無線LANの次はRFID。村井純研究室などを中心とし、キャンパスのインフラとして、RFIDを整備しようという試みが既に始まっている。現在はメディアセンター1階、SUBWAYと特別教室などに設置され、今後2年間をメドに設置範囲を徐々に拡大していく。


 これらのインフラは自由に使えるようになり、誰でもRFIDを利用したサービスを提供することが可能になる。このようにインフラとツールを作ることによって、SFCの研究や教育の「素材」を提供していくのが、今回取り上げるBelugaプロジェクトである。
■すでに授業ではRFIDインフラを使った演習も
 秋学期の「情報環境論(担当:加藤文俊環境情報学部助教授)」では、授業の一部を南政樹 政策・メディア研究科特別研究講師氏が担当し、Belugaプロジェクトの実験を行った。
 受講生には愛・地球博で用いられたもの(http://www.hokkosangyo.com/rfid.htm#banpaku)と同様のアクティブ型ICタグが配布された。秋学期間中、受講生及び先生は、キャンパス内では常時このタグを身に付けることを義務付けられた。現在リーダーが設置されているエリアはメディアセンター1階やSUBWAYで、合計20個のリーダーが設置されている。
 授業内の課題では、自分のタグIDを入力して、一週間の位置情報を取得するプログラミングなどが行われた。その他、グループワークでは「プログラミング班」「コンセプト班」「デザイン班」の3種類に分かれて提案を行い、タグがある日常生活ではどのような事が可能になるか、手探りで試行錯誤しながら議論した。
 具体的には、プログラミング班ではタグを利用したキャンパス内の鬼ごっこシステム、コンセプト班では電車内における忘れ物にタグを付けるシステム、またデザイン班では高齢者を対象にしたダルマ型のIDなどの提案があった。
 将来的には、学生1人1人がタグを所持して、授業の出欠や残留届けといった、今まで紙媒体に記録していた情報を自動的に読み取ることが可能になるかもしれない、と南氏は大学におけるタグ利用について語っている。
■南氏インタビュー
Belugaプロジェクトがはじまった経緯を教えてください。
 Belugaプロジェクトは、2005年4月から始まりました。しかし、私達のRFIDを使ったキャンパスでの取り組みは、2002年のホームカミングデイが最初でした。それ以来、他の研究グループとのコラボレーションなどを通じて継続的に取り組んできました。
 このプロジェクトの目的は大きく二つあります。
 一つは、SFCのキャンパスを対象として、人やモノが「どの場所にいるか」(存在しているか)という情報をRFIDや無線LANの情報を使って作り出し、それを自分が許可した仲間と共有するサービスを提供することです。RFIDを使った取り組みを始めたころ、SFCの中には同じようにRFIDを使っている研究グループがいくつもありました。けれど、それぞれが独立してやっていたので、どうしても研究室レベルを超えた大きな範囲をカバーするのは困難でした。そこでこれをインフラとして整備することをいろいろな先生方に提案しつつ、プロトタイプとして実現可能性を見せることを考えました。それが現在Belugaプロジェクトが提供しはじめているサービスです。
 もう一つは、この取り組み自身を教育教材として活用することです。たとえば、このようなインフラストラクチャを構築する過程を素材と捉えることで、複数の人と共同でソフトウェアを作る方法論、実際に動くサービスとして品質の維持を実践、実社会への展開を目指した問題点の洗い出しとその解決策の模索などを、皆で一緒に体験的に学んで、考えていくことができます。これは技術に興味のある人にはとてもよい経験になると考えています。
 また、プログラミングの得意な人が少しだけ努力し、このサービスがプログラミング入門で習ったくらいの難しさで自由にカスタマイズできるようになると、プログラミングが得意でない人が「少し挑戦する」ことで「モノの位置」や「人の位置」の情報を使ってそのアイデアを実現できるようになります。今学期、加藤文俊先生にご協力いただいて
「情報環境論」で、実際にこれを使った授業を行いました。インフラやツールとしての完成度がまだまだ低くて混乱した人も多く居たようですが、RFID自身を実際に使ってみてそこから新たなサービスを考えるという課題に対して非常に多くのアイデアが提案されました。これはとても面白かったです。
 このように、皆が自由に使えるインフラとツールを作ることで、SFCの研究や教育の「素材」を提供するのがBelugaプロジェクトです。
(2)Belugaプロジェクトのメンバーはどのように集まったのですか? また現在、何人いるのですか? 大学院生が中心なのでしょうか?
 プロジェクトメンバーは、主に村井研究室に所属している学部生・大学院生です。これは「たまたまボクの近くにいた人たち」です。人数は約10名です。また、熊坂さんや加藤文俊さんのようにアイデアや場の提供などでボクたちの活動を支えてくれている人たちがたくさんいます。
(3)どのようにしてプロジェクトを進めているのですか?(話し合いや意思決定の方法)
 最初にインフラとシステムの整備を行った時には、週に1-2回のミーティングを行っていました。9月頃にインフラが大体整備され、10月から運用を始めましたが、それからは月に1回のペースで全員が集まっています。全員が集まるミーティングでは主に全体のデザインを考え直したり、どんな機能が必要かを洗い出したり、プログラミングが苦手な人により易しく使ってもらうにはどうしたら良いか議論したり、具体的なアプリケーションを作ってみたりしています。
 また、普段の運用から見つかった課題など必要に応じた話し合いや意思決定はとてもアドホックに行っています。このときは「おーい、集まるぞー」と号令をかけて、集まれる人が集まって議論し、そのプロセスと結果はメーリングリストやWikiなどを使って全員で共有しています。
(4)特色GPに選ばれたことによる具体的な効果があれば教えてください
 インフラを整備するためのサポートが受けられるようになりました。
 具体的には、資金の面がそうですし、他のプロジェクトとの協力面における効果が大きいです。また、実践的な取り組みを行っているという「お墨付き」を頂いた、という点では、学外で発表する際に「ハク」がつきました。
(5)2007年度をめどにSFCの全ての部屋で位置情報が利用できるようになることを目指されていますが、その後の展開について計画がありましたら教えてください。
 現在はメディアセンター1階、学生ラウンジ(Subway)、特別教室(κ、ε、ι、ο、λ)にRFIDのリーダを設置しています。しかし、インフラとして活用するにはこれだけじゃつまらないですよね。ボクたちは、より広範囲にこのサービスが利用できないといけないと考えています。
 具体的には、来年度は全ての教室と食堂などの厚生施設への拡張を考えています。そして、再来年度には全ての教員個室や屋外への拡張を目指しています。
(6)プロジェクトに直接関わっていない学生であっても、RFIDを登録してBelugaの現行サービスを利用することはできますか?
 はい、できます。
 それには利用者の登録が必要になります。
 まだ細々と活動しているレベルですので、具体的なアプリケーションは自分で作らなければいけませんし、利用可能な範囲もそれほど大きくありませんが、実際にいくつかの研究室で使いはじめてもらっています。
(7)学生であれば、誰でもBelugaプロジェクトに参加することはできますか? 参加できる場合の手続きはどのように行なえばよいでしょうか?
 一通メールを書いてくれれば誰でも参加できます。
 それから、学生じゃない人ももちろんOKです。
 ただ、活動の主体は村井研究室ですので、できれば研究プロジェクトを履修してもらいたいと思います。
●Belugaプロジェクト
メールアドレス:[email protected]
URL:http://beluga.sfc.keio.ac.jp/
担当:政策・メディア研究科 講師 南 政樹