述べた。それに加えて、田中弁護士が「対象となる市場によって、柔軟に価格設定をすると、最大限の利益が得られるということがある」と紹介した。
 パネルディスカッションの後、会場にマイクが回された。「デジタルコンテンツのみの提供は考えられないのか」、「音質の悪いコピーコントロールCDを買う価値を見出せない」や、「本当にP2PがCDの売り上げに影響を及ぼしているのか、きちんと数字を出して欲しい」といった厳しい指摘が飛んだ。それに対し、今村氏は「どのくらい売り上げが落ち込んでいるか実態はわからない。デジタルコンテンツ化は模索中であり、しばらくはパッケージされたCDという形を取り続けるだろう」と回答した。
 会場を巻き込んだ議論は盛り上がりを見せたが、予定終了時刻を過ぎてしまったために萩野氏が質問を打ち切る形となった。最後に、熊坂賢次環境情報学部長から「著作権のことで批判するのは誰にでもできる。しかし、われわれSFCの人間がやらなければならないのは、今後著作権に関して、どのような社会を創るかを考えることである」というSFCの役割と将来のヴィジョンが示され、閉会の挨拶とされた。
 今回のシンポジウムについては、後日SOI WIDE Universityで公開される予定。また、以下のサイトに詳細なログと、それに対するコメントのリンク集が掲載されている。(ただし、SFC CLIP編集部は、以下の内容について、責任は負いません)
http://www.sfc.ne.jp/pukiwiki/index.php?%5B%5B%C3%F8%BA%EE%B8%A2%A4%C8P2P%A5%B7%A5%F3%A5%DD%A5%B8%A5%A6%A5%E0inSFC%5D%5D