SFCで最も有名なイラストレーター、chamooiさん。スプレーアートのパフォーマーとして活躍しているハーミットこと大長将之さん(環1)。今回は2人に、アーティストの表現が生まれる瞬間や、アウトプットとインプットについて聞いてみました。聞き手:藤澤伸(環3)

デッサンをしない2人

大長:
昔は技術がないから、少し描けただけで嬉しくて、きれいな作品が描ければそれでよかったんですけど、最近は自分が投影されるような作品が描けて初めて、納得行きますね。
chamooi:
ある程度描けるようになったから、余裕が出てきたのですかね?
大長:
そういうことですね。
こういう感覚に行き着くまでの技術力・美術力を養成するのが美大なのかなとも思います。アートそのものは、学校で教えてもらうものではないと思います。
chamooi:
うん、自分の気持ちとか体験とかは、教わるものじゃないという点は共感できます。
大長:
技術は自分で磨けるだろって思ってしまうんです。美大に劣るかなと思うけど、いけるかなって。SFCにいれば、いろんなことできるかなって思いますし。
chamooi:
デッサンとかもあんまりしたことないのですか?
大長:
したことないですね。
chamooi:
それなのに、こんなに描けるんですね。
—-chamooiさんはどうですか?
chamooi:
まだちゃんとやってないですね。これからやろうとおもってます。
—-2人ともすごく謙遜して話しているのは、デッサンなどの段階を経ていないからかもしれませんね。その代わりにすごく「こういうのが描きたい」という方向へ、具体的に向かっている気がします。
大長:
技術を身につけるまでは、やらなきゃ! と思って何百枚も描いたりしましたね。でも、最近はもうある程度できているので、本当に描く量が減りました。chamooiさんは、定期的に自分に課す練習とかってありますか?
chamooi:
最近はやってないかもしれないです。

時間の使い方

大長:
例えば、七夕祭っていうテーマで描いてくれと言われた時には、どうやってそのテーマに合うものを描いていくんですか? またそういう時に、自分の色や感情は入れるんですか?
chamooi:
そうですね。大好きなSFCがあって、そこでまたお祭りをやるわけで、SFCと七夕祭に関係あるものを描こうってまず最初に思いました。そうしたら織姫と彦星は欠かせない。更に今年は竜宮城みたいな装飾をやるっていうのも聞いたので、魚とかも沢山描きました。何かイベントがあったら、それに関係するものを全部集めてみますね。
—-まずテーマどおりに、とにかくモチーフを集めてくるということですね。
chamooi:
そうです。そこには自分の感情とかは入れられないですね。
大長:
そこからどうやって、全体像をまとめていくんですか?
chamooi:
大きいイメージがあって、それを描こうとして、細かいところは頭の中にまだできてなくて、細かいところは描いていくうちに徐々にできていきます。だからその、最初にこれだ! って 描き始めても、どんどん形が変わっちゃって、最初に思ってたのと違うのができたりするんですけど。できたものはできたもので、いいかなって思います。
変化させながらまとめていく感じですね。小物をちょっとずついれて、全体の調和を考えます。
大長:
イラストとスプレーアートの決定的に違うところは、時間の使い方ですね。(スプレーアートだと)作品を描き上げるのにかかるのは5分だけですし、描き始める前に完成像と手順が先にイメージできていなければ、そもそも描けないんです。
絵を描く時に、最初のイメージを一貫するのか、これがいいなと思ったら変えていくのか、っていうのを考えた時に、僕らなんかは一貫するより他がなくて、最初のインスピレーション勝負みたいなところはあります。
—-レイアウト力なんかも必要ですよね?
大長:
かなりあると思いますね。センスないやつはほんとにないかんじで。1回頼まれて、教えたことがあるんですけど、ほんとに配置能力や色を選ぶ力みたいなのも、人によって全然違います。
スプレーアートやりだして、消える人はすぐ消えるし。やる人はずーっとやってますね。結局日本では、4人しかやってないという。
chamooi:
少ないですね……。
大長:
でもchamooiさんの、まずモチーフを置いていくっていう所は、スプレーアートに近いかもしれないですね。スプレーアートも、山だとか星だとかの描き方があって、それを組み合わせて作っていくので。

オリジナリティはインプットとアウトプットから

大長:
完全な自分のオリジナルの絵って描きますか?
chamooi:
結構描きます。オリジナリティを出してきたいですね。
—-「オリジナリティ」は、どこから出てくるものだと思いますか?
大長:
今まではずっと、Youtubeの動画にもあるような惑星とかを描いてたんですけど、ちょっと面白くなくなってきたんです。
どうしたら自分らしさが出るんだろうと思って。まさにそのオリジナリティ的なところを考えてきたら、自分はなんだか人生にやる気ないなっていうことに気が付いたんです。
それを表現しようと思って、暗闇の中にあるバラを描いて。自分の気持ちが、ちょっと伝わればいいなって思って。
オリジナリティは自分をどれだけ掘り下げられていけるか。自分自身をどんどん掘り下げて、それをいかに抽象化して、他の人の心にガツンと響かせるか、みたいなことだと思います。
chamooi:
考えてないと描けない、ということですか?
大長:
そうですね、最近そう思うようになってきましたね。
—-考える作業の方が大事ですか?
大長:
描き出す能力はまだ未熟ですけれど、かたちにはなってきたので。それよりも素材をどう集めるかってことですよね。その素材は自分の中からしか出てこない。
chamooi:
その気持ちはとてもよくわかります。
大長:
景色をみたり、本とか読んだりして、素材になる種を自分のなかに植えて、がっと咲かせて、それを表現するっていう感じですよね。
きれいな一文とかを見つけて、勢いで描いたり。
chamooi:
そういうの、ありますね。描いてって頼まれたときだけじゃなく、自分の体験があって、描きたいなと思って描くときもあります。
インプットできなかったら、アウトプットできないです。

アーティストはどんな人間か

—-アートやるひとって、ものすごい目で見られるときもありますよね。無から有を生み出している存在、みたいな。でもあくまで、インプットしたものを自分なりにアウトプットしているだけなんですね。
chamooi:
世界を別角度から切り取って視点を提示する、という感じですね。
大長:
SFCっぽく言うと、新しい視点を確保して、その視点での切り取り方を提示するって感じになるのですかね。アートという媒介を通じて、他の人はこういうとらえ方をしてたのか、と気付くという感じです。
最近の現代アートもそうなんじゃないのかなと思うようになって来ました。昔の古典派とかは、ずっとルイ14世の退官とかずっとそれだけを描いてたけど、それじゃなくて、今はもっと多用な時代になって、視点も数え切れないくらいにあるので。
そのうちのどこか、ある視点から描くための能力を鍛えるために考えたりすることは欠かせないなって考えてます。
chamooi:
ハーミットは世界の切り口って言ってましたけど、わたしの場合は自分の経験とか体験を、いろんな角度から見て、どうすれば人に伝わるかなって考えます。
大長:
結局なにかを提示するということですか。
chamooi:
伝えなきゃ意味ないっていうことです。
大長:
伝えようと思って絵描いてたわけではないのに、そうなってきちゃいましたね。
—-出発点は自分の感じたこと、こういう見方をしているんだということで、それをアウトプットしてるだけだけれど、そこにちょっと技術が加わるだけで、アートになりうる気がしますね。
大長:
ただの言葉より、心に来るような気がします。言語って未完成ですよね。
chamooi:
未完成っていうか、伝えきれないところがありますよね。
大長:
そこを埋めてくれるのが、アートなんだと思います。
(chamooiさんとハーミットの対談は今回で最終回となります。最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。)