「すべての人に経営を学んで欲しい」ORF1日目に行われたプレミアムセッションにおいて、村井純環境情報学部教授と対談した大前研一UCLA教授が、先見性を持つ重要さを訴えた。対談は一時間半に渡り、人気の2人の講演ともあり、立ち見も多く出た。

対談ではまず初めに村井教授が、「95年ごろから普通の人がインターネットを使い始めていたのに先がけ、SFCでは90年には、世界でも珍しく全生徒が使っていた」とインターネットによる社会変化とSFCの歴史を振り返った。
 続けて、「その後の95年から2000年の5年間は、日本全体は世界から遅れを取った時期があったと思う」と延べ、技術は進歩していたものの、日本におけるインターネットの社会への展開が遅れていたことを指摘した。それに対し大前氏は、「しかし、その後の5年は、携帯電話という点で日本はリードした。特に女性の利用が意義深い」と今後に期待感を示した。

ただ、大前氏は、「これらの変化を見ると3年後、5年後の姿が見える人と、そうでない人の差が大きくなってきている」と述べ、業界の未来像を描く能力の大切さを説いた。それらの先見性を見誤ると、「産業の突然死」が起こるといい、デジタルカメラの登場によるカメラ産業の衰退や、iPodに対するソニーの戦略の失敗などを例に挙げた。
 その上で「数年先に、どうなっているのかということを考えるクセを作らなければならない」と述べた。村井教授は同意し、「分かっているひとに聞くチャンスがあれば、少し予測ができるのではないかと思っている。そのような意味でSFCは、ビジネス、政策面で嗅覚がいい」と述べた。
 また、大前氏は「あらゆる人に経営・ビジネスの勉強をしてもらいたい」と訴えた。特にベンチャーでは「技術を持っていても、ビジネスが分かっていなくて、こけるパターンが多い」としたほか、「一方で経営を知りすぎると、技術をリスクととらえ、進歩を止めてしまう」と述べた。単に企業だけではなく、大学・病院・地方自治体など、あらゆる分野において、ビジネスの視点が不可欠であると述べた。
 それに対し村井教授は「では、経営を勉強する機会はどこにあるのか」と大前氏に尋ねると、大前氏は欧米の例を紹介し、「幼少の頃の教育を始め、家庭の中でも学ぶ機会はいくらでもある」と、日常からのトレーニングが必要だと述べた。
 加えて、そのような経営マインドを養うには、答えがあるという前提の教育を変え、多様性・柔軟性を養う教育が必要だという。その点で既にそのような教育が行われている北欧、インドは強くなると予想した。
 村井教授が、インドと中国の今後について聞くと、大前氏は「中国は製造業は問題ないが、創意工夫という面は弱い。しかしインドは製造業は弱いが、頭がいい。知的産業、経営力に関しては、インドに分がある」との見解を示した。
 最後に村井教授が、社会における大学の役割とは何かを大前氏に問いかけると、「世界中で大学が21世紀社会の原動力になっており、その周りに産業が興っている。日本の大学はその役割を果たしておらず、たるんでいるのではないか」と述べ、対談を締めくくった。