ORF2013の2日目、セッション「パターン・ランゲージを企業・経営にどう活かすか」が開催された。ゲストにパターン・ランゲージを活用している企業人を迎え、ワークショップも交えて、パターン・ランゲージの可能性についての議論がなされた。


■パネリスト

岩波純生 大日本印刷株式会社 研修部

亀田和宏 大日本印刷株式会社 ソーシャルイノベーション研究所所長

小原大樹 ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社

熊坂賢次 環境情報学部教授

井庭崇 総合政策学部准教授


つくることによる学び

 「パターン・ランゲージとは、生き生きとした『質』を生み出す言語です」と井庭准教授は切り出した。
 パターン・ランゲージとは、問題がどのように発生し、どのように解決するかをパターン別に整理し、知識を共有するための方法だ。井庭研究会はこれまでに、プレゼンテーションのパターンを分析した「プレゼンテーション・パターン」などを作成している。
 もともと建築分野で始まった「パターン・ランゲージ」を井庭准教授が主に人間の行為の分野で応用したのは10年前。今ではパターン・ランゲージの学会も開かれており、着々と広がりを見せている研究である。

[セッション]パタラン2井庭崇総合政策学部准教授


突然のワークショップ実施!

 開始20分が経過した頃、井庭准教授は「みなさん立ち上がって下さい!」と声を上げ、「コラボレーション・パターン」を使ったワークショップを実施した。
 来場者は初対面同士でペアとなり、指定されたパターンを使って自らの経験について対話をする。「知らない人と話すことが重要です」と言うと、井庭准教授自身もワークショップに参加した。
 会場には、会社員、教員や義塾OB、外国人、学生の保護者など多様な人々が参加していた。来場者に感想を聞いてみると、「楽しかった」「話す内容が決まっているので話しやすかった」などの声があった。

[セッション]パタラン6熊坂賢次環境情報学部教授と来場者の方々


大日本印刷のパターン・ランゲージ

 大日本印刷株式会社(以下DNP)は、社内での暗黙知・実践知を記述した自分たちのパターン・ランゲージを作っている。DNPとパターン・ランゲージとの出会いは、DNPの岩波純生氏が、顧客との関係作りに悩む新入社員の姿を見てコミュニケーション力を高める必要性を感じ、井庭准教授を訪ねたことから始まった。
 こうして社内にパターン・ランゲージを取り入れることが決まると、社内には「分からないことだらけの新人は、どうすれば顧客と良好な関係を築けるのか?」という問いが生まれた。これに基づき、新入社員の間で「お客様とのいきいきとした関係作りのためのパターン・ランゲージ」、”LIVERELATION Pattern”を作成。パターン・ランゲージの実践によって、組織内、また顧客とのコミュニケーションがこれまで以上に活発的に行われるようになったと岩波氏は語る。

[セッション]パタラン3岩波純生氏(大日本印刷株式会社)


作り続けること、繰り返すことの重要性

 「言語は暗黙の動きに光を当てます」と井庭准教授は語る。
 パターン・ランゲージは、自分自身が暗黙で行ってきたことを言語にする。教わって学ぶだけでは光は当たらない。企業においても同様で、自分で作りながら学ぶことが重要なのだと説明した。
 ここで、熊坂教授が鋭く切り込む。「先輩の言葉を受け継いでいるだけならば、新入社員がつくった『パターン・ランゲージ』はノンクリエイティブなのではないか。重要なのは、新入社員よりもベテランをクリエイティブにすること」だと語った。
 続いて、ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社の小原氏は、「『パターン・ランゲージ』のいいところはフレキシブルなところだ」と語り、「パターンは完全なものにはならないから、作り替える作業を繰り返し、常に学び続けなければならない」と繰り返しの重要性を強調した。
 井庭准教授もこれに同意し、「単なる知識継承はつまらない。上から下に知識を流すのではなく、一緒にパターン・ランゲージをつくりながら学ぶことが良い」と語った。

[セッション]パタラン4亀田和宏氏(左)と小原大樹氏(右)


もしあなたがつくり手なら?

 井庭准教授は最後に来場者に「もしあなたがつくり手なら、どんな『パターン・ランゲージ』をつくりたいですか」と問いかけた。会場からは、よりよく働くためのパターン、パターンそのものを今後展開していくためのパターンなど、様々なアイデアが飛び交った。
 「興味のある方はぜひ一緒に取り組みましょう!」と井庭准教授は締めくくり、セッションは終了。その後も、来場者の多くが、登壇者に個別に話を聞き、来場者同士で名刺を交換するなど、会場は最後まで熱気に包まれていた。