SFC Open Research Forum 2006の1日目、22日(水)12:00-13:30、カンファレンススクウェアM+10階でシンポジウム「ケータイのなかのまち」(SFC研究所ケータイラボラトリ主催)が開催された。外部から3名の有識者を招いてのセッションの議題は主に、ケータイで使用できる位置情報サービスの現状と未来に関するものだった。

ORF2006

話題提供者は、栄藤稔氏(株式会社エヌ・ティ・ティドコモ総合研究所次長)、Petteri Repo氏(フィンランド、National Consumer Research Centre)、稲田依子氏(フランス Ecole Nationale Superieure des Telecommunications)の3名。モデレーターを加藤文俊環境情報学部助教授と岡部大介政策・メディア研究科 特別研究教員が務めた。
 トップバッターとして話題を提供した栄藤氏は国内の最新のケータイ事情を紹介。特に、位置情報サービスを応用した緊急通報機能(キッズケータイなど)やプライバシー保護の現状のみならず、それらの抱えている問題点を分類、整理して発表した。
 続いて、栄藤氏による発表を受けてフィンランドのPetteri Repo氏がヨーロッパ諸国と日本の位置情報サービスの現状を比較した。特に、Repo氏が関わった旅行用モブログ(ケータイから投稿できるウェブログ)を題材として、現実の生活のなかでいかにしてバーチャルな体験を取り入れるかに関して問題を提起。ユーザの声を取り入れることの有用性を実証した試みを紹介し、位置情報サービスの製品開発の過程にまで踏み込んだ考察を披露した。
 最後に稲田依子氏が文化人類学者の視点から、フランス発のマルチプレーヤーゲーム「モギィ」を紹介。日本で約100名の熱心なプレーヤーがいるという位置情報サービスを用いたゲームを例に、リアルとバーチャルが混在した状況における人間関係について分析した。
 以上に引き続いて、観客を交えたディスカッションが行われた。「私もケータイのコンテンツ開発に携わっているが、位置情報以外に活用できる情報は何だと思われるか」という観客からの質問に対して、「私も知りたいが…」と壇上のメンバー同士が質問し合うなど、終始和やかに議論は盛り上がりを見せた。
 セッションの締めくくりとしてマイクを握った加藤助教授は、「プライバシーなどの課題も指摘されたが、まずはいろいろと試みて、その可能性を探りながら議論を続けるべきではないか、と感じました」とコメント。シンポジウムの内容が今後の日本で起こるであろう議論の契機であることを示唆した。
 なお、本シンポジウムは終了時には立ち見客も出るほどの盛況となり、終了後の会場外ではパネラーが観客の一部と議論を続ける姿が見られた。
 後日、モデレーターの岡部氏は「平日にも関わらず多くの人が関心を持って集まってくださった。つまり、それだけ位置情報について考える土壌ができあがりつつあるということではないかと感じた。今後は、その土壌のどこに杭を打ち込むかが課題。可能性のある分野だな、とあらためて実感しました」とSFC CLIPにコメントした。