20日(水)、2007年度4月入学1期AO入試1次選考の合格発表が行われる。今年の夏休み、全力で書類作成に望まれた方は、ハラハラした気持ちや緊張の混じり合った、何とも言えない気持ちで通知を待っておられるのではないだろうか。


 私も丁度1年前の今頃、同じ様な気持ちで通知を待っていた。合格された方は、最終ステージである面接へ勝負の場が移される。今回は、2006年度AO入試A方式1期で合格した磯田岳洋が、面接についてのアドバイスをお届けする。
 私はAO入試の一番の山場は書類選考だと考えている。実際に面接で不合格になる率よりも書類審査で不合格になる率の方が圧倒的に高い。なので、一次選考合格の案内を手にした際はまず、自分で自分を褒めていただきたい。私の場合、興奮のあまり母と泣いてしまった。恥ずかしながら事実である。
 しかしながら、AO入試に合格した訳ではない。次に待つのは色々な噂の多い「面接」である。私はSFCのAO面接の情報を得るためにWebを使って色々な情報を手にした。圧迫面接が待っているだの、英語で質問されるだの、今考えるだけでも身震いする様な情報がそこには乗っていた。自分を怖がらせる情報が多く、有用な情報は少なかったように記憶している。調べてしまった自分を呪った。しかし実際はそんな事は無かった(一部噂通りの部分もあったが)。かつて私が抱いた不安を抱かれている方がおられたら、それは無用の長物だと伝えたい。大切なのは、自分が志願書に書いた事を、自分の「色」を加えて伝えきる事だ。そう私は断言したい。
●プレゼン イズ ショータイム
 まず面接時にはプレゼンテーションのための時間がある。プレゼンをするかしないかは各々の自由だ。だが、プレゼンは自分の「色」を伝えるためには非常に有効な手段である。私は迷わずプレゼンする事を選んだ。内容は自分が志願書に書ききれなかった事。私のときはプロジェクター類は使えなかったため、レジュメを用意した。レジュメ一つ取っても、その人の「色」が出る。イラストレーターを使ってキレイ、分かりやすいを心がけた。
 プレゼンとは、自分が主人公のショーなのではないか思う。いかに観客を自分の世界にのめり込ませ、感動を与えるかがポイントだと考えている。私の場合は自分が志願書として提出した「パンフレット」を見てやってきた観客に、最高の演技を見せつけてやる勢いで望んだ。観客は主人公の一挙一動をしっかりと見ている。私は完璧な演技を行うために、プレゼンの予行練習を何十回も行った。さらに、当然良いショーにするためには、演技もさることながら小道具にも自分の「色」を出さなければいけない。レジュメを見た目にもこだわった理由がそこにある。一次発表から面接までの一週間ちょっとの短い時間、脚本・演出を完璧な状態に仕上げなければいけない。
●嫌われる演劇とは
 ショー、すなわちプレゼンとは何かを述べたが、ここで嫌われるショーとは何なのかを考えてみよう。まず、ありふれた内容。だがしかし、一次選考を通過された方はこの心配は皆無だと言って良いだろう。面白みがあると判断された志願書のみが一次通過されるといっても過言ではないからだ。
 次に面白くないショーとして挙げられるのが、面白みの無い演技。せっかく面白い内容でも、主人公が特に熱意も無く、無難に演技しているだけでは観客が白けてしまう。皆さんも同じ様に感じるはずだが、台詞が棒読みのドラマからは、感動も熱い気持ちも湧いてはこない。自分の熱意を100%伝えるために、死ぬ気で演技していただきたい。
●決戦は金曜日
 準備万端にショーの準備を整えて、私は面接の前日に富山の実家からSFCへと旅立った。お昼の便で羽田に到着し午後には横浜駅前のホテルに到着した。部屋の中で、予行練習を何回も行った。途中、ベッドのターンダウンをしに来たお姉さんに変な目で見られたが、気にしない。夕食は部屋でとり、気づいたらベッドの上で寝ていた。
 翌日、時間に遅れないように横浜市営地下鉄でSFCへ向かった。今まで感じなかった不安が突如押し寄せてくる。地下鉄を降り、バスに揺られSFCへ向かう。緊張に押しつぶされないように、音楽を聴きながら歌う振りをしてバスに乗っていた記憶がある。周りからはさぞかし滑稽に映っていたに違いない。
 SFCに到着し受付をすませたら、会議室の様な所に一次合格者全員が、いくつかのグループに区切られて集められた。そこで、本人確認とAOスカラシップを希望するかのアンケートが行われた。しかし予想外の事態が起こる。設問が3つほど記された紙が配られ、その場で書かされたのだ。何を訊かれたか、残念ながら覚えてはいない。しかし、殆ど何も書けなかったと記憶している。今となって思うのだが、あれは一種の筆跡確認だったのではないかと、個人的には思う。後の面接時にも一切触れられなかった。
 そして作業が終わった後、グループごとにまた別の場所に移動させられる。そこで名前が呼ばれた人から面接室に入って行く。20分ほど待っただろうか、私の名前が呼ばれ、面接室に入った。面接官は3人。若手1人、中堅1人、ベテラン1人といった感じ。名前と面接番号を言った後、席に座る。プレゼンの開始が求められたので、3人にレジュメを配った後、演技を開始した。私は練習通り、身振り手振りを加え、必要に応じて3人の前を歩きながら必死に熱演した。途中面接官が「それは違うよ」とでも言いたそうに首を振る。しかしそれに怯え、反応しては決して合格する事は出来ない。私は構わず演技を続けた。
 プレゼンの後、試験官から質問が飛んだ。君の言ったことは古い、いまの時代に合っていない、とまで言われたが、それに同意してしまってはこの数ヶ月間自分が準備してきたものが無駄になる。私は志願書に書いた内容をもう一度言葉を作り替えて話した。何個かのきわどい質問をそうやってかわしながら進めると、次第に面接官が優しくなり始める。「君はさっきあの質問に○○って答えていたけど、××って答えてもいいんだよ」などというアドバイスまで頂いた。
 全てが終わり、部屋を出た。なぜか「合格した!」という何の根拠も無い自信がこみ上げてきた。一人ニコニコしながら部屋を出てくるものだから、まだ面接を受けていない受験者から不思議そうに見られた。
 今改めて思うに、きっとそのような気持ちに浸る事が出来たのは、質問時間を含めて、私のショーが満足のいく物に仕上がったからだ。精一杯の演技がもたらす、達成感に浸る事が出来たからだ。合格のポイントはそこにあるのではないだろうか。