安村通晃研究室(以下安村研)は、13日(木)-15日(土)の3日間、展示会「つながり展」を日吉キャンパスにて催した。安村研による展示会は2005年から毎年開催されており、今回は8回目となる。

欲せられる「つながり」


 昨今、漫画や映画において友情や仲間というテーマが強く共感を呼んだり、東日本大震災を経験して絆という言葉がしばしば掲げられた。生活環境においても、SNSの登場や価値観の変化が、学校、家族、友人の関わり方に影響を及ぼしている。そんな、あらゆる場面での「つながり」をテーマとした展示会が、この「つながり展」だ。

会場の様子会場の様子


 安村研は、コンピュータと人の関わりをデザインするインタラクションデザインの研究をしている。インタラクションデザインという知見から、新たなつながりをデザインした作品展示と、トークセッションが開催された。

トークセッションのスケジュール


トークセッションの様子トークセッションの様子


13日(木)
「絶望と幸福のはざま」
古市憲寿さん(SFC研究所訪問研究員)
安村通晃環境情報学部教授

14日(金)
「女のつながり欲、男のつながり欲」
山本貴代さん(女の欲望ラボ代表)
勝屋久さん(勝屋久事務所代表/プロフェッショナル・コネクター)
安村通晃環境情報学部教授

15日(土)
「婚活+恋愛アークテクチャ」
白河桃子さん(少子化ジャーナリスト)
小川克彦環境情報学部教授
安村通晃環境情報学部教授

 SFC CLIP編集部員は1日目のトークセッション「絶望と幸福のはざま」を取材した。

自由であるがゆえに失われた「つながり」


 成熟した日本社会において向上心をもつことのできない若者たち(自己充足する若者)が求める「つながり」について、白熱したセッションが繰り広げられた。古市憲寿さんは以下のように語った。

古市憲寿さん古市憲寿さん


 かつて、日本社会は終身雇用制・年功序列制を基にして社会が構成されていました。こうした社会は一見すると、老害がはびこってしまうなどのデメリットばかりが目につきます。しかし社会福祉が不十分な日本においては、「会社」という存在はある意味、個人の人生を担保してくれていたのです。

 現在、会社を軸においた社会は崩壊してしまいました。終身雇用・年功序列という「考えなくてもよいつながり」は消失してしまい、若者はどこに頼れば良いのかわからなくなってしまっているのです。換言すれば、社会において「つながり」がなくなってしまった。

 そうした中で、若者は「つながり」を自分で探すようになっています。ある調査では「仲間や友人をなによりも大切に思っている」と答える若者の割合は年々増加しています。仲間をなによりも重要と考える、漫画ONE PIECEの大流行はそれを象徴しているかのようですね。


「つながっていること」の確認。SNSを使う若者


 つまり、自分で「つながり」を確保しなくてはならない時代です。そういうシビアな時代がきている。終身雇用年功序列の崩壊・年金問題・就職問題etc……いまの若者を取り巻く環境は厳しく、将来に対して漠然とした不安ばかりがつのっていきます。若者を救ってくれるのは何なのか。
 こうした社会の中で、一度つくった「つながり」をなくしてしまうことのリスクはとても高いと言えます。常に「つながり」を担保していたい若者はTwitterやFacebookなどのSNSを積極的に利用して、友人や仲間と “最大公約数的”に「つながって」いるのです。過剰なまでに「つながり」を求めているとも言えるでしょう。

 これからどのようなカタチにコミュニケーションが落ち着いてくるのかはわかりません。しかし、社会起業家の増加に代表されるように、自分の居場所を社会のなかに見つけたいという欲望も高まってきているように感じます。学生も社会に埋め込まれた存在、切り離されることができない存在です。「つながり」がある種、身分制社会を作っていくとも考えられます。

 悪くない時代、かもしれませんね……。


「つながり」を支援する作品


似顔絵を描く似顔絵を描く


つながりの木つながりの木


 来場者は、始めに7色のボールから好きな色を選び、似顔絵を描く。ボールは「つながりの木」という作品の一部となり、開催中はWEBにて、つながりの木の様子が公開されていた。来場者が増えるにつれて、「つながりの木」はより彩やかになるにつれて、来場者同士につながりを感じさせる。

路上 de ハーモニー路上 de ハーモニー


 路上パフォーマーとリスナーとの「つながり」を演出する「路上 de ハーモニー」。リスナーのリアクションが視覚化される。リスナーの気持ちがパフォーマーに伝わり、またリスナー間でそれを共有することで、ライブを盛り上げをサポートする。

ぴぴっとカートぴぴっとカート


 食材のバーコードを読むと、タブレット上に栄養素やレシピが表示される「ぴぴっとカート」。レシピは買い物客の健康を考え、追加すべき食材等を提案する。買い物客同士で食材の評判を共有することで、つながりをデザインしている。将来的には冷蔵庫の中身とも共有を図る予定だそうだ。

rakugacationrakugacation


 壁のラクガキを通してコミュニケーションをとる「rakugacation」。発想は子供が壁にラクガキをしたら叱られてしまうが、このツールを使うことで自由に描くことができるということからきている。

BeUnityBeUnity


 ライブにおいて会場にいる人の一体感を表現する「BeUnity」。観客一人一人が持っているスマートフォンの振り方や、動きにあわせて天井にグラフィックが映し出される。展示会においては、ポップな音楽にあわせて来場者が体験していた。

 「つながり展」にて展示されていた作品もまた、社会の新たな関係性やつながりを創る新しい技術であると感じられた。