日本最長の片道切符で旅に出た市場宗丈(環3)は、3月27日(日)、ついにゴールにたどり着いた。北海道稚内から新宿までの旅程を紹介した前回に引き続き、今回は旅の後半、新宿から佐賀県肥前山口までの旅行記を抜粋して紹介する。


 詳しくは本人のブログを参照されたい。
◆新宿→藤沢→新横浜→豊橋
◆3月5日(土):豊橋→岡谷
 今日は飯田線の旅。飯田線は、愛知県の豊橋駅と長野県辰野駅を結ぶ全長195.7キロのローカル線。今日はこの路線をゆっくり旅したいと思う。飯田線には数多くのファンサイトがあるほど人気がある。それほど沿線には魅力が多くあるのだけれど、今回の旅ではその全部を楽しむ事はできない。だけど、その一部だけでも満喫しようと思っている。
 三河槙原でなんとなく途中下車してみた。山間の小さな駅。川のせせらぎに心が癒される。次の電車で中部天竜駅へ。駅内の佐久間レールパークを見学。かつて第一線で活躍した車両達が静かに眠っている。天竜峡駅でもすぐに途中下車。駅からすぐ傍にこういう絶景があるのはさすが飯田線。初めて乗ったけどどこか懐かしさを感じるいい路線だなぁ。列車は、南アルプスと中央アルプスの谷間を行く。伊那市で有名な、ローメンを食べる。いやぁ美味しかった。ただお店のご主人の話では、店によって当たり外れがあるらしい…うぅむ…奥が深い。
◆岡谷→多気→和歌山→岐阜→福知山
◆3月10日(木):福知山→岡山
 福知山は霧が発生してる。6時20分発の城崎温泉行に乗る。豊岡駅で朝食を買いに途中下車。餘部鉄橋を目指す。城崎温泉を過ぎると、急に天候回復。餘部で降りて散策。橋と海と山と…この餘部鉄橋も付け替えされるそうで、寂しいかぎりだ。明治45年から風雨に耐えてきた、餘部鉄橋…。ホームの先端から鉄橋を見たりして過ごす。
 鳥取から智頭急行の車両で因美線の智頭まで向かう。姫路に着いて、岡山まで山陽本線の旅。岡山で第二次遠征を終えて、三原の実家に帰る事にする。何故か岡山-三原間の切符を発券してもらえなかった(どうやら最長片道切符を知らなくて、しかもルートを説明しても何が何だかわからなかったらしい…)ので、少々厳しいが岡山からは新幹線で帰る予定だ。
 岡山駅で最長片道切符の旅を中断した時点で、走行距離は8000キロを超えました。全行程の3分の2をクリアしたわけです。あと3分の1、張り切って行くぜ!と言って再開したいところなのですが、今週は予定が立て込んでいるのです。21日から、旅を再開したいと思います。約1週間の中断で、以後の日程的には非常にきついのですが、がんばってゴールを目指します。
◆岡山→福山→出雲市
◆3月23日(水):出雲市→広島
 今日乗る三江線は西日本を代表するローカル線。故に本数が少なく、15時までない。だからそれまで一畑電鉄に乗って、出雲大社まで足を延ばそうと思う。出雲大社前駅で、出雲で有名なタクシーの運ちゃんに遭遇して、いろいろと案内してもらった。出雲を満喫した後は、再び旅を開始する。12:37発の浜田行に乗る。江の川を渡り、江津に着く。三江線に乗り換え。列車は川のようにゆっくり進み、三次到着。今日のラストランナーは芸備線の普通列車。
 20時25分、広島着。なんと、愛媛県松山から友人O君が来てくれていた!久しぶりの再会を喜ぶ。宿に荷物を置いて、お好み焼きを食べに行く。明日はいよいよ九州へ突入。この旅もいよいよ終盤になった…言葉ではいい表せない不思議な感じである…
◆3月24日(木):広島→小倉
 夜明け前の広島を出発。今日は、いよいよ九州へ上陸する。襟を正して、列車に乗り込む。山頭火の愛した街、小郡の新山口に到着。山口線に乗り換える。霞がでて、それが何とも言えない雰囲気。雨が降ってきたが、何とはなしに趣を感じる。篠目駅で勾配は終わり、長門峡を過ぎる。益田からは長門市行の列車。天気は春の嵐!横殴りの雨に冷たい風!日本海はかなり荒れている!波は目茶苦茶高い!!
 長門市で急に晴れてきた。美祢線に乗り換える。再び山間を行く。今日は、海に山に、車窓が目まぐるしく変わる。厚狭駅の時刻表で、遂に九州の二文字!新下関から新幹線で小倉へ。いよいよ九州へ上陸する!
 いよいよ小雨降る九州に上陸!過去に住んでいた事もあって、感慨深い…今日はここで終了する。
◆3月25日(金):小倉→熊本
 今日のトップバッターは、特急にちりん1号。この列車で宮崎まで向かう。所要時間は約6時間!大分で乗客の大半がおり、車内は静かだ。日向市-門川間で踏切事故が発生したらしく、ダイヤが乱れるらしい…。延川駅でしばらく抑止だそう。動き出したが、1時間近い遅れで進む。日差しはすでに、南国。大分から一人で宮崎空港までいく、ひょうが君とポケモンで遊んだ。
 宮崎には1時間遅れで到着。直ぐに南都城行に乗る。風は冷たいが、暑い!都城から吉都線に乗り換える。吉松、隼人と乗り換え、鹿児島で川内を目指す。川内からは九州新幹線と特急リレーつばめを乗り継いで、今日の宿泊地、熊本へ向かう。新幹線つばめの車内は木をつかった独特な車内。無事に熊本に到着。今晩は、熊本で宿泊する。
 思えば、この最長片道切符の旅もあと2日。明日は、鳥栖まで向かい、そして明後日はゴールの肥前山口に到達する。この一ヶ月、あっという間に過ぎ去った気がする。2月15日、吹雪の稚内を出発した。そして季節は変わり、今はたくさんの花が咲く春。不思議な感じがするというのが、正直な感想だ。ゴールには何が待っているのかわからないけれど、目指そうと思う。
◆3月26日(土):熊本→諫早
 夜明け前の熊本をスタート。朝日差し込む久留米に到着。久大本線に乗り換える。7:43発の日田行に乗り込む。菜の花色のキハ125系は朝日に映える。夜明で降りた。山間の小さな駅。菜の花がたくさん咲いている。夜明を出発し、山深くへと、きつい勾配を上っていく。田川後藤寺、新飯塚で乗り換え。かつては石炭輸送で賑わった筑豊本線を進む。折尾、吉塚、桂川で乗り換えて、原田駅を目指す。(発車待ち中)折尾で買ったかしわめしで昼食。原田で鹿児島本線に乗り換え。鳥栖に向かう。
 鳥栖からの佐世保行きの普通列車は、筑豊&篠栗線と同じの817系。邪馬台国があったとされる吉野ヶ里を行く。途中、肥前山口駅を過ぎる。最長片道切符の旅は、二度同じ駅を通ってはならない。故に、明日長崎本線の列車でこの駅に到達した瞬間、この旅は終わりを迎える。早岐から大村線で諫早へ。駅舎は実家のある三原に似ている。今日のラストランナーは大村線、快速シーサイドライナー長崎行。この旅、最後の夜がやってくる。今日は諫早で旅を終える。長崎の宿を予約したので、このままシーサイドライナーで長崎に向かう。
 最後の夜が訪れた。さっきから、この切符ばかりを眺めている。押された下車印を一つ一つ目で追う。この下車印一つに多くの思い出が詰まっている。今日という日をもって、この愛着の沸いた切符も、使命を終えるのだと思うと感慨深い。
◆3月27日(日):諫早→肥前山口
 「始まり」があれば「終わり」があるように、「始発駅」があれば「終着駅」がある。この旅の終着駅、肥前山口。今日、この駅に降りた時点でこの旅も終わる。一ヶ月の思い出が走馬灯のように頭を駆け巡った昨晩。そして、今。いよいよ最後の旅立ちだ。
 最後の日は雨模様。長崎から乗るこの旅最後の列車は、かもめ12号。諫早までの乗車券と肥前山口までの特急券を買う。諫早に到着し、最長片道切符の行程に戻る。いよいよ、最後だ…。有明海を望む。雨足が強まる。のりの養殖場がみえた。肥前鹿島に到着。次はいよいよ肥前山口だ…。10時35分、最後の駅に着いた…。出口…ここを出れば、旅は終わりを迎える…。そして10時40分、無効印が押された…。駅前の碑にあった旅情の二文字。この旅を応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。こうして、無事に着けたのは、皆様のおかげです。本当にありがとうございました!
◆旅を終えて
 27日、博多から新幹線で、実家のある三原に到着した。改札を抜けた瞬間、「この旅のすべてが終わった」という思いが頭を過ぎり、そして、なんとも言えない達成感のようなものが訪れた。
 思えば、この旅で多くの出会いをした。人だけではなく、空や海や川や大地…多くの自然と出会うことができた。時に自然は厳しく、そしてやさしかった。
 2月14日、雪の稚内に着いた時、これから始まる長い旅に不安と期待が交差していた。そして、季節は流れ、桜が咲こうとしている春となり、私の旅も終わった。旅をしていた日数は30日。でも、実際には長く感じることもなく、そして遠回りをしている、無駄をしていると思ったこともなかった。
 人は、私のことを「オタク」とか「暇人」とか言うのかもしれない。だが、私は胸を張っていうのだろう。「無駄をすることにこそ、普段は見えない何かがあるのだ」と。そして、こう続ける「無駄を極めてみれば、襟を正す思いもあるのだ」と。だって、この旅の全ては、紛れもない私の宝なのだから。