ORF2日目のセッション、「ガラパゴスを脱せるのか? -ネットが創造する新社会-」では、クックパッド株式会社代表執行役の佐野陽光氏と、グーグル株式会社代表取締役社長の辻野晃一郎氏を中心に、ガラパゴス化した日本社会に見受けられるれる閉塞感を打破するにはどうしたらいいかという議論がなされた。


■パネリスト
・佐野陽光氏 (クックパッド株式会社代表執行役)
・辻野晃一郎氏 (グーグル株式会社代表取締役社長)
・国領二郎総合政策学部学部長
・金正勲政策・メディア研究所准教授
・司会:折田明子氏慶應義塾大学政策・メディア研究科講師
 ガラパゴス化した日本社会において、イノベーションを健全なビジネスの発展、社会への還元につなげていくにはどうしたらいいか。また、それを日本に留めることなく、世界に広げていくにはどうすべきかを主題に、議論が進められた。

パネリスト

イノベーションの二つの定義

議論はイノベーションの定義から始まった。佐野氏はイノベーションを「大量の失敗」と定義し、確信的イノベーションとは、その裏に大量の失敗があるからこそ生まれるものであると述べた。そう定義すると、重要なのは、果たして日本は大量の失敗を許容できる国であるのかということであると気付く。この疑問に対し、死の危険が少ないこと、インターネットの誕生により大量の失敗が容易になったこと、資本をかけなくとも、大量の失敗が必要なフィールドがたくさんあることを挙げ、日本人は大量の失敗が可能で、時代にも恵まれていると続けた。
 
 しかしその一方で、世界では、働き口がなくこのままだと餓死してしまうから自分で企業を始める人が多い。そのため、餓死しないことは企業家の減少の一因ではないかという指摘が國領学部長からあがった。
 
 次に、辻野氏は、イノベーションとは、「単にすぐれた技術、アイデアではなく、社会の人々に正しく理解してもらい、受け入れてもらうことができてこそ成立するもの」と定義した。そのため、ただの開発で終わるのではなく、その理解にも努めなければならないと述べた。

ガラパゴス活かせる利点?!

金氏は、辻野氏が述べた、イノベーションを認める社会について話を展開した。ガラパゴス化をマイナスにとらえるだけでなく、世界の競争の中で、世界から日本を特異化できる利点と考えることもできる。しかし、日本はそれをうまく利用できていない。その要因として、イノベーションが世界という社会に発信されず、日本に限られてしまっていることがあるとした。国内市場を軸にするのではなく、国内の市場を、企業を支えるサブマーケットと捉えた、世界に広がった企業を目指すべきであると述べた。

佐野陽光氏・辻野晃一郎氏・国領二郎総合政策学部学部長・金正勲政策・メディア研究所准教授

日本はイノベーションしやすい?

辻野氏は、佐野氏から投げかけられた、日本は世界と比較してイノベーションしやすいのかという問いに対して、日本はイノベーションで成り立ってきたため、イノベーションしやすく、理解のある国ではあるが、それを世界に向けて発信していく力が弱いと答えた。そのため、世界の中での日本のイノベーション力は低いと勘違いされがちではないかと言う。
 では、どうやったら日本の世界への発信力を高められるのかという問いに対し、辻野氏はコミュニケーション能力の向上を訴えた。受動的な教育方法と自分の意見をはっきり言わない国民性が今のコミュニケーション能力の低さの原因であるとした。

日本は企業を起こしにくい?

辻野氏は、日本の企業家の少なさに対し、企業の新陳代謝の遅さを挙げた。古い企業が退場せずにずっと残っているため、新しいビジネスモデルもできない。その原因としては、新しい会社がでてくると叩き潰す風習と、大企業に優秀な人材が吸収されてしまうことがある。これに対し、國領学部長も、日本も戦後は大量の起業と廃業が繰り返されて、生き残った企業が世界的になったが、そのイノベーションを続けられなかった、と同意見を述べた。