1日(金)、Keio Sports Channel(略称KSC)が正式オープンを果たした。大学スポーツの活性化を図るSMRGの関連団体、keio Sportareの中でWEBを用いた映像配信の機能を担っており、試合や練習の様子などをストリーミングで見ることができる。SFC CLIPは、KSCの代表でWEBサイトをプロデュースする須子善彦さん(政・メ博士課程)に取材した。

そもそも、なぜ大学スポーツの振興のためにWEBを使った取り組みが発案されたのでしょうか?
 Keio Sports Channel(以下、KSC)は、スポーツをがんばっている人たちと、僕たち一般学生との間の距離を少しでも縮められたらな、という目的で始まったkeio Sportareプロジェクトの一部です。ですので、WEBサイト以外にも、今月SUBWAYに新設される予定のプラズマディスプレイで試合の映像を流す、パーティなどのオフラインイベントの開催など、WEB以外にも様々な活動を予定しています。
 また、keio Sportareプロジェクトの目的の一つに、「大学スポーツの敷居を下げる」というのがあります。僕たち一般学生が、どうやったら大学スポーツを身近に感じられるだろう、と考えた時、WEBサイトが効果的だと考えました。バスケのエキサイティングな映像を暇な時にTVをつける感覚で数クリックで見られるようにすることは、大学スポーツの敷居を下げる手段としてとても有効かな、と思ったのです。
 実際、公開数日で100人以上のユーザが動画を見てくださっています。
「コミュニティサイト」と銘打っているのはなぜですか?
 すべてのWEBサイトは、コミュニティサイトなんじゃないですかね(笑)。
 ブログなど最近の流行はコミュニティではない方向に向かっている、という意見もありますが、結局はコミュニティの凝縮度や単位が違うだけで、多かれ少なかれコミュニティだと思います。ですので、「コミュニティサイト」といっても、まったく特別な意味では使っていないのですよ。
 強いて言えば、こちらから一方的に配信するストリーミングサイトではなく、双方向性の高いサイトにしたいと考えています。先に述べたように、スポーツをがんばっている人たちと、僕たち一般学生との間でのコミュニケーションを促進するようなサイトにしたい。そのことを端的に示せる言葉を探していたら、いきついたところが「コミュニティサイト」でした。レトロな響きですけどね(笑)。
 また、僕が数年前からSNSの研究をしていることや、最近では未踏プロジェクトで、SNSを用いたリコメンドシステムを開発してきたことから、友達には、そういう機能がKSCに搭載されるのでは、と思われていました。しかし、このサイトの目的を考えたとき、まだそれらの機能は中心には来ないと考えたのです。
 SFC生の大半は、おそらく、mixiやGREEのユーザです。基本的なSNSの部分に対するユーザのニーズは、それらのサイトとKSCとの連携を上手く行うことで満たせるでしょう。
 一方、KSCについて、もっと新しい、面白いなと思ってほしい点は、実はこのサイトが「みんなで作るビデオブログ」であるという点です。今は、技術的・手続き的問題から、数クリックで誰もが自由に動画をアップすることは出来ないのですが、近いうちにできるようにしたいと思います。
 SFCには、高い映像コンテンツ作成スキルがあり、この土壌の上で、「みんなで作るビデオブログサイト」を動かしてみる、という試みは、mixiやgreeの焼き直しを行うよりも遥かにSFC的だし、SFC生のニーズを満たせると思っています。
 もちろん、未踏プロジェクトで開発したリコメンドシステムは、KSCの情報量が増大した暁には、搭載されるかもしれません。すべては、必要なタイミングで行っていきます。

サイトの構成を考えて行く過程で、どのような議論がありましたか?
 具体的な議論は、ものすごくありました。鍵となったのは、体育会やスポーツ系サークルのみなさんが、いかに自由にコンテンツを発信していただけるか、という点です。その点から、現在のXOOPSというCMS(Contents Management System)技術を使った基本構成になりました。
 このサイトのコミュニティ的デザインに関しては、村井純研究室のnecoという研究グループの輪講での議論がベースになっています。その輪講は、『ネットコミュニティ戦略』という名著を元に行っています。この本は既に出版から数年が経っており、現在では新品がもう手に入らないくらいの古い本です。necoではこの本を元に、ここ数年のネットコミュニティにおける革新を踏まえて、この本の内容をアップデートする、という試みを行っています。
 これらの過程も、近いうちに、開発者日記のような形で、KSCに載せてゆきたいと思っています。これらのことに興味のある方も、KSCを是非、ご覧ください(笑)。
サイトを構築する際、どのような点に苦労していますか?
 大変な点は2点です。
 1点目は、コミュニティのデザインに関する議論で、それは先に述べた通りです。そして、このことはむしろこれからが勝負でしょう。この議論は、今後も尽きません。ユーザのみなさんも、参加していただく形で進めていければ、と思っています。
 2点目は、関係者との信頼構築とコンテンツの拡充です。コミュニティサイトなので、多くのコンテンツはいずれ、ユーザのみなさんの手によって作られて行くのが理想ですが、やはり、オープン最初の時点のコンテンツは私達スタッフが集めなければなりません。学部に支援をいただいているプロジェクトとはいえ、まだブランドも実績も無いプロジェクトです。そのような私達に対し、コンテンツを提供してくれた部、サークルのみなさんの協力がなければ、このサイトはオープンできませんでした。この場をお借りして、改めてお礼を申し上げます。
 また、本サイトならびにkeio Sportareプロジェクトは、研究グループSMRGの実践的サブプロジェクトとして生まれたのですが、このSMRGの1年近くに渡る地道な活動の成果を、体育会やサークルの皆さんが認めてくださった結果が、本日の形になったと考えています。本当に、ありがとうございます。
 プロジェクトとして上記2点に集中するために、逆にシステム開発にかけるコストは大幅に削りました。XOOPSを使って、事実上、システムの部分は3日ほどで完成しました。そのため、XHTMLのvalid化とか細かいところの機能などの不満点もありますが、プロジェクトとしてまず最初に重要な点は何かを考え、それらの点は大きく割り切りました。
 また、後に述べますが、独自にシステム開発やHackを駆使してしまうことで、その技術者がいなくなったとたんにサイトの更新が止まってしまう、といった事態を避けたい、という意図もあります。

参考にされたサイトなどはありますか?
 ストリーミングのサイトとしてはNBAのサイトなど、コミュニティの部分では「はてな」やmixiなどを参考にしました。
このサイトは今後、実際どのように利用されると思いますか?一般の学生にとっては、これまで縁のなかった情報が多いと思うのですが。
 やはり一番は、ストリーミングの視聴だと思います。これが最も手軽で、敷居が低いですからね(笑)。「たいくつな昼下がりの講義に 残留のワンシーンをさわやかに」というキャッチコピーが示すように、一般学生の大半がストリーミングを見ていただけるようになれば、多くの体育会やサークルが、keio Sports Channelでストリーミング映像を流していただけるようになると思います。そうなれば、スポーツをがんばっている人たちと、僕たち一般学生との間の距離を縮める、という目的の半分は達成されると考えています。
僕も、当初はあまり大学スポーツには興味を持っていなかったのですが、実際の試合の映像を(特に バスケとか)見ると、本当に面白いんですよ。ストリーミングをきっかけとして、多くの一般学生が 大学スポーツに興味を持ち、その結果として、プレイヤーに興味を持ったり、試合を観に行ったりしてもらえればいいなーと。そしたら徐々に、一般学生もコミュニティに参加してゆくのでは、と思っています。
 やはり、生が一番!。そういう意味で、試合を観に行くのが一番良いと思うのですが、Webサイトでできる一番の「生」ということで僕たちが提供しているストリーミングをぜひ、一度、見てみてください!!
KSCの将来的なビジョンを教えてください。
 個人的には、この点について強い関心があります。コミュニティサイトなので、運営も、スタッフとユーザの壁が無い形で進めてゆこうと思いますが、さらに重要なことは、KSCだけでなく、keio Sportareプロジェクト全体が、継続的に安定的に発展してゆくことだと思います。学生中心のプロジェクトでは、この点が何よりも難しいことですよね?
 いかに安定し、発展しつづけるかはWEBサイトを持つプロジェクトに限らず、あらゆるプロジェクトが抱える共通の悩みだと思います。僕はもともとAIESECという学生団体の運営をしていて、どちらかというと技術そのものというより、コミュニティのデザインや運営に興味があります。研究者個人の立場としては、この点が最も今後、力を割いていきたい部分でもあります。
 プロジェクトは、本来その定義が時限的で、目的を達成したら終了するものですから、むやみに続くことが重要かというと、そうではないという方も多いでしょう。確かにその通りです。
 一方で、多くのユーザがいて多くの個人情報を持っているサイトや、地域の方を巻き込んでいるプロジェクトなど、多くの支援者がついているプロジェクトは、継続的な活動をすることに、それなりに責任が生じているといえます。
 今までも、多くのサイトやプロジェクトが、多くのユーザや支援者の声にも関わらず、惜しまれながら終了していきました。内部の実情を考えれば、仕方がない部分も多かったのですが、もう少し早い時期からスキームを考えていれば、別の道があったのではないか、と思う部分があります。
 同じ悩みを抱えたプロジェクトの間で、ノウハウやリソースを「ゆるやかにシェア」したり、「ベストエフォート」で活動に参加できる仕組みをつくったり、といったことをしていきたいと思います。
 コミュニティサイトというと閉じたサイトのようにお感じになると思いますが、KSCもkeio Sportareも、常に開いたものにしてゆきたいと思っています。技術的にも、WebサービスによるAPIの提供など、必要なことを行っていく予定です。
 言うは簡単で、実行するには、プロジェクト間の文化や慣習の問題や、予算の問題、WEBの場合だと個人情報の扱いなど、解決をしなければならない課題は数多くあります。それらを考えて、実現してゆくことは、とてもチャレンジングであるし、このように実践的なプロジェクトから知識創造をすることがSFCらしさなのではないかな、と思います。
 このようなことに興味をお持ちになった方は、ぜひ、一緒に活動しましょう!
ありがとうございました。